雄花と雌花と少年
「これがギルドか?」
ケリンが孤児院を見てそう言った。
「いえ、ここは孤児院ですが…ケリンさん、この孤児院見てどう思います。」
「え、どうって…何だか覆い茂ってるなと言うところだか?」
「そうですか…。」
マイは古いと言ってもらいたかったのかもしれないが、ケリンは大昔ちょっとだけ人間と関わっただけの魔物である。基準が不明なのに新旧を答えれるわけがない。マイだって前世が人間でなかったら、初めて孤児院を見た時オンボロとは思わないだろう。別にマイは前世孤児院を見たことがあるわけではない。とは言え、学校には言ったことはあるし…普通の民家と比較してもわかるぐらいこの孤児院はオンボロなのである。第一、家の中に草が生えているのは論外だろう。外からはわからないが…。
「ところで、何故その…ギルドではなくこちらなのだ?」
「ああ…ちょっと連れて行きたい子がいるので…人間社会は魔物だけで物事解決は出来ないんですよ。」
と言いながら私は扉を叩く。扉が開くと、先生が立っていた。
「あ、マイさん!」
「ただいま戻りましたよ。」
「え、お姉ちゃん?!?!?!」
後ろから声が聞こえたかと思ったらシュウ君が突っ込んできた。
「うう…うわーーーーーーん!!!!お姉ちゃん…お姉ちゃんだー!!!良かった…良かったよ〜。全然帰ってこないし…先生怖かったし…死んじゃったら…うわああああん!!!」
シュウ君は私に抱きついて泣き叫び始めた。私はまあ、大体のことは知っているので頭を撫でていたが…横の目は冷たかった。
「この人間はなんだ?雌花に対して不意打ちとは…マイ。何故反撃しないんだ?」
『私が代弁しますが…この少年は姫様の大事な子供ですよ?貴方に何か言う義理はありません。』
「子供…どう言うことだ?マイはまさか人間の子供を産んだのか?!」
話がこじれてしまっていた。シュウ君が落ち着くまで待ち、植物の方がケリンに『黙っていないとボイコットします。』と強烈な脅しをかけ、全員が孤児院の中の椅子に座るまでしばし時間がかかった。
「ケリンさん。とりあえず、誤解を解きますが…この子は私の子供ではないです。私の主人…仮ですが…のシュウ君です。」
「主人?…まさかお前人間の下についたのか?」
「結論から言えばそうですが…人間の住処に住み着くにはそうするしかないですし…そもそも私達はそんな関係じゃないです。」
「どう言うことだ?」
「お姉ちゃん?この女の人誰?」
「うーん、誰っていうか…私の先輩で良いかなもう。」
「先輩とは何だ?さっきも言っていたが。」
「私より年が上のより経験が豊富という意味で良いです。実際そうだし。シュウ君から見たら私のお兄さんで良いよ。」
「お兄さん?え、だって女の人だよ?」
「あー性別上は彼男性なんだけど…お姉さんならお姉さんで大丈夫。とりあえず私の上の人なの。だからちゃんと礼儀は守ってね。」
「はーい!」
シュウ君は大分落ち着いたようで元気を取り戻していた。なお、性別の概念では先生の方が驚いていた。まあ、どう見ても女性だからねこの人。人間換算だと。
「すまぬ。俺の方がまだ全く理解出来ていないんだが。」
「シュウ君。自己紹介して。」
「うん!僕はシュウっていうの。お姉ちゃんの魔物使い。だけどね、僕はお姉ちゃんに森の中で助けてもらったの!だからお姉ちゃん大好き!」
ケリンは黙った。彼も昔人を助けたことがある。それと重なったのだろう。
「わかった。自分はケリンだ。しかし、愚直だな。自分を助けた魔物を手駒にするとは。恩を仇で返したのではないか?」
「え?」
シュウ君がキョトンとした。
「ケリンさん。昔と今だと違うのです。私もシュウ君も一緒に過ごしたいと互いに思いましたが…そうやって生きていくには魔物使いと魔物として上下関係を作るしか方法がなかったのです。だから別に形だけであって、私達はそんなことないです。ね、シュウ君。」
「うん!お姉ちゃんは命の恩人だもん!今度は僕がお姉ちゃん守るの!だからね僕ねお姉ちゃんみたいに強くなる!」
ケリンは再度黙った。まあ、シュウを見ている限りマイに対して敵対心も見下している様子も全く伺えない。雄花にとって雌花はものすごく重要な存在。それに迫害するのであれば…と思っていたが、そんなことはなさそうである。
「そうか。お前はまだ人間の子供だな。だったらとっとと強くなって、マイを守ってやれ。それを約束するなら俺は何も言わない。」
「うん!強くなる!」
「ふん。面白いなお前は。暇な時今度鍛えてやろう。」
「本当?!」
「え、ケリンさん。シュウ君鍛えれるんですか?シュウ君人間ですよ。ツル使えませんよ。」
「あ…ま、まあ何とかなるだろ。」
(何とかならないなこれ。)
まあ、ケリンがシュウ君を受け入れてくれたみたいなので良かったとしよう。
「あ、マイさん。服大分汚れていますね。新しいの持って来ましょうか?」
「あ…ありがとうございます。いつもすいません。」
「いえいえ。子供見てもらっているし、別に構わないわよ。」
ケリンは思っていた。自分が想像していた人間と…実際に襲撃して来た人間と…ここでは全然人間の印象が違うと。皆んなマイに対して優しいんだなと…大昔、人間と魔物が今みたいに臨戦状態になっていない状態のことを思い出していた。一応本音だが、今もそこまで戦々恐々としているわけではない。ただ、互いに人間の領土と魔物の縄張りがぶつかった時にバチバチやっているだけである。森の奥に住んでいる魔物に対し、人間側があーだこーだ言う訳が無い。本来ならば…。
(うーん、やっぱり新しい服はゴワゴワしているわね。これだけは慣れないわ…)
ケリンが色々物思いしている中、マイはマイペースなのであった。