植物からの脅迫
「あ、すいません。私とケリンは一回別行動で良いですか?」
「別行動?何故だ?」
「私街中歩くときは服着ることが義務付けられているんですよ。あの街での魔物としてのルールです。ですので服を取ってきてから行きます。後、ケリンも魔物ですし…魔物登録されていないとなると面倒くさくなるんじゃないかと。」
「お前は分かったが、ケリンに対してもそれは同じなのでは?」
「自分は雌花を見ておくということもおじいさまから言われている。マイが逸れるのならそっちに同行する。」
「…まあ、後でハンターギルドに来てくれれば何でも構わん。それにおいてはお前は行かざるを得ないだろうからまあ大丈夫か。」
総括リーダーが私を見て言った。受付嬢に報告の義務が私はある。逃げることは許されないのであった。ということで私の拠点に…
「ケリンさんは街道で待っていてくださいね。」
「え?」
「え?まさか私のプライベートを覗いたりしないですよね?」
「あ…ああ…」
実際のところ行ったところで日当たりの良い場所と何もない…今は服が置いてあるが…雨でも大丈夫なように寝床につるで作った籠を作って置いてあった…洞窟のみなのであるが本能だろうか。拠点を公開する気にはならなかった。
(ふう。一回雨が降ったから服が濡れてたらどうしようかと思ったけど…無事で良かったわ…)
普段は晴れていれば干していたし、雨が降りそうな時は寝床に突っ込んでいた。寝床は浅い洞窟になっている。雨が降ると水が流れ込んでしまうため、出入り口の下の方をツルでうまく固定し水が入らないようにしていた。とはいえ、そのまま地面にぽいは嫌なので籠を作っていた。
(まあ、すぐ孤児院直行だし…その時服変えて貰おうかな。)
マイの帽子はムサビーネ夫人からの貰い物だが、服は孤児院で借りているものである。孤児院に行く度に服を交換して貰えるのでありがたいやら何やらであった。
「戻ったわよ。」
「あ、ああ…」
「どうしたの?」
「あ、いや…たまに人間が通るのが気になってな。」
「街道だしそんなものでしょ。別に攻撃してこなかったでしょ?」
「素通りだったな。見つめられることはあったが。」
「じゃあ良いんじゃない。」
ケリンはもう一つ…と言うよりこっちの方がメインだったのだが…マイが帽子や服で完全に人間に擬態化しているなと感心しているのであった。これでは仮に人間の巣窟に雌花がいると分かった上、何とか攻撃されずに襲われずに安全に探せたとしても…見つけるのは難しいであろう。まあ、擬似スカートを見れば一発な様な気がするが…。植物に聞くという手もあるが…植物は雄花と雌花ではよっぽどのことがない限り雌花優先なのである。それ故教えてくれるわけがなかった。今回のケリンの拠点からの連絡も人間が襲撃というとんでもない事態だったからマイに連絡が来たのであって、恋愛相談とかであれば何処かで伝言は間違えなく途絶えていただろう。
「じゃあ行きましょうか。あ、うーん…」
「どうかしたか?」
「いや、私は顔パスで街入れるけど…ケリンさんはどうやって守衛に言おうかなぁ…。」
守衛の仕事の一つに不審者を街に入れないというものがある。ケリンは魔物である。とりわけ、マイとは違い魔物使いの魔物でもない。登録…はどうやっても無理だろう。シュウ君という人間とマイじゃないのである。
「まあ良いや。変な設定つけるとややこしいからそのまま行きましょう。」
マイは独り言を呟きながら歩いていく。ケリンも人里については警戒の範疇である。マイに従わざるを得ない。
「あ、守衛さん。お疲れ様です。」
「あ、マイさん。今日もまたいつもと時間が違いますね。」
「ええ…先日ハンター達が大怪我して街に入って来ませんでした?」
「ああ…あの時は大変でしたよ。ここも大騒ぎで…。」
「で、その事件に詳しい私の仲間に会ったんですよ。これから証言をギルドに伝えに行きたいんですが…一緒に入って良いですか?」
私はケリンの方を見ながら守衛に言った。
「お仲間…お、と言うことは…あ、随分身長が違いますね。体つきはそっくりですが。」
「私より1400年以上先輩ですよ。私も驚きました。」
「そうなんですか?」
「ええ…で、大丈夫ですか?問題は起こさないように言っていますが…誰か一緒に来ます?」
「いえいえ、マイさんのお仲間さんなら大丈夫でしょう。」
「あ、はい。」
誰か付けられるかと思っていたがそんなことはなかった。マイは気づいていないが、既にこの街でマイは魔物というより人間として受け入れられていた。全員ではないが…。
「なんかあっさり入れたな。魔物の自分が言うのも何だが…この街大丈夫なのか?何だか、おじいさまの対応が恥ずかしくなってきたんだが。」
「あー、私もこんなにあっさり行けるとは思っていませんでした。」
『姫様は皆さんから信頼されているんですよ。ですから、そこの雄花さん?問題起こしたら植物総出でボイコットしますから心に留めておいてください。』
「…わかった。」
植物のボイコット…まあ、私達は植物の声を聞き植物と共生して初めて生きることが出来る。それが出来なくなったら死と同じである。植物達はマイのために最終兵器レベルの脅しをケリンに刺しているのであった。
(怖…)
私も逆に怯えてしまった。なお、私はまずギルドではなく孤児院に向かう。人間が絡む場合は大体シュウ君がいないと面倒臭いのである。