魔物から見た人間の行動
(あのクソ貴族が…)
マイが打開策を考えているときに、講座でのやりとりやその後の事象についての情報が植物経由で流れて来たのであった。元々私もムサビーネ夫人は警戒していた。まあ、話を聞く限り悪気があってここを狙っている様には聞こえないが…シュウ君を傷つけたのは許さない。それが本音だった。
(まあ、あの夫人は後でシバくとしておいて…まずはこっちをなんとかしないとね。)
マイ自身も悩んでいた。まだ完璧な情報は得れていない。とは言え、人間にも魔物にも言い分がある。人間の方は理由はまあ領土拡大かなんかだろうが…とりあえず、人が住める場所を増やしたい。逆に魔物側にしてみれば居住地奪うなふざけるなである。前世の人間同士のくだらない戦争と同じであった。私は魔物である。普通であれば魔物に助太刀と言いたいところだが、シュウ君の魔物である。そんなことしたらシュウ君がどうなるか分からない。逆に人間に手を貸すのであれば彼らと戦うことになる。まあ本音言って勝てないだろう。私は植物を使った不意打ちで戦闘を仕掛ける。相手も会話出来るのであれば意味がない。まあ、後日実を言うと雄花は絶対雌花に勝てないと言う事象がわかるのであるが…それは未来の話である。
「マイさん。植物から色々お話を聞いていた様だが…何か分かったか?」
ケリンから質問が来た。彼…見た目は女性なのであるが雄花である…も勿論植物の声は聞こえている。
「彼らが言った通りですよ。はぁ…このままじゃ、全面戦争ですよ。全くどうしてこうなっちゃうんですかねぇ。」
「えーっと、すまん。自分は人間と関わったことがあるとはいえ、先ほどの植物の情報では何がどうなっているが分からん。教えてくれないか。」
「あー、うーん…。なんて言えば良いかなぁ…。」
彼らを怒らせない方法は何かないかと考えたが…諦めることにした。
「どうやら人間達はここいら一帯を開拓したいみたいです。目的はわかりませんが…だから下準備としてここら辺を調査し、危険な魔物がいた場合は駆除しているみたいですね。」
「うん?要はここの土地を人間は狙っていると?」
「その様です。ケリンさん。一応聞きたくないのですが…ケリンさんだったらこの場合どうします。」
「それは…」
『ケリン。それ以上はワシの判断じゃ。雌花よ。情報提供感謝するのじゃ。うむ。これは人間駆除確定じゃの。』
「デスヨネー。」
私は思考放棄してしまった。とは言え、投げ捨てるわけには行かない。そんなことしたらシュウ君が危ない。私は必死に考える。戦争はなんとしても避けたい。個人的だが、私達と人間がやり合った場合、不意打ちが得意な私達が間違えなく圧勝してしまう。とりわけ、おじいちゃん木はこれだけ爆発音がするからかなりの人間とやり合っていると思うが、それでもこうやって余裕を持って会話出来ているのである。人間が勝てるわけがない。まあ、おじいちゃん木はここから動けないからこれ以上の被害は出ないが…子供が何人いるか分からない。私の場合、おばあちゃんの子孫は私のみと勝手に考えているが、雄花の場合には生存率が高いので数も多い。しかもそれだけの数が1km単位の遠距離で猛攻撃してくるのである。人間に勝算があったら教えてほしい。
(はぁ…これを使うしかないかな。)
私は左腕についている魔物使いの魔物という証であるリストバンドの様なものをじっと見つめた。これがある意味で私とシュウ君を繋いでいる。良い意味でも悪い意味でも。戦争は反対である。そしてこの腕輪は人間と魔物を繋げるためのもの。ここで使わないでいつ使うというのか。
「おじいさま。ケリンさん。他の皆さん。とりあえず、今ここら辺に潜伏している人間を追い返せば一旦休戦とか出来ませんか?」
『休戦?はて、仕掛けたのは人間の方じゃ。今更逃げるなど許さぬぞえ。』
「そこをなんとかです。私の経験上、暴力で解決しようとすると共倒れします。おじいさまだって折角産んだ子供達が死ぬのは嫌でしょ?それとも人間の幹部達と同じように部下は全員手駒という思考回路だったりしますか?」
『………』
人間と比較させる。そうすることで人間と同じことをやろうとしている部分の罪悪感から考えを改めてくれないか…その願い一端であった。
『マイよ。この状況をなんとかする方法が何かあるのかの。』
「チャンスをください。私は人間だろうが魔物だろうが、無意味な犠牲は控えたいです。」
自分を殺そうとしている魔物に対しては容赦無く縛り付ける魔物が言うことではない気がするが…まあ、実際にマイ自身は殺していないから良いのかもしれない。時間と共に餓死するが…。
『うむ。ではちょいと任せるとしようかの。勿論今攻撃している輩は容赦無くワシの養分になってもらうが。』
「ありがとうございます。あ、ケリンさんお借りしてもよろしいですか?」
「俺か?」
「ええ、手伝って欲しいです。」
『わしは構わぬぞ。』
「まあ大丈夫だ。雌花に全て任せて枯れてもらってはこちらも困るからな。」
「ありがとうございます。」
それから私はケリンに戦略を説明した。彼も不可解な顔であったが、人間と普段この雌花は過ごしてるから何かあるのではないかと信じることにしていた。
「じゃあ、私達は行って来ますね。皆さんはおじいさんの木からあまり離れないように。流れ弾食らったら終わりなので。」
「うん!」
「わかった!」
かくして私とケリンはツルを使ってこの安全地帯から移動して行った。私は面倒臭いので帽子を被ることにした。手で持っていても邪魔である。