二重スパイ
「何事?」
『全く、人間は懲りないのぉ。炎魔法かの。無駄じゃというてるのに。』
おじいちゃん木は喋らなくなった。戦いに意識を向けたのだろう。
「あ、そうですよ。貴方達が私を呼んだのって人間が仕掛けてくるからとかの内容なんですか?一応私人間と住んでいますし。」
「ああ…話が大分脱線してしまったが要約するとその通りだ。こんな森の中に人間が大量に押しかけてくるなんて俺の人生の中で一回もないからな。あー、たまに迷子か何かでやってくる場合はあったけど…おじいさまや兄弟が食べちゃったみたいだが。」
まあ、森の中に…魔物の巣窟にむやみに足を踏み入れればそうなるのは当然である。シュウ君が例外中の例外である。本当に彼は運が良い人間であった。
「まあ私も魔物です。人間を食べようが殺そうが知ったことではありませんが…結局私をどうして呼んだのでしょう。雌花だから…じゃないんですよね。」
「ああ…。人間達は明らかに俺らの住処へ足を踏み入れようとしている。たまたまではなく故意的だな。おじいさまも自分も他の兄弟も人間が攻めてきたと思っている。だが、こんな辺鄙なところを攻撃する意味がわからん。街道で兄弟が人間を襲ったとかならまだしも、そんなことは聞いてないからな。」
「街道ってここから近いんですか?」
「5キロぐらいは離れているな。人間も馬鹿じゃない。要もないのに森の中に入ってくるなんて考えられん。何かしら理由があると思うが…この状況で兄弟もおじいさまも戦々恐々で安心出来ないのだ。だから、人間に親密なお前なら何か知っているんじゃないかと呼んだというわけだな。」
「あーそういうことですね。うーん、私もそんなに沢山の情報知らないんですが…念のため聞きたいですが、私が人間に肩を持っていてそれが気に入らなくて殺そうなんて考えていませんよね。」
「まさか!大事な雌花だぞマイは!それに先ほどおじいさまが言ってた通り、我々の住処に近づいた人間を躊躇なく束縛したという話もある。人間に肩を持っているとは思っていないさ。」
「あーそうですか。」
あれはたまたま私の射程範囲内に入って、かつそれ以上奥に行くと根っこで真っ二つにされるということを知っていたので慈悲で止めてあげただけなんだけど…そういう見方もあるらしい。
「まあ、そういうことでしたら…知っている範囲で話しますよ。とは言っても必要な情報はないと思いますけど。」
単結にハンター達がよく分からないがここを調べようとしていると言うことだけを伝えた。それすらミサさんとの会話からの推論ですらあるが…。むしろそれ以上私も知らない。
「調査か。」
「ハンターの受付嬢の話を聞く限りの推測なので違うかもしれません。ただ、連中も企業秘密とか言っていたんですよ。話してくれないんです。」
「そうか…参ったな。自分は狩りなら構わんが、人間とやり合いたくはないのだ。彼らの中には炎魔法使う奴らもいる。そんなの来たらたまったものじゃない。」
「植物の話では既におじいさまの根っこに炎魔法飛んできている様ですが?」
「おじいさまは例外だ。俺らでは無理だ。」
「うーん…」
私は大凡、炎魔法がきた時の対処法は知っている。言わないけど。とはいえこのまま放置は彼らが可哀想である。とはいえ、人間に手を出したら私が今度は終わってしまう。私と言うよりシュウ君の方がやばいか。以前問題的にハンターの数が多い。私が戦ったってまず勝てない。自殺する様なものである。相手は子供じゃない。孤児院ではないのである。
「はぁ。ねえ、愚痴っていい?」
「構わんが?」
「いや、植物達に。」
『姫様。どうかなさりましたか?』
「私さ、ミサさんっていうハンターギルドの受付嬢にここで何が起きているか調べるように言われたわけよ。」
『そうなんですね。』
「でさ、ここの雄花達は人間がなんで襲ってくるのか調べてほしいって言ってくるわけよ。」
『そうですね。』
「なんで私がこんなことしないといけないの?教えてくれない?私は自由に生きたい植物の魔物なんだけど。」
『そうですね…皆んなが姫様を信頼しているからではないでしょうか。』
「はあ?私そんなこと言われたって無理なものは無理よ。私をなんだと思っているの?そんな都合良いチートスキルないわよ。」
『なんですかそのチートうんちゃらとは…』
「はぁ…もういいわよ。良い案ないか考える。」
私は帽子をクルクル回しながらしゃがみ込んでしまった。爆発音もまだ聞こえる。ケリンは雄花とはいえ勿論植物の声は聞こえる。マイというこの雌花。自分よりも1400年以上若いのに何故か自分よりも年上なのではないか…それとも雌花だから何か特別な力を持っているのではないか…そんなことを彼は考えていた。
主人公が膨大なマルチタスクで潰れないか心配です。