求婚の嵐
「お前は植物の報告だと我々の仲間と聞いたが…花はどうした。」
20歳っぽい大人びた魔物が言った。
「あーごめんなさい。忘れてました。」
私は帽子をとった。私の帽子の中には頭の左上に顔の半分程度あるオレンジ色の花がついている。
「な…雌花…」
大人びた魔物が何か言ったが私はあまり把握していなかった。
『ほう、話は聞いていたが…可愛らしい雌花ではないか。お前達よかったのぉ。』
「おおー!」
何人かの魔物が叫びながらこっちにやってくる。敵意はなさそうなので攻撃しなかったが、6~8歳ぐらいの魔物達に囲まれていた。
「お姉ちゃんだ!お姉ちゃん!僕のお嫁さんになって!」
「いいや、僕の方が大人だ!僕のお嫁さん!」
「違う僕だもん!」
なんだか騒がしいな!後内容がちんぷんかんぷんである。
「お嫁さんってどういうことよ。あなた達全員女の子でしょ。」
「え、僕は雄花だよ。」
「僕も!」
「同じくー!」
は?だってどっからどう見ても全員女の子の容姿である。雄花ということはオスということだろうが…ということは皆男の娘ということになっちゃうんだけど。
『お主…本題に入る前に聞いておきたいが…自分が雌花ということを自覚しているのかの?』
「えーっと、まあ女の子ということは自覚しています。ここにいる皆女の子なのでは?」
「確かお前は人間と生活していると言っていたな。」
「言ってはいませんよ。」
20歳ぐらいの魔物が言ってきた。私を見て興奮状態になっていない女性の1人である。
「じゃあ植物から聞いた。」
「はいはい。」
「俺もちょっとしたヤブ用でな。人間に関わったことがあるのだが…人間で言えば確かに俺達は女の方が近いかもしれない。だけど、ここにいるのは全員雄花。おじいさまもそうだ。」
「え?」
どうやら人間の概念は全部捨てた方が良さそうである。ここにいるのは全員雄花…私は嫌な予感がした。だって私は植物。花粉というものは虫が勝手に運ぶ。要は植物に相手を選ぶ権限はない。
『無知というのは恐ろしいものじゃのぉ。お主の場合おそらく育てたのはおばだと思うが…本来雌花は自ら雄花の住処に行く様なことはしないのじゃ。そんな事になればこうなるに決まっておる。』
私に関心ない1人から2人を除き私は既に全員に求婚されてしまっていた。大惨事である。更におじいちゃん木は教えてくれた。本来であれば、雌花は山奥に1人で生活することが多いと。雄花が雌花を探し見つけ次第求婚を求めると。それでOKでれば受粉成立とのことである。勿論虫とかが花粉をつけて雌花につけてしまうこともある。ただ、その際は受粉にはならずその花粉を雌花が認めた場合雌花の方から持ち主を探す旅を始めるそうである。そして出会えれば…という感じとのこと。要は雌花が雄花の棲家に用もなく突っ込むのは自殺行為なのであった。
「すいません。ツッコミが追いつきませんが…じゃああれですか?私は騙されてここに呼ばれたとか?もし本当にそうならば誰がなんと言おうが絶対にここの雄花達とは縁を切りたいのですが。」
話を聞く限り最終的な受粉決定権は雌花らしい。私がはいと言わなければ受粉は成立しない。騙されたという怒りが完全否定していた。
「いや、そんなことではない。むしろ雄花は雌花の機嫌を損ねる様なことは絶対しないから安心してくれ。」
「じゃあなんで。」
『お主も知っておろう。さっきお主、ここに近づこうとした人間を駆除したじゃろ。それについて相談があって呼んだのじゃ。まあ、雌花ということも知っていたから交流という意図もあったとは否定せんが…。』
「はぁ…正直に話してくれるので及第点にします。」
『非常に助かるのぉ。ケリンよ。彼女についてはお主に任せる。お主その年でまだどの雌花とも関わったことないじゃろ。良い経験になるかもしれぬ。』
「え、いいんですか?」
「えーお兄ちゃんずるい!この子は僕の!」
驚いていた雄花は先ほどの20代雄花であった。
『どちらにせよ、その雌花は守らねばならぬ。その容姿的に150年ぐらいじゃろうか。まだ花が未発達じゃ。受粉出来るまでには大体1000年は生きる必要がある。とりわけ、ここら辺にはわしが把握している限りこの雌花を含め2匹しか雌花はおらん。そのうち1匹は21番目の子が既に婚約済みじゃ。雌花は非常に少ないんじゃ。雄花は命かけても守る必要があるんじゃぞい。』
このおじいちゃんの話によると、おじいちゃんの息子は既に2000人は超えているとのこと。生死問わないとはいえ意味がわからない。私のおばあちゃんだって600人産む前に死んでいるし…このおじいちゃんの大きさ的に多分おばあちゃんよりまだ若いと思う。しかも500ぐらいは既にこのおじいちゃんを独立し自立してどっかで過ごしているそうである。生きていれば。ここにいる6匹の魔物は6歳ぐらいから12歳ぐらいであろうか…はまだ自立していない魔物。自立の定義は年齢ではなくおじいちゃんが判断しているとのこと。それは私のおばあちゃんも同じであった。おまけで言うと、自立していなくてもここら辺近傍で過ごしている雄花もかなりいるらしい。私のおばあちゃんが住んでいた地域の常識ではあり得ない。そんなことしたら食い殺されてしまう。
主人公は可愛い女の子ですが、見ただけで皆んなを魅了する様な容姿ではありません。個人的に主人公にチートっぽい何かを持たせたくないのですよね…。