出来ることと出来ないこと
「シュウ君どこか行きたいところある?」
「うーん、もうこの街大体見尽くしちゃった。」
既にこの街に私達が来てから1年半から2年弱は経ってしまっている。初めの頃はあっち行こうこっち行こうと毎回が新鮮であったが、もう新鮮さは何処にもなかった。シュウ君だけではなく私も飽きてしまっている。
「取り敢えずギルドかなぁ。ほら、シュウ君10歳になったらハンターだし…依頼の文字とか内容とか読む勉強しないと。」
「うーん、わかった。」
行く当てがない時には大体ギルド直行なのであった。ギルドにはミサさんという魔物オタクの受付嬢や栄光パーティーというBクラス級のハンター等私達と話してくれる人たちもいる。暇潰しにはもってこいなのである。まあ、いつも通りギルドに入ると…誰かしらはこっちを向くが、私たちはハンターではないとはいえ常連客なので全員無関心である。ミサさんは受付嬢の仕事で忙しくしている。話しかけれそうではなかった。仕方なしに依頼を見ることにした。
「シュウ君って、この依頼の文字読めるの?私はまだ苦戦しているんだけど…。」
この世界の発言はほぼ日本語と変わりない。たまに固有名詞とかが違う場合があるけど…。しかし文字は日本語ではなくいわゆる記号であった。まあ、発音は記号と日本語の文字が紐付いているということもありそこはありがたかった。それこそ「リンゴ」と「apple」レベルの違いであれば私は詰んでいたと思う。植物達の中で人間の文字を理解出来る植物もちゃんといるので訳してもらえるが…植物達の伝言ゲームは光の速度ではない。タイムラグが発生する。私が訳す前にシュウ君が読破してまうということもしばしばあった。
「僕は大分読める様になったよー。先生が教えてくれるの!」
「あーそうなんだね。」
私は数日に一回しか孤児院に行っていない。そう言った授業を受ける機会というか見る機会もあまりなかった。一応これも補足しておくが…魔物は大抵人間の言葉を理解したり発言することは出来ない。ましてや文字なんて読めるはずがない。即ち、魔物であるマイは魔物換算で言うととんでもなく優秀なのであった。人間と比較すると子供レベルなのであるが…。ただ、マイは普通に一般人間と自分を比較していた。150年以上生きていると言うプライド含めてである。
「因みにシュウ君から見て面白そうな依頼とかある?」
「うーんとね…」
その後は聞き取れなかった。何しろギルドの扉が開いたと同時に騒ぎになってしまったからである。何が起きたか。おそらくハンター集団であろうが…傷だらけのボロボロの人間が何人も入ってきたのである。足がなくなって担がれてきた者…話を聞く限り行方不明…まあ食い殺されたか何かしたのだろう…と言った者たちが流れ込んできたのである。この状態では帰還途中で力尽きたハンターもいたに違いない。
「何があったんですか?!」
ミサさんが受付から叫ぶ。他の受付嬢も手が空いている人たちは救護にあたる。この場に居合わせた他のハンター達も手伝える限りで動き始めた。
「お姉ちゃん!僕たちも何かしなきゃ!」
「シュウ君。冷たく言うけど、シュウ君何が出来るの?」
「それは…えっと…応援!」
意味がわからん!シュウ君は8歳の子供。こんな状況で何か出来るわけがない。
「で、でも…お姉ちゃんなら…」
「じゃあシュウ君。私に命令して。何すれば良いのか。出来ることならやるけど。」
「え…えーっと…」
花の蜜を分配しろとか言ったら私は反発する。こんな大勢人数分まずないし…理論上は作ることは可能だが…それにしたって私の精神ダメージが壊滅的なことになってしまう。人間換算で言えば、ここで大量のおむらしをしろと言っているのと何も変わらない。それはシュウ君も理解している。また、1万歩譲ったとしても私の花の蜜でこんなボロボロの人達を治療することは不可能。と言うより私の花の蜜はポージョンでも聖水でもなんでもない。治療に使うものではない。
「で、でも…何かしなきゃ!」
シュウ君は走っていってしまった。私は呆然とそれを見る。そして予想内のことが起きる。
「おいガキ!今はお前と構っている余裕はねえんだ。帰りな!」
「え、でも…」
「何も出来ないでしょ?寧ろ今の貴方が見て良いものではないわ。」
「う…」
シュウ君はトボトボ私のところに戻ってきた。悔し涙だろうか…涙を流している。
「お姉ちゃん…僕は何も出来ないの…?」
「シュウ君。世の中には適材適所というものがあるんだよ。世の中シュウ君じゃなきゃ出来ないことはいっぱいある。第一私を制御出来るのはシュウ君だけだよ。それは忘れちゃいけない。」
私はシュウ君を抱きしめ頭を撫でてあげる。…前世で私が苦しんだ時そういうことをしてくれる人はいなかった。だから私はシュウ君にはそうやって接している。取り敢えず、荒れた場所にいるのは私も嫌なので…と言っても入り口近傍は大惨事のため埋まってしまっているため…私達は奥の方の椅子に座ることにした。私はいつもの様に机に突っ伏す。
「お姉ちゃん。」
「うん?」
「お姉ちゃんのツルで止血とか出来ないの?」
子供にしては大人の発言である。私は感心したが…
「無理。数が多すぎる。それにここは床が木だから、ツルを地面から生やせないし…第一他の人も既にやってるでしょ。」
「うーん…」
シュウ君は何かしら出来ないかと考え込んでしまっていた。子供なのに大人びてるなぁと考えている私であった。