「花」の調査結果
ミサさんは残りは任せると言うとギルドに戻っていった。私も戻っていく。ミサさんはこの後本業に戻るらしく、私はシュウ君を連れて孤児院へ行った。孤児院の先生方は半ば心配レベルでシュウ君を責め立てようとしたが、シュウ君がギルマスから貰っていた手紙を先生方へ渡すと、「大変だったのね。今日は早く休みましょう。」みたいな雰囲気でシュウ君を回収していった。私は人間ってやっぱり面倒臭くて大変だなぁと思いながら街を後にし、森に帰っていくのであった。私とシュウ君についてはこれ以降しばらく何もないのであったが…その日の夜、ミサさんはギルマスに呼び出されていた。
「それで、何か分かったかの。」
「はぁ…昼間会話したのにもう成果報告ですか?今日は残業代出してくれるんですよね?」
「お主のことじゃ。どうせ、昼間色々聞いたのじゃろ?」
「まあそれはそうですが…」
ミサさんは水筒の様な容器を取り出す。
「なんじゃ?」
「コップか何かあります?」
「うむ?」
ギルマスが目で合図すると秘書の女性がコップを持ってきた。その中に容器から液体を注ぐ。
「折角ですのでギルマスにも味見をと言うことで。」
「これはなんじゃ。」
「マイさんの花から採取した花の蜜です。私も飲みましたし、ハンターの話では栄光の方々も飲んでいるそうですよ。安心してください。」
「念の為私も毒味してよろしいですか?」
「どうぞ。」
秘書並びにギルマスが某花の蜜を飲んだ。
「なんじゃこれは?!」
「甘いですね…例えるのが難しいですが…。」
「そうなんですよ。いやー栄光の人達から聞いていたので飲んでみたいと思ったのですが…あの魔物ガードが硬くてですね…苦労しましたよ。殺されるかと思いましたし…。」
「うむ?昼間忠告したはずじゃが?仲良くせよと。」
「それはシュウさんにお任せしましょう。でですね、まだその蜜について詳しいことは分かっていませんが…栄光の人達も言っていましたけど…飲んだ後体が軽いんですよね。栄養ドリンク的なものでしょうか。」
「ほう。」
「後ここからは推論なんですけど…昔マイさんにちょっとだけシュウさんを助けた時の話を聞いたんですけどね。助けた直後、どうやら彼は餓死寸前だったみたいなんですよ。しかも森の中とはいえろくに食べ物がない状態。その時マイさんは花の蜜をシュウさんにしばらく与え続けていたそうです。」
「要は、この蜜には飢餓状態を克服出来るものであると言いたいのでしょうか?」
秘書の女性が問う。
「あくまで推論ですけどね。とはいえ、本人に蜜よこせなんて言わない方が良いですよ。本当に強く拒絶されましたし、ちょっとおちょくって見た時の殺気と来たら…マイさんと話していてあんなに怖い思いをしたのは初めてでしたよ。普段なら女の子らしくプイって感じなんですが…。」
「全く、お主は度が過ぎる時があるからのお。だから忠告しておるのじゃ。どんなに見かけが少女とは言え中身は魔物じゃ。それは忘れてはいかん。」
「肝に銘じておきます。」
「うーむ…その様子じゃと彼女が怒ると本当に怖いみたいじゃの。」
「怖いと言うより危険ですよ。ムサビーネ夫人からも聞いたのですが、彼女の花を攻撃しようとしたテイマーの魔物がいたそうですが…その魔物は半殺しにし、テイマー自身も束縛していた様です。彼女の花系統については謎の部分もありますが…そこだけは刺激しない方が全員のためだと思います。」
「うむ。」
ギルマスが秘書に何かを伝えている様だったがミサには聞こえなかった。
「他に何か分かったことはあるかの。」
「ああ。そう言えば、最近街の外の魔物について色々報告があったと思いますが…あれもマイさんの仕業みたいです。」
「色々とは?」
「マスター。見かけない魔物が出没したり、D, Eランクの初心者向けの魔物が減ったこととかについてかと。」
「そうです。まあ、マイさんが故意的にやっていると言うよりかはこれもまた花が原因みたいですが…ムサビーネ夫人との話と噛み合わせると、あの花の匂いは魔物に色々影響を与えている様です。とりわけ、人の手が入っていない野生の魔物となると顕著になると勝手に考えていますが…それによって森の魔物にも影響が出ているものかと。」
「ふーむ。じゃが、当本人は森で生活したいのじゃろ。」
「みたいですね。街中だと生活しにくいみたいです。」
「難しいのぉ。既にあの魔物はテイムされている魔物じゃ。出て行けなんて言えまい。」
「それはやめた方が良いかと。マイさんシュウ君を溺愛しています。そんなことしたらあの魔物何するか分かりません。と言うよりそんなこと起こしてマイさんを駆除とかなったら私が許しませんよ?」
「マスターそれは私も反対です。おそらくその行動はムサビーネ夫人へ喧嘩を売る様なもの。デレナール伯爵家に喧嘩を売るのは良くないかと。」
「ちょっとした出来心じゃ。ただ、何かしら対策しないとのぉ。街中に彼女が住みやすい場所があれば良いのじゃが。」
「それは意味ないと思います。彼女の花の匂いが原因なら街をそれこそ覆うとかして匂いを完全に封じ込めれるとかじゃなければ…彼女が住み着いている森もここから歩いて1時間半ぐらいらしいですし、それほど遠くありません。」
話に出ては来なかったが、マイが防臭付き帽子を永遠と被るという最終手段もある。まあ、マイがブチギレると思われるのでその案が出たとしても採用されるわけはないのであるが。結局この件は保留ということになった。