生態系の変動
「よし。持ってきたわ。あっち座りましょうか?」
ミサさんが、筆記用具と紙を持ってきた。
「なんですか?事情聴取か何か?」
「私メインは受付嬢の仕事なんだけど…まあ、これも受付嬢の仕事なんだけどさ…何かしらトラブルがあった時にお客様から話を聞くという仕事もあるわけ。」
「まあ、たまにハンターっぽくない人がギルドに来て受付嬢と話していますね。で、私何もトラブル持ってきていませんけど。それとも午前のことですか?」
「いえいえ、別件よ。ただ…最近色々なハンターとかから報告があってね。その異変と貴女の関係性を聞きたいと思って。」
「異変?」
ミサさん曰く、まあ今までもこの街周辺には定期的に魔物が出没するらしい。それが起きる度にハンターを派遣して駆除しているとのこと。まあ、そうでもしないと団体さんで街なんて襲われたら溜まったものじゃない。それはわかる。ただ、どうやら出没する魔物の種類が変化しているそうである。
「ほら、報告によると…確か貴女達がこの街に初めてきた時にキングバチに襲われたそうじゃない?あれって、ここら辺には本来いない魔物なのよ。他にも色々ここら辺にはいなかったはずの魔物が目撃されていてね。逆に今までいた種類の魔物が急に減ったりして…その激変が起きた時期が丁度貴女達が来た時期ってこと。中々聞く機会がなかったんだけど、今日丁度一緒にご飯食べたし…次いでにってことで。」
「うーん…」
まあ、心当たりがないわけではないし…隠す気もないから思ったことをそのまま言う。
「私のこれが原因じゃないですか?」
私は頭の花を指差す。今はギルド内なので帽子は外している。
「マイさんの花?」
「ええ。昔からの悪い傾向というか…私のこの花、魔物にはかなり強烈みたいでしてね。結構遠くの魔物でも鼻の良い魔物とかだと勘付いて寄ってきちゃうんですよ。その度に私は駆除しているんですが。この街近傍の森に住み始めてからもちょくちょくやってきては全員駆除しています。あー、となってくるとあれですか?私が色々魔物をやって来させては適当に駆除しているので生態系滅茶苦茶にしているかもですね。」
「自覚しているじゃないですか。」
「いや、今言われたのであーそういえば…という感じです。えーっと、となってくると私何か不味いことでもしてます?」
「うーん…そうですね…。魔物の数という意味ではあまり変わっていないのですが…強力な魔物が増えてきていてちょっとハンター達も困っているということぐらいでしょうか?」
「強力な魔物ですか…うーん、強力な魔物っていたかなぁ。」
生態系についてはマイが思っている以上に異変が起きていた。マイの花の匂いは魔物にしてみれば美味しい匂いである。しかし、マイが散々自分に気づいた魔物を駆除しまくってしまったのが原因で…野生の魔物の大半はマイを感知した瞬間逃げ出すというとんでもないことが起きているのである。逆に襲うのはそれについて無知の魔物だけである。その為、本来森から降りるわけない魔物がびっくりして街道に降りてしまったり…逆に森の奥へ逃げてしまったりと滅茶苦茶になっているのであった。そして、無知の魔物達はマイの元にやってきてしまう。本体狙えばマイに束縛されるが、付近に来た場合には街道に出てしまうとか既存の魔物を襲うとか人間を襲うとかそう言った事になっていた。勿論、そんな事は誰も知らない。生態系がおかしな事になってしまった。要はそれだけである。
(強力ってどんな魔物だろう。ドラゴンとか…あー、そういえばムサビーネ夫人の白銀狼も強力とかなんとか言っていたっけ?)
後、もう一点ある。マイは本当に自覚していないのであるが…マイが駆除している魔物の中には人間のハンター基準でCクラスやBクラスなど普通に存在している。マイのツルは変幻自在。マイのツルに引っかかった魔物は現状よっぽどのことがない限り逃げ出すことが出来ない。第一、万一があっても本体は何百メートルも先にいる。本体を見つける前に次の奇襲で終了してしまっているのである。直接エンカウントであればマイが勝てるわけない魔物もいたと思われるが、超遠距離射撃をしているマイはいわば無双状態であった。そのため、マイにとっての強力の定義が滅茶苦茶になっていたのであった。
「結構報告は上がってきていますね…まあ、栄光パーティーもBクラスですしベテランパーティーは他にもいるのでなんとかはなっていますが、Dクラスレベルの魔物が減ってきているとのことで若手ハンターで戦いたいハンターは困っていますね。まあ、薬草とかの採取は逆に安全になっているのでE, Fクラスハンターはむしろ好都合みたいですが。」
「なんかよくわかりませんが、ハンターも大変なんですね。」
「マイさん、他人事ですか?」
「別に私はそこら辺に生えている植物と変わりませんよ?日光と雨と腐葉土さえあればなんでも良いです。」
「ここのシュウさんが10歳になったらハンターですよ?孤児院の子供はよっぽどのことが無い限りハンターとして生きる以外お金を稼ぐ方法がありませんし…シュウ君にも影響すると思います。」
「うーん…後4年も無いかぁ…まあ、その時になったら考えましょうかね。私は出来ればシュウ君ハンターやってほしく無いんですけど。」
「そうなんですか?」
「だって危険でしょ?シュウ君戦えるオーラないですもん。」
「あー、まあ人は見かけによらずと言いますし…。」
2人揃ってシュウ君を見た。シュウ君は逆に私とミサさんを見る。
「お姉ちゃん達どうしたの?」
「あ、なんでもないわ。」
「なんでもない。まあ、シュウ君の未来はどうなっているのかなぁ〜って。」
「うーん、僕ね、お姉ちゃんを守れる様に頑張る!」
「魔物を守る騎士ってなんなんでしょうね。」
「さぁ…人間裏切るとか?」
「やめてくださいよ。少なくともマイさんはやめてくださいね。」
「え?私魔物ですし、人間駆除する権限あると思うんですけど。」
「いやいや貴女既にテイマーの魔物ですからね。自覚あります?」
「ないです。」
ミサさんはため息をついた。私は昔からそうであったがマイペースなのであった。
外来種を無闇に逃すと同じことが起きる可能性があるので注意。




