「花」の逆鱗
「ああもう分かりましたよ分かりました!今回だけですからね!」
「おおーマイ様!感謝致しまする!」
ミサさんは頭を机に付けてまでお辞儀した。
「うー、やっぱり食べれそうにない…あれ、お姉さん何してるの?」
「感謝の舞です。シュウ君もどうぞ。ははー。」
「え?」
個人的だが、やっぱりこの受付嬢。魔物のこととなったら病院行った方がいいと思う。とは言え私もこんな沢山いる前で花から蜜など注ぐことは出来ない。ギルドでたまに蜜を渡すこともやっていた様な気がするが人目は極力気にするのである。精神的な意味で。
「その代わり、このコップ3つを一時的に外に持ち出す許可貰って来てください。そしたら…まあ、そういうことです。」
「いいですよそれぐらい。でも何故?」
「想像してください。私がこれ持ってトイレ行って何か入れて帰ってきたら見ている人何事かと思いませんか??」
「あー、面白そうなのでそれにしません?」
「ミサさん?私のツルって2m級の魔物の首絞めれるんですけど、体感してみます?」
「いやー、経験済みなので大丈夫です。」
「え?お姉さん!それ本当なの?!」
勿論そんなわけない。経験済みなら既に死体である。騙されている少年はいる様だが…。何事も無かったの如くミサさんは立ち上がり店員の方へ向かっていった。マイは知らないのであったが、このお店たまにどんちゃん騒ぎで外で食べたり飲んだりすることを許しているお店であった。その為、ちゃんと借りたものを返すのであれば持ち出し自由であった。ということで許可を貰ったらしく渋々私はコップを持って外に出る。人目がなさそうなお店の裏に行き…ため息を吐きながら、花弁にコップをつけて蜜を注ぐのであった。溢れるギリギリだったため、量も多い。体にくすぐったく流れる花の蜜に耐えながら、コップ3杯ちゃんとある程度の量まで注ぐのであった。
(はぁ…意外に花の蜜あるのね…)
もう絶対こんなことするか!と心の中に誓うのであった。最も、マイの性格上それは無理であろうが…。なお、この後余ったピサを食べる事になる。分量的にほぼ現状の蜜を空っぽにしても入りそうにはないのであるが…余ったら残すかミサさんに食べさせるかと思う次第だった。
「ほら、持って来ましたよ…。」
私はかなり疲弊しながら、若干顔も赤いのだが…言われた通り花の蜜を注いできたのであった。私は着席してピザの残りを摘みはじめる。
「ははーマイ様ーありがたき幸せー。」
「お姉さんどうしちゃったの?」
「シュウ君。その受付嬢病気なの。放っておいて良いわよ。」
「え?病気って大丈夫なの?!」
「馬鹿に付ける薬はないわよ。」
「酷い言われ様ですね。」
お前が全部悪いと心で突っ込んでいる私がいた。
「そうなんだ!」
「シュウさん。納得しないでくださいよ。」
「私が教育した甲斐があるわ。」
「立場逆転してません?」
そう言いながら、ミサさんは私が持ってきたコップに入っている花の蜜を飲み始めた。
「え?うそ?!こんなに甘いの?!」
「お姉ちゃん?これ何?」
「私の花の蜜よ。どっかの誰かがうるさくてね。シュウ君ものあるから飲んで大丈夫よ。」
「おおー!!今日はお姉ちゃん沢山飲める!」
私は飲み物じゃありません。ただまあ、シュウ君が幸せそうな顔をしているので良しとした。今日は頑張ったご褒美ということで。私は引き続きピザを蝕む。花の蜜量を調整しながらであるが。ある意味満腹という概念がないので調整が難しかった。私の体は花の蜜を漏らすのにとんでもないぐらい抵抗がある癖に、それに至るまでに警告が殆どないというのが良くも悪くも不便だった。私は自身の排出物を飲むという趣味はないので、3つ目のコップはミサさんとシュウ君で勝手にしてくださいという事にした。
「シュウ君は良いですね。こんな美味しいものいつでも飲めるなんて。」
「え?」
「マイさんの花の蜜ですよ。」
「うんうん。お姉ちゃん滅多にこの蜜くれないよ。お姉ちゃんも嫌がってるみたいだし。」
シュウ君はミサというアホとは違い私に対してちゃんと親身になってくれるのであった。
「流石にシュウ君の願いとあっても嫌なものは嫌です。ミサさんと違ってツル使って脅したりはしないけど…あまりにも酷いと流石に絞めますよ。」
「私に対して扱いが酷すぎませんか?」
「知りません。」
「でもシュウ君。マイさんは君の魔物なんですよ?」
何か企んでるな?
「魔物使いと魔物は一種の上下関係です。だから、シュウ君がマイさんに蜜よこせと命令すれば逆らえないんですよ?」
「そうなの?!」
「変な嘘教えないでくれませんか?」
「そうです。ですのでシュウ君。マイさんに命令して花の蜜を今後も私に供給するよう…」
「ミサさん…。時と場合によっては…ホ・ン・キ・デ・コ・ロ・シ・マ・ス・ヨ?」
私は半ギレであった。世の中には冗談半分で言って良いものと悪いものがある。この内容は私の逆鱗に触れていた。流石にミサさんも気づいたらしい。
「マイさん。冗談です。冗談。そんなに怒らないでください。ほ、ほら…そのピザ美味しいですよね…。」
ミサさんは宥めに入る。身の危険を察知したらしい。
「うーん。僕はお姉ちゃんにそんなこと言わない!だって僕だって嫌なことされたら嫌だもん!」
なお、シュウ君は純粋かつ正直者であった。私はシュウ君の頭を撫でてあげる。
嫌がることをするのはやめましょう。