花の蜜
うさぎのところに言って片手でうさぎを抱える。もう片方の手でツルをほどいた。追々おばあちゃんに言われたことだが、ツルを地面に刺せば縛るのもほどくのも出来るらしい。まあ、今回は普通に救出した感じである。
「うさぎさんモフモフー。」
初めはうさぎの方も食べられるのではないかと怯えていたようであったが、こちらに敵意がないと分かると腕の中でゴロンとし始めた。
『うむ。これからしばらくはそのうさぎに捕獲について手伝って貰ってはどうかのぉ。』
「手伝うー?」
『いわゆる餌付けじゃな。』
「餌付けー?」
なんか物凄く侵害だが、生きるためにはしょうがない。犠牲は付き物である。別に殺すわけじゃないし、手伝って貰うと言う認識にしておこう。
「どうやるのー?」
『394番目の子よ。お主には立派な花が付いておるじゃろ?』
「これー?」
自分の左側の頭を指差した。
『そうじゃ。首を大きく左に傾けてみるのじゃ、ゆっくりじゃぞ。何か垂れてきたら手で受け止めるのじゃ。』
何言っているか全く分からなかったが、言われたように頭を左に傾けた。すると、何かが花の中央から花弁に滴ることが体感で分かった。分かると言うことはやっぱり花弁にも神経が通っていると言うことである。花を直接見てはいないけど。。こう言っちゃあれだが、体に水が流れる感じ。若干くすぐったいので余りこう言うことはしない方が良いと思った。
「若干くすぐったい。」
『うーむ。まあ、上達するまでの辛抱じゃな。前にも言ったが、その花はお主の急所じゃ。だから反応も大きくなる。よほど信用できるものでもない限り触らせてもダメじゃ。』
「はーい。」
ここにはおばあちゃんの木と私と小動物しかいないから誰も触らないと思うけど。
『でじゃ、その蜜をうさぎに与えてみよ。多分懐くぞぇ。』
「そうなの?」
手に付いた花の蜜をうさぎの口元に持っていく。うさぎは少し匂いをかいた後、口を付けて飲んだ。しばらく飲んだように見えたが、その後私の腕の中で丸まってしまった。
「懐いた?」
『どうかのぉ。』
(えー)
おばあちゃんが分からないみたい。だけど、丸まっているし襲う気配ないから大丈夫かな。実際、そのうさぎはしばらく私のそばに遊びに来てくれた。うさぎを背後からツルで捕まえる。捕まえたらお詫びとして花の蜜を上げる。そんな感じでツルによる訓練は続いていた。花の蜜を与えるのが面倒臭くなったので、うさぎを持ち上げて花の方へ持って行こうとしたら
『ダメじゃ!そこは急所じゃぞい。』
と怒られてしまった。
「だってー、蝶々や小鳥だったらそのまま吸ってるよー。」
私の花の香りがよほど好きなのか、中に溜まっている花の蜜が好きなのかは分からないが…知らないうちに私の蜜を吸いにくる時も増えてきた。
『その野うさぎは自分でお主の花まで届かんじゃろ。お主も花の性格の位置まではわからんじゃろ。あと、うさぎの顔も大きいのじゃ。お主の花に甚大な被害が出てからでは遅いのじゃ。』
「はーい。」
怒られるのは嫌なので以降大きめの動物を直接花に近づけることはしなかったが、私はおばあちゃんに怒られた意味を生まれてから100年間の間に心へ刻み込まれる事になるとは当時は理解していなかった。生まれて90年ぐらい経つと、もちろんもう懐いたうさぎはおらず…泣きながら土に埋めた記憶もあるが…手で掘るの大変だったけど…大きめの動物でも捕獲訓練を実施していた。理由は分からないが、その時には草原にやけに鹿が多く訪れていた。時折、草食動物の鹿といえど…まあよくよく考えると私も動ける植物なのかもしれないが、襲われそうになる時もあった。ただ、うさぎとの修行の成果もあり攻撃される前に相手の足をツルで掴んで転ばしたり地面に固定させる事も出来るようになっていた。
『うむ、上出来じゃな。』
「えへへ。」