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一輪の花による「花」生日記  作者: Mizuha
幼子の戦い方
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死への絶望

「さんじゅうーさんじゅうー…はぁはぁ…さんじゅう、うーまだまだ、さんじゅう!」


 ギルド内で騒めきが起きた。全員既にシュウ君は60以上の数字を言っている。或いは数え終わったので何も言わず戻ってくる。どっちかだと思っていただろう。まさか30を連打して帰ってくるなんて誰も想像しておるまい。シュウ君は大人3人を連れてギルドに戻ってくると、手を離した後息を切らせながらヨロヨロ私の方に歩いてきた。


「お、お姉ちゃん…どう…はぁ…はぁ…植物さんと…会話…」

「シュウ君…」


 私は走れない。だけど早くシュウ君を抱きしめたい。その両方が私を前に押し出し、若干前に倒れ込むかのようにシュウ君に抱きついた。


「お、お姉ちゃん…??」

「シュウ君、ありがとう…私なんかのために…う…ああ…ありが…うわあああああ…」


 私はそのまま泣き崩れてしまった。皆んなが何事かと動揺する。その沈黙を叩き切るかのように、栄光の走った男性の方が喋り始めた。女性の方はシュウ君ほどではないが息をまだ切らしている。


「この坊主は30から先はずっと30と言い続けていた。要は60なんて一言も言っていねぇ。植物の声が聞こえるならそれが分かるはずだ。この坊主、機転を利かせて木々が多い道を走っていたしな。でだ、何でお前は手を上げている?」


 植物の伝達方法については以前、栄光とちょっとだけ話したことがあった。とりわけ、魔術師の女性が一番興味を持っていたようだけど。某ハンターは唖然としていたが、直ぐにシュウ君と走っていた仲間に言う。


「おいおい。ちゃんと60って言っていたよな?」

「ああ。言ったな。」

「嘘よ。私も彼もちゃんと聞いていたわ。まさか、私たち2人とも難聴とか言い訳しないわよね?」


 シュウ君は信用出来る証言者2人と某ハンターを1人連れて行くことにより言い逃れさえできないようにしていたのであった。恐ろしい子である。


「おいおい。よくよく考えてみろ。これはこの魔物のテイマーだぞ。事前打ち合わせしてまた何か企んで…」

「いたからなんでしょうか?」


 ミサさんが割って入る。


「仮に何かしら企んでいたとしても、貴方が手を上げているのは事実。即ち植物と会話出来ていないという証拠になります。要は随分話がズレてしまいましたが、植物達による貴方の仲間がマイさんに襲われたと言う証言は真っ赤な嘘。いえ、逆にそこまでして嘘をついた理由の方が知りたいですね?ギルマス?」


 ギルマスは黙認していたが、目がギラっと光っていた。勿論マイはそれどころじゃないので見てはいないがミサさんは満足そうな顔をしていた。既にここまでボロを出しまくってしまった某ハンターたち。流石にこれ以上は無理だと判断したのだろう。彼らは降参する…のではなく実力行使に出た。


「おらどきやがれ!」


 私とシュウ君の幸せの時間を破壊するが如く、私の側にいた某ハンターが私の首に腕をかけ人質にとった。


(ぐ…苦しい…)


 念のためだが、マイは植物の魔物である。要は気孔が至る葉っぱについているためそこでも呼吸は出来る。とはいえ、体つきは普通の女の子。肺があるかどうかは知らないにしろ、鼻や口を使って呼吸していることにも変わりはない。


「おらてめえら、一歩でも動いてみろ?この魔物の首が飛ぶぜ?」


 某ハンターはナイフを私の首元に突きつけながら撤退を図る。仲間もその側に行く。


「お姉ちゃん!!!!」


 シュウ君は急に私から引き離されて動揺していたようだが、現状を理解し走り出そうとする。


「待ちなさい!」


 側にいた栄光の女性ハンターが腕を掴んだ。


「嫌だ!お姉ちゃん死んじゃう!嫌だ!お姉ちゃんは僕が守るんだ!やだ!離して!!!」

「おらクソガキ!黙れ!おらおらお前の魔物が連れていかれる様子を指を咥えてみてな!」


 私は恐怖に怯えていた。首元にはナイフが突きつけられている。私は植物の魔物といえど、首を傷つけられたら人間と同じ運命だろう。ツルを使って打開しようかと考えたが、床は木の板である。ツルを刺す場所がない。と言うより下手に動いたら何かする前に首が飛ぶ。その恐怖で何も出来なかった。


(おばあちゃん、ごめんなさい。ごめんなさい…。)


 おばあちゃんは言っていた。人間は危険だと。関わってはいけないと。私は過ちを犯した。自ら意図的に関わったわけではない。ただ、1人の人間の子供が助けを求めて…いたかもよくわからないけど、元人間の心が彼を助ける形になった。その結果がこれである。善意でやったことが最終的に全部マイナスの結果で返って来てしまった。おばあちゃんに天国でなんて顔を合わせれば良いかわからない。おばあちゃんが沢山産んだ子供の最後の生き残りの私である。その命さえここで途絶える。さっきから涙がこぼれっぱなしだったが、死の恐怖で泣き崩れてしまっていた。

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