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一輪の花による「花」生日記  作者: Mizuha
幼子の戦い方
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子供の発想2

「お姉ちゃん!お兄さん!みんな聞いて!」


 ガヤガヤしていたが、シュウ君が叫び、ギルマスが静粛にと言ったこともありシュウ君の声が通るようになった。


「僕ね。これからいーち、にーって数を数えるから、60になったらお姉ちゃんとお兄ちゃんは手をあげてね?」

「え?ええ…」

「あ?また何かこの魔物にテコ入れか?」

「シュウ君?何がしたいの?」

「僕ね、これからお兄さんやお姉さんと一緒にお外を走りながら数を数えるの。それでね60になったら手を上げるの。植物さんと会話出来るなら60になったら僕の声を聞かなくてもわかると思う!」

「え、でもシュウ君。確かに分かるかもしれないけどタイムラグがあって…」

「要はお前が1から数えて60って言ったら手を上げりゃいいんだろ?それとタイムラグってなんだ?60って言ったら植物が教えてくれるんだろ?始める前から降参ということなら俺は好都合だが。」

「………」


 シュウ君も知っているはずである。私が遠くの植物と会話する場合、伝言ゲーム形式で伝わってくるので時差が生じてしまうことを。要はシュウ君が60と言ったとしてもすぐに私は手を上げることが出来ない。対してこのハンターは植物と会話出来ないから心で数えて60と思ったら手を上げるだろう。即ち確実的に相手が先に手を上げることになる。シュウ君の提案したゲームはさっきもそうだが、後に行動を起こしたほうが不利。シュウ君はそれを理解しているのだろうか。


「じゃあ行くよー、せーの。いーち、にーい…」

「あ…」


 シュウ君はそれだけの説明をすると走り去ってしまった。勿論手を繋いだ3人の男女を連れてである。私は仕方なしに、植物達に問い合わせる。


「何度もごめんね。シュウ君が60って言ったら教えて欲しいの。どこ走っているかわからないけど、みんなに伝えれば分かるはずだから。」

『了解しました。姫様もお疲れでしょう。我々も声が聞こえましたら早急にお伝えいたします。』

「ありがとう。」


 人間達は勿論植物の声は聞こえていない。しかし私の声は聞こえている。要は私が何かしら頼み事を誰かにしているかは分かる。対して、某ハンターは心の中で数を数えている。喋って数えたら植物と会話しているという概念が消えるためである。要は周りに話しかけるという余裕はない。この段階でどっちが植物と会話しているかなど一目瞭然なのだが…マイが考えている以上にシュウ君は上手だった。


『姫様。』

「どうしたの?」


 私も心の中で数をカウントしているが、まだ40秒程度。なお余談だが、年齢が若いと1秒の体感が長くなる。要は大人が60をカウントしても子供はまだ体感50sぐらいというのがよくある。だから、私にしても某ハンターにしても心で数を数えるのは得策ではなかった。


『シュウ殿は物凄く素晴らしい人間でした。私も感服いたしました。』

「え?」


 いきなりよくわからないことを言われてしまった。しかしその後の言葉は衝撃的だった。


『シュウ殿は30を数えた後、ずっと30、30と繰り返しております。おそらく60と言う気はないと思われます。』

「え???????」


 私は唖然としてしまった。そしてその後よくよく考えてみる。要はこのゲームは心の中で数を数えたら負けなのである。いや、心云々の前に数を数えたら負け。数を数えるということ自体がトラップなのであった。シュウ君の閃きはまさに大人では出来ないこと。ここにいる全員がシュウ君に騙されていた。


「う…」


 私はシュウ君がここまで一生懸命考えて私を守るために必死に叫びながら走り回っているのを考えただけで心が崩れ落ちていくのが分かった。考えれば直ぐに分かる。子供1人が大人3人を連れて大きな声で数を数えながら街中を走り回る。周りから見たら異常者だろう。その上でも必死で走り回りながら叫んでいるのである。私の涙点は残念ながら脆い。涙を流さないようにするのに必死であった。最も、当本人は子供のためそれが恥ずかしいこととか考えていないのであるが。


「ほら、60って言ったって植物が言ったぞ。」


 某ハンターは手をあげた。勿論私は手をあげない。60はおろか31すら言っていない。ハンターは私を見てニヤッとした。


「おうおう、どうやらお前やっぱり植物と会話出来るなんて嘘だったんだな。な?お前らもそうだろう?」


 他のハンター達は疑心暗鬼の顔をしていた。なお、シュウ君はまだ走りながら叫んでいる模様。ただ、少しずつこっちに向かっているようである。


「うん?ちょっと早すぎたか?…あーすまんすまん、植物が聴き間違えたみたいだ。今60だな。」


 私は感情が明後日の方向へ行ってしまっているため、会話出来ない。ただ、私の無言が返って某ハンターを焦らせていた。流石にもう60言ってるだろう。ただ、この魔物はまだ手を上げない。あのガキワザとゆっくり数えているのか?そんな不安を彼によぎらせる。


「なんだ?お前やっぱり声聞こえていないんじゃないか?もう60なんて当の昔に言っているぞ?それともあれか、先に言われて泣き惜しみか?まあそうだわな。これで俺が植物の声が聞こえていることが判明。お前は自分のテイマーにさえ裏切られた。まあ安心しな。本来人間を襲えばテイマーの魔物は殺処分だが、お前は希少種だ。俺らが代わりにお前の新しいテイマーになってやるよ。」

『姫様。もう時期帰ってきます。シュウ殿も疲れているご様子です。私が言うのもアレですが労ってあげて頂きたいです。姫様の救世主ですよ。』


 分かっている。これだけこのハンターがボロを出しまくったのも全部シュウ君のおかげである。ただ、私は涙点限界…心も限界であった。そのうち、声が聞こえてくる。

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