正論の罠
「ほら、何も喋れない。黙認ということは認めたも同然だな。ほら、早くここのギルマス出せ。で、ハンター指示しろよ。森の中に俺らの仲間がいれば証明完了だ。」
『姫様。このままでは奴らの思う壺です。何かしら打開策を…』
私の弱点はいくらかある。そのうちの一つがコミュ力がない。いや、確かに普通の状況であれば会話出来るし反論も出来る。ただ、ここまで巧妙に組まれた悪どいやり方の場合パニックになってしまうのである。今回それが完全に裏目に出てしまっていた。いや、最悪はツルで絞めれば良いがそれをやってしまったらそれこそ終わりである。受付嬢の1人が奥の方へ上がって行ったのでギルマスを呼び出しに行ってしまったと思われる。どんどん私が不利になっていく。
「なあ、聞いてもいいか?」
少しの沈黙の後、栄光のハンターのメンバーの1人が声をかけた。奴らが受付嬢にクレーム出していた時にはいなかったから、途中から入って来たんだろうか?
「なんだ?」
「途中からで済まないが、お前植物と会話出来るのか?」
「ああ。」
「どうやったら会話出来るんだ?いや、あそこの少女は植物の魔物だから納得しようと思えば出来なくはないが…お前は俺と同じハンターだろ?そんなことが出来たら、薬草採取とか明らかにやりたい放題で一瞬で金稼げると思うのだが…それにしては装備が貧弱だからな。ちと疑問に思ったんだ。」
「あー、そうだな。俺は昨日こいつにツルで足を縛られただろ?」
植物と会話出来るとか訳わからないことを言っているのは、昨日ギルドで仲間を助けるために控えていたハンターである。
「その時からだな。聞こえるようになったのはな。だから、まだ会話出来るということによる影響が少ないんだ。ただあれだろ。そんなことをしてしまっては周りから疑われたりする。だから黙っていたんだがな。今回は仲間がこの魔物に捕まっちまったからしょうがないというわけよ。安心してくれ、必要最低限以外で植物と会話はしないからさ。」
「そうなの?!」
その発言にびっくりした人がいた。シュウ君である。
「僕、お姉ちゃんと歩くときこうやって腕にお姉ちゃんが巻き付いてくれるの!ということは僕も喋れるようになる?!」
シュウ君は私のツルと繋がっている左腕を上げた。
「そのうちなれるんじゃないか?おっと、まあお前の場合はその魔物を制御出来ない罪人だ。そんなことよりこれからどうやって生きるか考えるんだな。仲間を攻撃した魔物のテイマーだぞ?未来はないと思った方がいいがな。ハハ。」
「シュウ君。一応言っておくけど、シュウ君は無理だよ。というより、そんなこと出来たら私それこそ人間全員敵になるんだけど。」
私のツルに巻きつかれれば植物と会話出来る。そんなことはあり得ない。万一そんなことがあったなら、まず私とベタベタなシュウ君はとうに会話出来ているはずだし…それこそ色々な人間に狙われてしまう。私と同じ種類の魔物…知っている限りでは全員生きていないが…が乱獲される恐れすらある。第一、私だって植物とある程度会話出来るようになるまでに40~50年かかっている。ちょっとずつ会話出来る範囲が増えていった感じ。メイに至っては成長段階だったため、同じ種類でも会話はまだ殆どできていなかった。
「えー。どうしてどうして!あそこのお兄さんは喋れるって言ってるよ?!」
「シュウ君。私のツルにそんな能力はないの。あの人が言ってること全部嘘よ?」
「ほう?どこがだ?証明してみろ?あ?」
私は再度黙認する。証明しろと言ったって目撃情報0である。それこそ、植物達なら証言をいくらでもしてくれるだろうが人間に植物の声は聞こえない。シュウ君はハンターの声を聞きまた怯えて私の背中に隠れてしまった。
「これは一体なんの騒ぎじゃ。」
ギルドの奥の方から年配のおじさんがやってきた。おそらくこのギルドのギルマス…いわゆる管理人だろう。
「お、あんたがこのギルドのギルマスか?」
「そうじゃが。」
「なんだよお前らのギルド。魔物の教育云々とかいう割には全然なっちゃいねえじゃねえか。お陰様で俺らの仲間がお前らのギルドの魔物に襲われちまってよ。」
「なんじゃと?」
某ハンターがどう言った問題が起きたか、その魔物を俺らが引き取るとかもう滅茶苦茶にも程があることをギルマスに話しているなか…受付嬢のミサさんが再度声をかけてきた。
「ねえ、中々私喋れなかったんだけど…本当にそのようなことをしたのですか?私には貴女がそんなことをする魔物とはとても思えないのです。」
「思わないでください。そんなことしてません。でっち上げてるだけです。」
「で、ですよね。」
ミサさんが安堵の顔をした。まあ、容疑者の話を速攻信じてしまう受付嬢はどうなのかと言う課題はありそうだが、ミサさんは味方であってくれるようである。
「ですが、やっぱり皆さんあのハンターが言っていることが正しいと思っています。疑っている人もいるとは思いますが。とはいえ、マイさんもお答え出来ない様子でしたし…。」
「証明しようがありません。昨日植物達から何か企んでいると言う話は聞いていたのですが…流石にこれでは私もどうしようも…」
「で、でもほら…あいつら、仲間が貴女に襲われたとか言っているじゃないですか。襲っていないのであればそのまま言えば…」
「あいつらが深夜に私を襲ってきたので撃退しました。森の中にちゃんと縛り付けてありますね…。森の中で襲われたこともあり、火を使って周りを明るくしていたので危うく山火事が起きるところでしたよ。今から考えれば、完全にトラップへ引っかかったことになっているわけですが…。」
ハンター連中を捕まえなければ私が死亡が誘拐される。捕まえたとしても、火を用いて山火事が起こせれば全部私の責任にしてしまえば良い。どっちもダメならおそらく周りを説得するためのネタを準備してきたのであろう。世の中、正論は正ではない。説得力があり、皆んなが納得すればそれが正なのである。例え内容が嘘八百でも。まさに巧妙な手口であった。敵ながらあっぱれという…気はしないな。最悪である。
私が聞きたいこと。先生でも上司でもなんでも良いです。上が自論を正論として並べて私達を強制的に動かそうとした時、どう立ち向かいますか?