植物と会話出来る人間
「お姉ちゃん、今日も来てくれたんだー!」
シュウ君は元気なものである。まあ、子供だからこそではあるが。
「シュウ君。ちょっとお願いがあるんだけど、今日は午前中から一緒にギルドに来てくれないかな?」
「うん?わかった。」
孤児院の子供達からクレームが来てしまったが先生達がなだめていた。いや、本当に申し訳ない。こんな下らないハンター連中の面倒を見るぐらいなら子供達に振り回されていた方がよっぽどましである。そしてギルドに入ると騒がしかった。
「おい!言ってんだろ!俺らの仲間があの禁止区域にいる魔物に襲われたんだ!今すぐ連れてこい!」
「…とは言われましても、先日貴殿方にお伝えした通りあの森は進入禁止です。それに貴殿方は謹慎中のはずです。どうして早朝からそちらに行かれたのか…」
「うるせえな。俺らにゃ俺らの都合があんだ。森を調査すればわかる!そうすりゃ、俺らの仲間が言うだろうよ!街道を歩いてたら魔物に襲われたってな。しかもテイマーの魔物だ!そいつは処分。だが俺も慈悲はある。俺らがその魔物を殺さないで引き取ってやるよ!」
ギルド内が騒然となっており、昨日私を捕獲しようとしていたハンターが何か言っていた。
「お姉ちゃん…怖い…」
シュウ君に至っては、こんな怒鳴り声が聞こえるだけでも怖いのだろう。私の背中に隠れてしまった。理解する以前の問題である。面倒毎に巻き込まれない…と願うのも多分不可能なので受付嬢のところに行った。
「すいま…」
「おうおう、噂をすればなんとやらか?自首しにくるにはちと遅いぞ?」
「???」
何言っているのか全く分からない。自首?私何か悪いことした?
「自首ってなんですか?」
「お、そうかお前魔物だったな。悪い悪い。」
初っ端喧嘩売られた。買うよ?え?
「自首っていうのはな。悪さしたから報告しにくるもんなんだよ。ただな、事件が発覚する前に…」
「えーっと。伊達に150年生きていないので意味はわかります。そうではなくて、私がなぜ自首しなければならないんですか?」
その途端、相手がニヤッとするのが分かった。
「やっぱり魔物じゃないか。何が悪いのかも理解出来ないとは…。おいおい、ここの街じゃ魔物育成しているそうだがちゃんと教育してるのか?え?」
予め言っておく。ムサビーネ夫人はまあ貴族であり税金使って魔物育てるようなお手本といえば「うん?」と言ったような人間ではあるが、少なくとも街の中で魔物によるトラブルを起こさせないように投資していることは間違えない。実際孤児院の先生からもその試みによりトラブルは減っているということは聞いた。私もシュウ君と共に何回か参加させて貰ったが、あの夫人時折怖いという問題点はあるものの皆んなに正しく指導しようとしていることは理解出来るし…前世の私の上司とは違いトラウマや鬱になるようなことはしていない。要は充分に教育しているのである。私の思考回路の中で彼女にこいつら喧嘩売ったな?と怒りが湧いてきた。
「何が悪いのでしょうか?」
私はシュウ君の腕をツルで巻きながら問いかけてみる。シュウ君は怯えながら私にくっついていた。
「おう教えてやる。お前今朝俺らが街道を通ってきた時俺らを襲っただろ?で、2人森に連れて行ったな?さあ、逆に聞くぜ?どこが悪くないか言ってみろ?」
「は?」
ごめんシュウ君、堪忍袋切れそうだわ。殺しちゃったらごめんね。
「えっと…どっから突っ込めば良いのかわかりませんが、とりあえずそんなことはしていません。」
「おいおい、見てみろよ。俺らのパーティーの数?わかるか?数?2人。2人いないだろ?そして森の中に2人いるんだよ?分からないのかい?」
「念のため聞きますが、森の中にいる証拠は?」
「は?ここのハンター連中の誰かが行けばわかることだろ?」
「…まあそうですね。」
「だそうだ。本人が森の中にいるって言ったぜ?ほら、早く森の中調査しろよ?え?」
私は頭を抱えていた。もう滅茶苦茶である。
「マイさん。シュウさん。」
受付嬢のミサさんが声をかけてきた。
「な、なに…?」
シュウ君はよく分かっておらず、ただ怒鳴り声で怯えてしまっている。
「お聞きしたいのですが、やはり街道を通っている時に襲ったのですか?」
「えーっと。」
「まず、前提条件が崩壊しています。街道に通っている人をわざわざ襲うほど私は暇ではありません。」
「あ?証言もちゃんとあるんだぜ?な?」
「ほう。」
あの時は深夜である。第一連中は森の中に入ってから捕捉した。証言人がいる訳ないし、いたらグルである。
「おう。ちゃんとそこに生えていた植物が言っていたぜ?」
「は?」
あまりの発言に私は思考停止した。
「え…お兄さん達も植物と会話出来るの?」
シュウ君が驚いた顔で発言した。状況を見ていた他のハンター達も流石に彼らに振り向く。
「ねえねえ。この人達貴方達植物と会話出来るの?」
観葉植物に問合せである。まあ、予想通りの結果が返って来た。
『出来る訳ありません。』
「ほら、今そこの苗木が出来てるよって言ってるぜ?」
「念のため、何か確認取る方法ある?」
『…彼らの側の苗木が、自分の声が聞こえるなら手をあげてみろと彼らに言っています。手を上げるそぶりすら見せませんのでありえないかと。』
「全く、やっぱり植物と会話出来ないお前らに証明するのはちと難しいな。とはいえ、街道の植物がそう言っているんだ。それで充分だろ?」
「そんなこと街道の植物さん達は言っているの?」
念のため簡略に内容を伝え確認して貰う。15s弱で返答が来た。植物達の伝言ゲームは滅茶苦茶早い。
『いいえ?誰もそのようなことはおっしゃっていませんでした。むしろ嘘をつくなと激怒している模様です。』
「な?お前も会話出来るんだってな?植物達はお前の行動見てるんだぜ?残念だったな。」
私は何も喋れなくなってしまっていた。いや、冷静に考えれば彼らは私を誘拐するために嘘八百言っているだけなのだが、証明する方法がない。
世の中は相手を説得出来ればそれが正しい理論となります。逆に説得出来なければ間違った理論になります。例え中身が逆でも。今回はそう言ったネタにしました。世間は怖いですねー(棒)。




