拠点への帰還
「そう言えば貴女達も向かわなくて良いのですか?栄光の方々は信頼置けると思いますが、立入禁止区域と言えど、範囲はそれほど狭くなかったはずです。探すのに苦労されるのでは。」
「あ…そうですね。うーん…」
私はシュウ君を見ながら言った。彼を街から遠くまで連れていくのには抵抗がある。言わば体力面と幼すぎるのである。
「ねえ、そっちの様子はどう?犯人とか?」
『そうですね。逃げている犯人は門番でちょっと道草を食った模様です。急に門を走り去ろうとしたらしく理由を問われたどうとかですかね。縛り付けている犯人は現時点で生存しています。魔物の気配もないですし、食い殺されることもないでしょう。私が先程得た情報の範囲内ですが。』
「お姉ちゃん?また植物さんと会話?」
「うん。まあ時間との戦いかな。ミサさん。こう言う場合ってやっぱり魔物が悪くなるんですか?」
「何がでしょう?」
「襲われたとは言え先に手を出したのは私です。昔からそうやって生きて来たので。人間社会では先に手を出した方が負けですよね?魔物社会では通用しませんが。」
先に手を出したから逮捕なんてものは人間ぐらいである。いや、先に手を出したら逮捕か。出された方が死ぬけど。先に手を出す方が悪い云々の前にやられた側はどんな言い訳をしようが死ぬのである。肉体が死ぬか精神が死ぬかの違いぐらい。だから私は、人間時代からこの理不尽さに恨みを持っていた。
「状況にもよりますが、今回はあからさまに相手が悪いと考えて良いと思いますよ。逃げていった人から察するに確かこのポスターをじっと眺めていた方々だと思います。私の記憶違いではなければ。たまたま居合わせて質問されたので、テイマーの魔物が居着いているから近づかないようにと言った記憶がありますし。」
注意されたからこそ見に行きたくなる。その気持ちはわからなくはない。私だってそう思う時がある。だから、このポスターには万一があれば命を保証しない。言わば死ぬぞ?と言う脅しを入れて貰ったりしたんだけど。しかもテイマーの魔物とちゃんと説明もしてくれているみたいである。それで攻撃しに来ると言うのはどう言うことなのだろうか?探しに来たけど敵意なしなら、私は森の奥の方に逃げるだけにしたかも知れない。
「取り敢えず、私の住処だし見にいってみますか。シュウ君も来る?無理しなくても良いよ?」
「行く!お姉ちゃんを狙った奴、許さない!」
「あらあら、かわいい騎士さんだこと。」
「ミサさん?絞めましょうか?」
「おお怖い怖い。…折角ですし、馬でも出します?」
「うーん、無理じゃないですか?私もシュウ君も乗れませんし。」
「あら残念。今度乗り方覚えた方が良いですよ?」
「シュウ君はまだしも、私は無理じゃないかなぁ。」
私の足は足もどきであり、人間の足ではない。直接見ることが出来ないので見たことはないが、多分植物の根っこのようなもので構成されているはずである。要は馬に跨がれない。まあ、ミサさんに声をかけた後、私とシュウ君は私の拠点に向かった。
「久しぶりに街でた!」
まあ、シュウ君は数ヶ月孤児院と街の中をお散歩していただけだからね。新鮮かもしれない。
「今ははしゃいでもいいけど、森の中入ったらダメだし私からあまり離れないでね。ツルで縛っちゃうよ?」
「えー、お姉ちゃん!いいじゃん!」
「私はシュウ君をそんな我儘に育てた覚えはありません。」
「ムー!」
犯罪者狩りに行くような雰囲気は全くなかった。というより上下関係が滅茶苦茶である。まあこの方が面白いから良いのだが。10年も経てば見かけ上シュウ君の方が上になる。その時どうなるだろう…。
『姫様。どうやら栄光の一味が逃げた1人を捕まえたようです。』
「お?」
『なんでも、余程急いでいたのが、姫様が絡めたツルがつきっぱなしだったようですね。馬鹿なものです。』
植物に馬鹿にされているようじゃ終わりだな。
「他の状況は?」
『確保したハンターを連れて行こうとしたみたいですが、抵抗したとのことなので気絶させて側の木に縛り付けてあるとのことです。見張りもいるようですね。栄光のメンバー3人は既に姫様の拠点に到達し調査を始めているらしいです。』
めっちゃ早いな。40分ぐらいか?うーん、まあ私が歩くの遅いし…本格的なハンターなら体力もあるだろう。彼らは走ったみたいだし。更に先に逃げた犯人を捕まえる技術。魔法か何かの強化魔法でもあるのだろうか?
(良いなぁ魔法。私も使えたら良いのに。)
魔法を使わなくてもかなりのことが出来ることを全部棚上げにしている私であった。そして森の入り口?と言うより街道を抜けて森の中に入る。シュウ君も一緒についてくる。
『どうやらまだ栄光のメンバーは束縛したハンターどもを見つけていないようです。』
「え?そうなの?」
私達よりとんでもなく早くついていたはずなので意外だった。
『どうやら逆方向に進んだようです。』
「あー。」
まあ詳しい場所は伝えていないからそうなるだろう。追っての1人が口割るとも思えないし。
「シュウ君。私の背中に捕まって?」
「えっと、こう?」
おんぶである。
「そうそう。しっかり捕まっててね。」
シュウ君を私に縛り付けた後、ツルを使った雲梯で移動していく。街道は木が少ないからこの移動はかなり厳しい。逆に森だからこそできる技であった。早速栄光メンバーを見つけて着地する。
ツルを用いた雲梯って実際早いのかな。