制裁
「シュウ君。良い?今回の件、敵はハンターギルド内にもいるらしいから…絶対に私から離れないでね。」
「う、うん?」
私はシュウ君を右側にし、左手首に私の右側のツルを巻き付ける。
「え、えっと…?」
「私の魔物使いということを象徴しておこうと思って。」
犯人がどこにいるかは既に植物から情報を得ている。入口入ってかなり近くの左側。まあ、簡単に逃げれるようにする為だろう。普通に武器も持っているらしいのでシュウ君に何かさせないようにするという意図も込められている。
「じゃあ行くよ。」
「う、うん!」
シュウ君は若干状況は読み込めていないようだが、6歳だし別に構わない。私の側にいてくれれば十分である。扉を開けると、まあいつものように何人かのハンターがこっちを見た。シュウ君はハンターではないが、魔物使いになり講習にたまに行ったり暇つぶしに来たりとハンターギルドにちょこちょこ顔を出している。まあ、いつも私と一緒だけど。だから物珍しさも何もない。そのため、ちょっと見られた後みんないつものように視線をずらした。私達は奥へ入っていく。
『姫様。対象のハンターがギルドを出たようです。』
「了解。」
咄嗟に私は後ろを振り向き、ツルを伸ばしてターゲットの足を縛った。
「グハ!」
大きな音が響く。転倒したらしい。
「シュウ君。こっち。」
「え…ええ?!」
「なんだなんだ?」
ギルドが若干騒然となる中、私は確保したハンターの元に行った。
「こんにちは。」
「あ…ああ、ってこれは…?」
「手荒い挨拶失礼しますね?」
彼の足と私の左側のツルが繋がっている。
「お前…」
「貴方のお仲間は既にお縄です。早くしないと魔物に食い殺されますよ?」
「チッ。冗談じゃない!」
ハンターは私のツルを持っていたナイフで叩き切り走り去っていってしまった。
(あーあ。まあ良いか。)
出来ればとっとと全員拘束したかったが、私の出来ることではこれぐらいである。第一目的は達成出来た。
「おい!何してるんだ!」
とあるハンターが私に苦情を言う。
「何もこうもアレを違反したハンターに対して制裁を加えに来ただけですよ?何か問題でも?」
私はギルドに貼ってある、立入禁止区域のポスターを指さした。
「あん?」
私に叫んだハンター含め何人かが指さした方向へ向かっていく。某ポスターについて、ある程度この街に住んでいるハンターには事情を理解してもらっている。私が話したと言うより受付嬢が話したと言った方が正しいか。あるテイマーの魔物が街中では暮らしにくいとのことで街道の奥を住処にしている。警戒心が強いので勝手に入ると攻撃される可能性がある。だから入らないように…と言った感じで。まあ、ポスターと受付嬢の伝達のみのため全員には伝わっていないだろうが…ちゃんと伝えているのでこちらが100悪いとは誰もいえないはずである。
「だが、あいつは今ここにいなかったか?」
「彼の仲間が侵入して来たんですよ。物騒な武器持ってきて。今全員森に縛り付けてあるのですが、はぐれ物もいると聞いていまして。ただ逃しちゃいましたね。」
大体これで何が言いたいかは分かっただろう。
「それをここに連絡しに来たと言うことか?」
「はい。受付嬢に連絡しようと思ったのですが、先に不審な動きをした方に手を出しました。」
「一応聞くが…あれが、一味という根拠は?」
「うーん、私は魔物ですよ?しかも植物の。私が植物と会話出来たとしたら、そこら辺の観葉植物が全員目撃者ですね。」
ハンター達の中で一部が騒然し始めた。まあ、人間の常識を超越したやり方なんだから皆困惑するだろう。
「取り敢えずはその捕まえたと言うハンター達に会うのが先決ではないでしょうか?」
受付嬢のミサさんが会話に入ってきた。初めてシュウ君を魔物使いに登録した時も彼女であり、その後も定期的に会話している20歳過ぎのお姉さんである。彼女も魔物オタクの1人である。
「ですね。ただ…逃げた1人が万一があればここを出て助けに行くと言うシナリオが出来ていたみたいです。ここで道草食ってしまった以上、厳しいとは思いますが。」
「だったら走って行けば間に合うだろ。ちょっくらその禁止区域に入るが構わねえか?」
「大丈夫です。今は緊急ですし、第一私がここにいますし。」
「よし、おい『栄光』メンバー!出動だ!」
「おー!」
この『栄光』メンバー常々出てくるな。まあ悪い意味じゃないけど。私たちがギルドに来るとき一番話すのはミサさんであるが、次に多いのがこの『栄光』パーティメンバーである。どうも私たちのことが気になるらしく、時間があったら声かけに来てくれる。
「お姉ちゃん?一体何がどうなってるの?」
シュウ君は全くついて来れていなかったらしい。まあしょうがない。
「えっとね。私が住んでいるところにうーん、剣とか包丁とかわかるかな。」
「うん!」
「それを持っている人が、急に入り込んできたの。シュウ君はもし今の孤児院に急にナイフを持った人が来たらどう思う?」
「こ、怖い…。逃げる!」
「それを今私は受けて逃げてきたの。」
「そ、そうなの!お姉ちゃん大丈夫?!」
「大丈夫大丈夫。シュウ君の魔物よ私?そんな簡単に殺されたりしないわ。」
「お姉ちゃん凄い!」
「相変わらず仲良しですね。マイさんやっぱり貴女魔物じゃなくって人間なんじゃないんですか?」
「うーん、そうかも知れませんね。残念ながらそうじゃないのですが。」
シュウ君を縛っていた右手のツルを解放し、ミサさんの首元にツルを動かす。
「本当。貴女のツルって不思議ねぇ。」
私が伸ばしたツルを掴んでマジマジ見ながらミサさんは呟いていた。
時折私は思いますが、マイちゃんみたいに言いたいことをズバッと言えたら良いですよね。まあ、彼女も150年以上生きているから100歳以上若い人間に対して発言出来るだけなのですけどね。。。