脱臭帽子
「どう、おわっ…あらら…」
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
「アウ…イヤン…」
私は散々シュウ君に弄られすぎて体がおかしなことになってしまっていた。勿論シュウ君はちゃんと寸法はしている。ただ、シュウ君は私の花びらの手触りが気に入ったのか、寸法後しばらく触り続けてしまったのであった。私は顔を真っ赤にして手で覆っていたため、それが寸法を測っているものと思い込み…言わば、体がおかしくなるまでシュウ君にいびられ続けてしまったのであった。私が再起したのは10分後くらい。採寸した結果をシュウ君がムサビーネ夫人に説明し終えた後であった。
「うう…体が…体が…」
若干まだ痙攣している。唯一の恵みが、これを行った初めての生き物が私のテイマーであるシュウ君だったということだろうか。植物の方からも心配されてしまっている。ただ、先ほどの魔物襲撃と違い、シュウ君を非難する植物は何故かいなかった。慣れというやつであろうか。
「あらあら。子供の癖して随分アクティブね?」
「え?」
シュウ君には悪気も何もなかった。ただ純粋に仕事と触りたかったから触っただけであった。
「大丈夫か?」
『姫様?大丈夫でしょうか?随分と楽しんでいらっしゃったようですが…。』
「うるさい!」
「おう?」
シロは急に怒鳴られてキョトンとしてしまった。予めだが、植物の声が聞こえるのは私だけである。なお、完全に拒絶だったらここまで体がいかれるまで許容しなかったであろう。そのため、植物に対し否定出来ないのであった。
「まあ寸法はわかったし、後はこっちで何とかするわ。確か貴女、住んでいる場所はその子とは別の場所なんだっけ?」
ムサビーネ夫人は私に声かけする。
「ええ。人間の街はどうにも私の体にあっていないようで。」
「だったら、今日は私が門まで送っていきましょう。後、そうね…1週間はこの街に入って来ないこと。1週間経ったら守衛に声をかけなさい。出来たものを届けさせるわ。」
「え?やだやだ!お姉ちゃんと1週間も離れるのやだ!」
シュウ君のわがままである。よっぽど私、シュウ君に気に入れられたらしい。
「1週間我慢するのと、今後一生会えなくなるのどっちがいい?」
「そ…それは…」
「どっち?」
「1週間…」
「じゃあ待ちなさい。」
「…はーい。」
「良い子ね。」
この夫人時折ガチで怖いわ、と思う私なのであった。そして、あっという間に1週間が過ぎ約束通り守衛のところへ向かう。
「あ、えっと…私です。確か、ムサビーネ様から荷物を預かっていると思うのですが…」
「ああ、夫人様から話は聞いています。これをどうぞ。」
手渡されたのは、かなり大きな膨らみを持った…うーん、前世で言うところの交番帽子なのであった。色は私の髪の色に合わせてか緑色である。試しに被ってみると私の花をしっかり隠した上で頭にもフィットしていた。本当にこんなものもらって良いのだろうか?
「あと、夫人様から言伝を預かっております。」
「あ、ごめんなさい。私、人間の字は読めないんです。」
日本語なら助かるんだけどなぁ。
「でしたら読み上げますね。」
内容的には、街中を歩く時には必ずそれをつけろと言うこと。帽子の内部に防臭魔法がかけられているから、花の匂いは抑えれるだろうとのこと。万一不快な点があった場合にはギルドの受付嬢に連絡すること…ざっくりとした注意点が書かれていた。
(魔物と人間が両立するのって難しいんだなぁ…)
そう痛感しながらいつも通り孤児院に向かうのであった。効果があるのか謎であったが、植物の側を通り過ぎる時…勿論、帽子についても言われたが…魔物がいつもと違ってほぼ全て反応しなくなっているという評価が得られた。効果は的面らしい。ただ、課題は二つ。頭を用いた光合成の効率がガタ落ちしたのと、やっぱり花を強引に隠していると言うこともあり…帽子の中がムラムラするというかそういうふうに感じ取れてしまった。この後、しばらく使い続けギルドの受付嬢に報告したところ…数日後に再度来るように言われ…公道の場でなければ外しても良いと言われた。それゆえ、孤児院やギルド等明らかに側に魔物がいない、又は、居たとしても他のハンターが何とかしてくれると言った場所においては外している。というより、服と帽子でカモフラージュされた私は人間の女の子とそれこそ何も変わらない状態になってしまっていた。そう言ったこともあり、森の中で生活している時には服と同様帽子も脱いでいる。いわゆる汗で帽子の中が臭わないかと懸念したが、常に無臭であるのは凄かった。それと同時に魔法の存在も知ったので、「人間いいなぁ…」と考えながら、炎魔法が来た時の対処法について個人的研究を拠点で勝手に続けるのであった。それから更に数ヶ月が経ち…特に何もなかった。強いて言えば、シュウ君の身長が男の子らしくちゃんと成長しているぐらいである。まあ、数ヶ月なのでまだまだ抜かれる状況ではないが。
『姫様?今日も日光浴ですか?』
「うん。昔は無意識で体力温存出来たんだけどね…最近は時折街へ行く時もあるし、あそこだと服や帽子が邪魔で栄養稼ぐのが辛いのよ。だから出来る時には日光浴してるの。」
前も言ったが、私の体は大分大きくなって来ている。本来であれば狩りをして足りない養分を補うべきなのだが、私の場合無闇な殺生は嫌ということで光合成戦法になっていた。まあ、街道に近いが故魔物はあまりいなかったが、いた場合かつ私を狙おうとした段階で縛り上げられ餓死させられるため、土は森ということもありちゃんと潤っていた。
(うーん、暇だなぁ。)
孤児院に行かなくて良い日は日光浴が中心だがそこでボーットしていてもしょうがない。最近だと拠点を中心に少々移動して他にも日光浴が出来る場所がないか探していた。まあ、暇だから出来る所存である。孤児院に行く日は人間で言うところの出社に似ている。ちゃんとした服装に整え、時間通りに行き…子供の面倒を見た後、シュウ君と情報収集兼ねたお散歩である。魔物だからそこら辺自由であってほしいのにと半ば苦し紛れの自分がいた。それゆえ、行く必要がないときはゆっくりしている。まあ、何も動かないのはそれはそれでおかしくなってしまうので森を探検して回るのだった。