「花」の寸法
「さて、となると寸法だけ測りたいんだけど…」
「あー。」
測ると言うことは触ると言うことである。
「お前、それぐらいも我慢できないのか?ちょっとは信用したらどうだ。我の主人がわざわざここでお前を殺す意味があるか?」
「そうですね。分かりやすく説明しましょうか?貴方オスですよね?」
「そうだ。」
「貴方急所触られたらどう思います?」
「それは抵抗する。」
「私の花もそれと同じです。ちゃんと神経通ってますからね?私のこれ。」
花のある方向を指差した。シロは魔物としてか項垂れた。
「へえ。やっぱり貴女…突然変異種かは知らないけど面白そうね。」
「実験台にしたいと顔に書いてありませんか?まさか、私の花を保護する代わりに何か要求するとか…」
「それはない。我が保障する。我が言うのも何だが、我の主人は魔物に対して色々異常だ。初めて会ったとき我も驚いた。」
「そうよー。何もしないわー。」
このギャップである。絶対何かありそうだが、万一があれば葬り去ることにしよう。
「お姉ちゃん。一緒にこれからも過ごせる?」
シュウ君は私に対して心を抉るような行動はしないで欲しい。今更感だが、魔物の威厳がなくなってしまう。
「じゃ…じゃあ…」
予め言っておく。人間には分からないかも知れないが、私のこの花を誰かに触らせるのは物凄くくすぐったいと言うか破廉恥というか…命に関わるとかそれ以前な行為なのである。
「えっと…シュ…シュウ君が測って!」
私は顔を真っ赤にしながらしゃがみ込み手で顔を覆った。ムサビーネ夫人と白銀狼のシロは急な私の行動に顔を顰めた。
「お、お姉ちゃんは…その、このお花に…命とは別に…うーん…」
残念ながらシュウ君にもこの感覚はわからないだろう。
「まあよくわからないけど、ほら。これを使ってマイさんの花の大きさ…要は高さと長さかしらと、頭の外周とかも欲しいかしら。」
「わかった!」
シュウ君が近づいてくるのがわかる。私はとっさにシュウ君のズボンを掴む。
「え?」
「シュウ君…優しくね?」
「うん!」
シュウ君が丁寧に私の花の大きさを測ろうとするのがわかる。ただ、シュウ君が私の花の花弁を触った瞬間、「ア、ヒャウ…」と人前では絶対に出してはいけない声が出た。
「お姉ちゃん?大丈夫?」
「ヒ…ヘイ、フィ…」
「シロ。私たちはお邪魔のようよ。シュウ君。少し席外すから長さ後で教えてね?」
「わ、わかった!」
「なんだ?ご主…」
「ほら行くわよ?」
ムサビーネ夫人が気を遣ってくれたような気がするが、私の体と精神がとんでもない方向に反応してしまっているので思考が死んでしまっていた。とりわけ、シュウ君も男の子とはいえまだ6歳。こういうことについては無知なのが故、容赦なかったのであった。私の花とかを色々な意味で測定中、某伯爵夫人とシロは2人の視界に入らないところで会話していた。
「ねえ、あの魔物についてどう思う?」
「どうとはどういうことだ。」
「どうというのは全ての意味よ。いかに強力なのか、希少性は?生息地は?気になることだらけだわ。」
「本人に聞けば良いではないか?」
「今までから察するに本人も分かっていなさそうね。ただ、少なくとも強力なのは間違えない。」
「ほう。」
「数ヶ月前、あの2人に会った時にキングバチ2匹を駆除したのを見たわ。」
「何だと?相当な大きさだぞ?少なくとも彼奴らより大きいだろ。」
「初めは目を疑ったけど、それ以外考えられなかったわ。それ以降、なかなか良い接触の方法が思いつかなくてね。丁度、講習の手続きが出来たから接触も兼ねて会ってみたんだけど。」
「我も何故普段行くこともないテイマーの研修に行かなければならないか疑問だったが…まあ、納得はしたな。」
「それで、貴方も何も知らないの?」
「知らぬ。ただ、あやつ。少し前のやり合いの時、我が声をかける前に自衛と視界をこちらに向けて来た。おそらく探知能力は我より上だろう。」
「そう…厄介ね。」
「ご主人が考えていることを当ててやろう。あの魔物を自分のものにしようとしているな?」
「残念。それはサンカクね。主人がいる魔物を奪うことは違反行為よ。主人が手放したり死んでしまったりしたら話は別だけど。」
「お前なら規律だろうが捻じ曲げれるだろうし、刺客だろうがいくらでも出せるではないか。」
「馬鹿ね。そこまで私は腐っていないわ。ただ、1人いるということは他にもいるはずよ。それに死んだと言っていたけど、妹がいたと言っていたわ。ターゲットはそっちね。」
「好きにすれば良いが、宛はあるのか?」
「宛ねぇ。まあ聞く機会などいくらでもあるでしょう。」
この2人…というより1人と1匹は知らなかった。マイと同種を捕まえようとしたならば、マイのおばあちゃんが散々していたような根っこによる奇襲をかわせなければならないことを。現状、その能力はそこいらの強力な魔物でさえも対応不可能。人間など一瞬で背骨が砕かれるレベルであるということを。マイ本人でさえ、おばあちゃんの恐ろしい実力については見たことがないので具体的なことまでは理解していなかった。
予め断っておきますが、異種間恋愛小説を作る気はありません。多分。