補講講義
「はぁ。まさか、貴女達初回からこんな問題が起きるとは考えていなかったわ。」
「ごめんなさい。」
「良いのよ。まだ、マイさんの生態系が全く不明なんだから。貴女達にも謝罪するわ。たかが講習で命に関わることが起きるなんてことはあってはならないのよ。組み合わせを間違えた私にも責任がある。」
「…今回のメンバーは偶々ではなく、ちゃんと計画していたのですか?」
「そうよ。捕食する側と捕食される側での組み合わせとかは厳禁。野生の本能で殺し合いが起きかねないから。」
狭い空間の中に野生のライオンとシマウマを入れたらどうなるか…そんな感じであろう。
「せ、先生!補講っていうのは…。」
「あ、そうそう。貴女の花についてよ。貴女にこう言うのも悪いかも知れないけど、随分危ないものを頭につけてるのね。」
「生まれた時にはありましたけど…まあ、おばあちゃんから大切にしろと何度も言われてその意味を身をもって知りましたからね。」
「ご主人よ。要はそれをなんとかすると言うのが補講内容なのか?」
「そう。急遽だから何も準備していないけど、これはかなり重要な課題よ。」
曰く、匂いで魔物が理性を失って襲い掛かるなんてことが街中で起きたら大変なことになってしまう。そう言うことである。
「今までは今日みたいなことは起きなかったの?貴女達がこの町に魔物登録してから数ヶ月は経ってるわよね。」
「起こさないようには努めていました。魔物が私の花に目が行くことなどもう慣れっこです。森の中なら気づいた段階で処理していましたが、街中の場合それはダメだと思っていたので見つからないように避けて通ったりしています。」
「我から言うのもなんだが、お前まだ150歳なのか?我がお前ぐらいだったら、容赦なく殺してるぞ。街中関係なくな。」
「あら、と言うことは白銀狼より知能が高いのかしら。」
「ふん。力は我の方が上だ。」
「あらあら。ここでやり合うのは止めなさい。ともにメリットがないわよ。寧ろ有能な魔物がいなくなるのは私としてもったりない。」
「私はシュウ君に仕えているのですが?」
「ハハハ。仕える。ハハハ。面白いわね。そんなに有能なのにそんな考えしてるなんて…シロだって、私との上下関係作るの苦労したのに。」
「ご主人。我を馬鹿にすると契約を切るぞ。」
「あらあら、ごめんなさい。ほら、謝罪するから良い子にしていて。」
ムサビーネ夫人はシロと呼ばれている狼の魔物を撫でていた。気持ちよさそうである。
「話脱線しすぎてません?補講ってこう言うことですか?」
「あらごめんなさい。貴女達が面白いのがいけないのよ。」
「ぼ、僕ですか?」
「ええ…じゃあ本題に戻しましょう。貴女のその花、答えは分かりきっているけど…例えば外したりとか、匂いを出なくしたりとかそう言うことは出来ないのかしら。」
「出来たらおばあちゃんが死んでからの50年間返してください、ですね。」
「そうよね。シロ?この子にも脱臭の魔法とか効くと思う?」
「その魔法は一時的なものだ。おそらくその花は野生本能として咲いている。花は本来受粉をして貰うために咲くからな。咲いている限り何をしてもダメだぞ。」
「そう。じゃあ、匂いが極力出ないように何かで覆うとか?」
「だそうだが?」
「うーん、私の花も呼吸してます。ずっとそんなことしたら体がおかしくなりそうです。やったことはないですけど。」
「そうねぇ。とは言っても、講習前の事象がある以上…打開策が見つからない限り帰すわけにはいかないわ。公道で同じことが起きたら慈悲は無いわよ。」
「そ、そんなぁ…。」
シュウ君がしゃがみ込んでしまった。私自身も考える。私が街に入らず、シュウ君が森に入る?無理である。多分確かに魔物が少ないとはいえ、6歳の体で定期的に1時間半以上…往復なら3時間以上、森込みで歩いたりしたら持たない。襲われる可能性も無じゃないし。私は魔物だから出来るだけである。となると、また我が身を削るしかないかな。男の子1人のために何努力しているんだろう私。
「仕方ありません。やったことないので分かりませんが…何かで覆うと言う手段は出来ますか?」
「いいの?」
「やったことないので分かりませんが。街中歩けないのは私も困ります。」
私のみで生きるなら街中歩く必要ないが、シュウ君のためである。シュウ君は人間。100年我慢すれば十分。それに、街中にいないときは外せば良い。外したところで森で襲われる確率が変わるわけではない。
「そうね。だったら、出来る限り貴女の頭と花にフィットしたものを準備しましょう。」
「一応聞きますが、買ったりするんですか?私が今着ている服は孤児院から借りてるものですが。」
「貴女特注なら別に私の方から費用出すわよ。」
「…税金を使ってですか?」
「…魔物なのに質問内容が容赦ないわね。」
「私に変にお金かけるなら、シュウ君が過ごしている孤児院をなんとかして貰いたいと思って。」
「あー、確かにあそこはもう古いわね…検討しておくわ。後、今回は私の実費でプレゼントしてあげる。特別よ?」
「え?」
「あら、言わなかったかしら?この講座は私が提案して、無料奉仕でやっているのよ?だから担当者は私だけだし、税金とかは使っていない。まあ、講習の通知を送るのにはちょっとお金を使っているけど。どっちにしろ、ここまで魔物に手厚く税金を使ったら旦那に怒られてしまうわ。」
「でも街中だと、貴女様が税金を魔物に使っているとかどうとか。」
「それは本当よ。ただ、必要以上に使ったら私の首が飛ぶわよ。物理的にね。」
おかしい。私のイメージではこの夫人が馬鹿みたいに魔物にお金を使っていると思っていた。しかし、そうでもないらしい。となってくると、本当に孤児院については経済難なのか?いや、あくまで建物の問題であって食べ物とかはしっかりしていたはず。うーん、私が介入することではない感じがする。