夫人の講義
「さて、今日の講義に入りますが…皆さん座りなさい。さて、今日は私の魔物のシロを連れてきています。白銀狼の魔物ですね。」
「うむ。よろしく頼む。」
「先生。魔物って喋れるタイプもいるのですか?」
「ええ。比較的高い知能を持ち強力な魔物は人間と意志疎通が出来るとされています。」
「え?」
うっかり私は声を漏らしてしまった。高い知能云々は元人間だからじゃない?と勝手に思っているが、何処が強力なのか本当に知りたい。強力とは無双出来ると言う意味ではない。相手の力に合わせ的確に敵を倒す。今回みたく大ダメージを受け相手を手加減無く半殺しにする私の何処が強力なのだろうか?
「マイさん。貴女もまだ意識できていないようね。シロ?貴方はどう思う?」
「そうだな。我から見たらまだ未熟児だ。お前どれぐらい生きている?」
「うーん、大体150年ぐらいかな。」
「え?!」
シュウ君や残り2人の人達が同時に言った。
「150年、150年っと。シロ、それって若いの?」
「我は500年以上は生きている。それに比べればまだ幼いが、平均寿命と言うのがあるからな。例えば人間なら50年でも十分ベテランだ。だが、我からしてみればまだ子供だな。」
「あー、そういう意味では私のおばあちゃんが2万年は生きていたと聞いています。50年ぐらい前に死んでしまいましたが。」
「なんだと?」
シロと呼ばれている狼が驚きの声で「ウォーン」と鳴いた。
「人間換算で最長年齢を100歳と比較したら、まだお前は1歳にも満たないではないか?お前、それでもう自立しているのか?」
「うーん、おばあちゃん死んじゃいましたし…おばあちゃんは独り立ちしても良いと言ってました。」
「なるほどねぇ。未熟児と言う考えかしらね。」
「だな。」
私は150年生きていたが、どうやらまだ未熟児らしい。だったら何故おばあちゃんは私を自立させようとしたのか。もしかしたらおばあちゃんの事である。自身の死期が分かっていたのかもしれない。おばあちゃんならあり得る。
「じゃあ、私のイータンも成長すれば喋れるのですか?」
「そうね。まず、高知能を持った魔物自体が少ないから期待はしない方が良いわね。私が育てている魔物でも喋れるのはこの子のみ。むしろそのような魔物は本来人里の側には現れない。会いたいならば山奥まで探しに行く必要性があるし…会ったからと言って一緒に来てくれるとも限らないわ。」
「そんなぁ。」
「ただ、予めだけど…言葉を喋らない魔物だったとしても、互いの信頼度で意志疎通っぽいことは出来る。それが出来ることをまずは最優先にしなさい。例え相手が喋れたとしてもよ。シュウ君、貴方はどう思う?例えばマイさんの花とかについて。」
シュウ君はしばらく黙っていた。そして口を開いた。
「僕…お姉ちゃんにそんな過去があるなんて知らなかった。お姉ちゃんはただ、お花が好きなだけだと…つい…」
「別に責めているわけではないわ。ただ、お互い話せてもこうやって意志疎通出来ていないこともあるわ。逆に考えてみれば話せなくても意志疎通出来ることもある。今回みたいなことがあってからでは遅いの。だから魔物の事を観察しちょっとでもおかしな事があったら直ぐに自身で対処、出来ないならギルドとかに相談すること。宜しいかしら。」
「「「はい!」」」
良い返事である。私自身はこれは魔物云々じゃなくて人間間や魔物間でもあるんじゃない?と思いながら聞いていた。
「で、次はそうね。次は放し飼いについてかしら。これも皆んな共通なんだけど…」
今回の講習での共通点が一つあった。同じような境遇のメンバーである。意思疎通については多分私中心なのかもしれないが、それでも残り2人も魔物とそこまで意思疎通について出来ているとは思わない。でなければ、急に走り去ったりしないだろう。そして放し飼いについても全員同じような状況。まあ、私の場合はちょっと特殊かもしれないが…残りはどっちも普段魔物達は大人しいから比較的好き勝手に街中を歩き回しているそうである。野良猫じゃないんだから、万一があったら引っ掻き傷じゃすまないよ?まあ、猫でさえ猫ひっかき病というとんでもない病気があるぐらいである。その話は置いておくにしても、放し飼いとそれにおける責任についての講習だった。
「シュウ君。貴方の魔物はそこら辺はしっかりしているかも知れないけれど、安易な考えは危険よ。そこは互いに話せるということを意識して補って頂戴。あと、マイさん。」
「私?」
「そうよ。貴女は貴女で注意しなさい。確かに貴女は見かけは人間と大して変わらないかも知れないけれど、見抜くハンター達はすぐ見抜くわ。腕にテイマーとして飼われていると言うアクセサリーをつけているでしょ。極力ちゃんとそれは見えるようにしておくこと。良いかしら?」
「…わかりました。」
これが見られるイコール私魔物ですと主張しているようなものなんだけどなぁ。まあ、頭の片隅にでも入れておこう。ムサビーネ夫人もおばあちゃんと同じく何考えているか分からないところがある。
「では、今日の講習はおしまいです。長くなりましたが解散。あ、シュウ君達は残ってね。」
「は、はい!」
シュウ君は貴族の前ということもあり、なかなか緊張が取れないようである。まあ、私換算でドラゴンと会話している感じなのだろうか。2人のテイマーが帰るとムサビーネ夫人はため息をついた。
テレパシーと言うものは現実でも存在しませんが、相手を理解しようと考えている人は現実世界でもあまりいないと思いますね…。