学生寮について
「えーっと、確か寮の見学だったっけ?」
「あ、確かそうだったと思う。」
「じゃあ、私も同行しようかなぁー。」
周りが誰もいないからか…誰かはいるが、注目されていないと分かったからか…アリア様も羽目を外し始めた。
「アリア様は家から通えませんか?」
「通えるよ。だけど、シュウさんが住む場所は把握…あ、そうじゃなくって、平民が住む場所は把握しておきたいのです。」
本音が駄々漏れだった。多分、今後隙あればシュウ君が住んでいる場所に乗り込むなこれは。
「はぁ。ご両親は良いのですか?」
「一緒に寮の見学も貴族として必須行為といっておけば何とかなると思うかな。」
「お、おう。」
この令嬢、普段は貴族として立ち回りがすごいが…私達の前だと意外な一面も見せてくれるのが不思議だったりする。この子の本当の姿は何なのだろうか。もしかしたら、それがない子なのかもしれない。
「では、寮の見学を始めます。寮を使う方は後程別紙を配りますので提出してください。」
結局のところ、私とシュウ君とアリア様の3人で他の生徒と一緒に寮を回ることになった。今後私達は3人組になるのかなぁと思う私である。時折思うが、男子寮に関しては全員で回るが、女子寮は女子しか回れないと言うのは何故なのだろうか?謎である。最も、私達はシュウ君の為に寮を見て回っただけなので女子寮には行っていない。ただ、個別に聞きたいことがあった。シュウ君に全員がいなくなったら質問するように伝えておいてある。
「あ、先生…質問。」
「はい。プリントの書き方が分からないとかかな?」
「えーっと、そうじゃなくって…お姉ちゃんはどこで住めば良いのかです。お姉ちゃんは魔物だけど…普段住んでいるところはここからすごく遠くだから、流石に通いきれないし…。」
「あーそうでしたね。いや、魔物が学校を通うのは前例がないもので…えーっと、確かメモが…あー、あったあった。テイマーと一緒に住むか、飼育部屋か…」
「どっちも無理です。たまになら何とかなりますが、人間の住処の中には植物も土もないのでおかしくなります。飼育部屋なら多分他の生き物と喧嘩になって死屍累々になるかと。」
私は動物ではない。魔物である。取り分け植物。私にとっての休憩は腐葉土の上で適切な格好…帽子や服を着ない…で、他の植物に守って貰いながら休むことなのである。室内は基本的に休んだことにはならないし…他の動物が側にいる状態ではとてもじゃないが休めないのであった。刺激されたら半殺し…いや、殺してしまうだろう。
「しかし、他には無いぞ?何かあったりするのか?」
流石にそこまで我儘言われるとイラッとしたらしい。若干強めで先生は私達に問い詰めた。
「シュウさん?何かあるのですか?何ならお母様に頼みますけど…。」
「うーん…お姉ちゃんって外で生活しても大丈夫なの?」
「寧ろ外で生活したいかなぁ。」
それから私はシュウ君に耳打ちした。
「本来、このデレナール領は土地が痩せてるから何処で寝泊まりするのも不可能に近いの。ただ、ちょっとした宛があるから…取り敢えず室内ではなく室外が良い。」
「分かった。」
シュウ君は再度先生を見る。
「僕たちが住む領の周りの庭でお姉ちゃんが寝泊まりするのはダメですか?」
「魔物を野放しにすると?」
「お姉ちゃんは寧ろそっちの方が危険じゃないよ?お姉ちゃんは植物の魔物だからなにもしなければそこに生えている木とかお花とかと同じだから。」
私は若干イラッとしたが…そこいらと同じにされるには魔物の威厳としてあれなのであるが…まあ、シュウ君も成長していると言うことで今回は及第点とした。
「分かった。取り敢えず今日はそれで良しとしよう。ただ、学長とかには言わないといけないし…万一があったらテイマーである君が全部責任を取るんだぞ?退学で済まない可能性もあるぞ。」
「う…」
「シュウさんを脅さないで頂けませんか?マイさんがそんなことをしないと言うことはこの街の貴族の娘である私が保証します。」
アリア様がバサッと言いきった。どんなに相手が子供とは言え貴族となるとなにも言えなくなる。教師と言う立場を利用した脅しは貴族と言う立場を利用した子供に潰された。
「分かった。今は君たちを信じよう。で、他に無いのであればその提出資料を書いて出してくれ。備考欄に従魔を寮の庭に置きたいと一言記載してもらえると助かる。」
「はい。ありがとうございます。」
こうして、寮についての手続きも穏便…かは分からないが、終わったのであった。この後アリア様とは別れ、シュウ君は寮に入り荷物の整理や寮を利用するに辺りの手続き書類を記載していく。寮は勿論土足厳禁だが…私は普段から靴など履かない…寧ろ、魔物であるがゆえ足が根で出来ており人間の足ではない。その為、今日の見学含めシュウ君と一緒に寮に入ることは出来なかった。
(まあ、シュウ君そもそも論持ち物少ないからあまり困らないんだけどね…。)
ハンターとして生きているがゆえ、更に元々孤児院出身の貧乏人の為所持品などほぼ無いに等しい。強いてハンターのための軽装装備ぐらい。搬入は瞬時であった。




