初めての魔法
「えっと…トラブルがありましたが…ここから二手に別れます。魔法適正が無かったものは、このまま次の試験に行きますのであちらの先生について行ってください。魔法適正があったものはここに残るように。後、マイさんは例外でここに残ってください。」
またザワザワである。私が魔法適正がないことは全員把握済み。じゃあなぜ残るのか、であった。確かに私は幾度もデレナール領に行き来している。その為、私が人間でなく魔物であることを知っている人もいるはずである。しかし私は基本的にデレナール領の奥の方まで滅多に行かない。行ったとしても、帽子やら服装やらの変装で初見人間の女の子である。わざわざ領民全員に「私は魔物です」なんて報告しないのであるから、この扱いの理由を理解出来る人が少ないのであった。
「お姉ちゃんも一緒…よかった…」
「どうしたの?」
「だって…お姉ちゃんいないと心細いし…アリア様と会話するのに一層緊張すると言うか…」
シュウ君の悪い癖で、私に依存しすぎているところがある。この癖はおいおい直させないと…と私自身も思ってはいるのだが…親ではないが親バカ理論と、シュウ君が私から独立しなければならない理由が全く無いので…寧ろ独立したら私は森へ帰らざるを得ない…私も強く出れないところがあった。
「極力一緒にはいるけど…どうしてもの時はシュウ君一人にはなっちゃうからね。そこだけは理解して。」
「う…うん。そうなんないように僕はお姉ちゃん守るもん。」
違うんだよなぁ…と思いながら、私はシュウ君と一緒に他のメンバーと先生の後について行った。行き先は校庭なのか?外であった。遠くに的が並んでいる。
「これから皆さんには魔力を使い、魔法を放ってあの的に当ててもらいます。勿論、まだ魔法が使えなくてもそれは仕方がないことなので出来る出来ないは問いません。ただ、もしこの段階で魔法を放てるのであれば、魔法適正が高いので魔術科に行くことをお勧めします。余談ですが、私は魔術科担当の一人です。」
そう言うと、先生は小さめの炎魔法を放ち的に当てて見せた。皆から「おおおおー」と言う声が上がる。
「炎魔法かぁ。誰かが事故ってこっちに飛ばしてこないでしょうね。」
私は植物の魔物である。火にめっぽう弱い。軽い被弾で火傷を超え死んでしまうこともあり得る。
『自分は毎年これ見てるが、大体がなにも出せねえから大丈夫だぜ?寧ろ出せるやつは訓練受けてたりと的に当たる云々は置いておいてある程度ちゃんとしたところには飛ばしてらぁ。』
「そう。まあ、念のため警戒しておきましょう。」
そして私の魔物としての本能が私を刺激した。ここには1人普通を逸脱している女の子がいると言うことを。いや、本来魔力が高いだけならば使い方が分からないで終わるはずである。しかし…その女の子は魔女から修行を受け、取り分けその魔女が脳筋であった。
「では、3組ずつやってみましょう。簡易的にやり方を説明するからやってみなさい。勿論、今日は魔力がどう言ったかというものを体験するだけだから出来なくても大丈夫。本気で使いこなしたいなら魔術科に志願ですね。君達にはその資格があります。」
と言うことで適当にペアを組まされた…のだが、私達はアリア様と組まされ…私は何も出来ないので実質2人ペアとなった。ここまで露骨だともはや何も言えないわ。
「ええ?!アリア様と?!ぼ、僕…自信が…」
「シュウ君。あれは化け物だから自己ベストで行きましょう。」
「マイさん!!聞こえてますよ!」
「いやいや…シュウ君の身にもなってあげてください。貴族の少女と一緒なんてなったら比較されますから。」
「そ、それはそうですけど…私達は友達じゃないですか。はい!何なら私が教えます!」
先生も他の生徒がプレッシャーにならないようにアリア様は最後にするらしい。逆にそれが2人のプレッシャーを上げているのだが…犠牲は付き物である。
(植物の言う通り…魔法を放てたのは本当に少ないわね…)
私はどうせ打てないのでアリア様がシュウ君を否応にリンチにしているとき…他の生徒の様子を見ていたが、先生が軽く説明して打てたのは現状1人だけであった。先生はその子に是非とも魔術科にーとか宣伝していたが…。
(魔法が使える子は本当に少ないのかもしれないわね。少数精鋭だから先生も必死なのかしら?)
魔法は努力でどうしようもない。魔力0の子はどんなに頑張っても0なのだから。潜在能力があってそれが前提でやりたいなのである。先生が生徒維持を意識してるなら同情せざるを得なかった。
「じゃあ最後。シュウさんとアリアさんどうぞ。」
「はい!」
「は…う、は…い。」
これがどっちも同じ10歳なんだよなぁ。比較以前の問題であった。私も一応同行する。そんな雰囲気だからしょうがない。そして同時にやるのかと思ったらシュウ君が先にやる…と言うより、アリア様が最終調整していた。
「シュウさん。さっきも言いましたが、魔法はイメージです。こんな感じの物を出したいってイメージしてそれに集中します。」
「う、うん。」
「うん?アリアさん?魔法においてはまずは呪文の発音をしっかりしないとダメなんだぞ?」
「先生。いまシュウさんは集中しているんです。声をかけないでください。」
「え…あ、はい。」
先生にさえ食って掛かる伯爵令嬢である。どっかの糞ババアに似ているなぁと思いながら2人の様子を私は見ていた。シュウ君は手のひらを上に向け目をつぶっている。その手の下ではアリア様の手がシュウ君の手を支えていた。
「シュウさん。イメージがはっきりしたら手に魔力を注いでください。手順はさっき説明した通りです。」
「わ、わかった。」
少しすると、シュウ君の手のひらに薄い黄緑だろうか、球体であるが回りの空気を吸い込んでいるようなそう言った何かが出た。
「出来ましたわ!では、それを向こうに投げるんです。」
「う、うん!」
ただ、シュウ君は結局魔法を使ったことがない。どうやら、集中力が切れてしまったようである。風の固まりは的に到着する前に消え去ってしまった。
「あああ…消えちゃったよ…」
「上出来ですわ!」
その後、小さく「私は一発で的当てまで出来ちゃったんだけどなぁ…」と言う小声が聞こえたがそれはスルーすることにした。




