許さない
「おいポー!どこ行ったんだ?!」
「イータン!何処ー?」
少しして人間の声が聞こえた。今の惨状は私は木の根元に座り込んでしまっている。シュウ君は唖然状態。鳩と猪は地面にツルで縛り付けられていた。
「ポー!大丈夫か?!何があった!誰にやられた!」
「イータン!今解くわね!」
その二つの声が聞こえた瞬間私の頭の何かが吹っ切れた。
(殺される!)
気づいたら立っていた。ゆっくりではあるが、2人とその魔物達に近づいていく。
「その魔物達、あなた達の魔物ですか?」
表情筋だけ笑顔であった。
「そ、そうよ!急に走っていっちゃったからびっくりしちゃって。」
「お前、すまねえがこのツル切るの手伝ってくれないか?」
魔物はツルから逃れようと必死だった。予め言っておくよ。「モウオソイ。」
「そう…あなた達の魔物なんですね…」
私は再度地面にツルを刺す。2人の足首にツルが巻き付いた。
「な、なんだなんだ?!」
「え???」
「そうですねぇ。私を殺害しようとした罪は重いですよ?」
「は?」
「は?じゃねえんだよてめえら全員!!」
私の前世は男性の人間である。怒りで口調すら変わってしまっていた。
「お前らの魔物が原因で私は死にかけたんだ!生きて帰れると思うなよ?人間二匹と魔物二匹!私はかなり気を使ってたんだ。この街は魔物と人間が共存してる。だから私は多少の異常行動は目を瞑ってた!だけど!」
魔物二匹を睨みつける。二匹から悲鳴的な鳴き声が聞こえてきた。
「こいつらが今私を殺そうとした!今まさに!テイマーのお前らも同罪だ!全員罪を償え!」
「おいおい何炎上してるんだ?!お前の方が…」
「ほう?後ろから急に刃物で刺されてもあんたらはなんとも思わないと?」
「は?」
「今さっきお前らの魔物にそれやられたんだけど?だったら殺されても仕方ないね?後、それを野放しにした飼い主も同罪だよね?え?」
『姫様!後ろから狼が来ております!』
「次から次へと!」
私は後ろにかなり太いツルを生成した。これに突っ込めばいい。そうしたら捕獲出来る。しかし突っ込んでは来なかった。むしろ全く違う展開が出てきた。
「落ち着け。何があった?」
魔物の狼がしゃべったのである。白い狼であった。一同が呆然とする。
「喋れるの貴方?」
「ああ、お前と同じだ。」
「ふーん、で、貴方も私を食い殺しにでも来たの?」
「何故お前を食う必要がある。今日はテイマーの教育訓練だ。ほら、主人もきた。」
狼の後ろから1人の女性が見えた。この女性は見覚えがある。随分前に門の前で馬車から顔を出した女性であった。
「これは一体なんの騒ぎ?」
「助けてください!この魔物が俺らや俺らの魔物を縛り付けて殺そうとしているんです!」
「は?あんたらが私を殺そうとしたんでしょ?何でっちあげてるの?本当に殺すよ?ほら、周りの植物達も同じこと言ってる。」
周りの植物達からは怒りと非難の声が殺到していた。要約すれば『姫を襲った魔物を殺せ!』『姫を襲った人間を殺せ!』である。耳鳴りがするレベルで全員がギャーギャー騒いでいた。
「…貴女…確か前門前で待っていた魔物よね。」
「ですね。覚えていただいて光栄です。」
「このツルはやっぱり貴女の?」
「そうです。この2匹が私を殺そうとしてきたので飼い主もろとも全員束縛しました。ここは街中なので殺してませんが、森の中だったら全員絞め殺すところでしたよ?」
「それは、その子の命令で?」
某女性は蚊帳の外で震えているシュウ君を指差した。
「いえ、関係ありません。私の自己判断です。貴女だって、不意ところ背中に剣を突き刺されたら抵抗しますよね。それと同じです。」
「だから、俺の魔物が何したって言うんだ!ポーは普段は大人しい魔物だぞ。確かに急に飛んでいってしまったが、いつものように軽いちょっかいぐらいだろ?」
「そうよ!私のイータンだって、軽いじゃれ愛程度のはずよ。」
違う。こいつらの目は明らかに私の花を食おうとしていた目だった。本来であれば駆除対象である。
「わかったわ。とりあえず、貴女。人間を束縛するのはやめなさい。街中でやったら重罪案件よ。」
「私を殺そうとした魔物の持ち主を許せと?!」
「それを決めるのは私の仕事であり役人の仕事よ。貴女にそのような権限はない。ここは貴女が住んでいた森の中じゃないの。従わないなら今すぐ貴女を叩き切ります。」
「………」
渋々であるが、2人の人間を解放する。
「よしよし良い子ね。じゃあ、各々2人は自分の魔物をちゃんと抑えていなさい。」
「はい。」
「わかりました。」
2人が各々鳩と猪を押さえ込む。
「じゃあ貴女、ツルを解きなさい。」
「はい?解いたら私、殺されるのですが?」
「いいから解きなさい!」
「………」
仕方なしにツルを解く。どっちの魔物も飼い主から抜けて私を襲おうと必死だった。
「グルルルルル」
さっきの狼が警戒音を出しながら、二匹を威嚇する。どっちも怯えたのか、大人しくなった。
「さてと…これは授業を始める前に事情聴取になりそうね。貴方達2人とも私と来なさい。シロ?その二匹の魔物が勝手なことしないように見張っといて。」
「了解だ。」
私とシュウ君は言われるがままに女性の後ろについて行った。殺そうと思えば殺せそうだが、それをしてはいけないオーラを放っている。この女性は何者?小部屋に案内された。