入学生代表の言葉
「お、お姉ちゃん。こんな前じゃ目立っちゃうよ?」
「大丈夫大丈夫。私がいるから私が注目の的になっちゃうから平気平気。」
アリア様は逆にこう言うことに慣れているのだろうか?実は真逆であると直ぐに気付くことになるのだった。
「寧ろそう言い聞かせないと回りが怖くなっちゃうから、うん。」
「そうなのですか?」
「私この後入学生代表の言葉を任されてて…ちゃんとしないと家名を傷つけることになる。」
アリア様はまだこれで10歳なのである。とてもじゃないが、シュウ君と同じ10歳には見えないのであった。
「それってやっぱり貴族だからと言う感じなの?」
「ええ…本来は希望者を募るみたいなんだけど…お兄様もやったって言っていたし…お父様、お母様共にやって当然だって。」
アリア様はこの領土の領主の娘である。いわば、この領土の代表者の娘。本人が嫌でもその責務を追わなければならない。逃げれないのであった。
(貴族も大変ね…人間社会って面倒くさい。はぁ、私は何でそれに巻き込まれてるんだか。)
アリア様も大変だが、その母親に何だかんだで振り回されている私自身もイライラしていた。それもあり…丁度アリア様の側にあのババアがさっきまでいたこともあり…私は彼女に気になることを聞いてみた。
「アリア様?よろしいですか?」
「はい。私のことはアリアで大丈夫です。何度も言っていますけど、私特別扱いされたくないです。」
「うーん…気持ちは分かりますけど…まあ、とにかくですが…アリア様って夫人が私達に対して護衛云々と言っていますがどう思いますか?」
「どういうことですか?」
「あれです。確かにシュウ君はハンターですけど、まだEランクの初心者です。少々強い魔物が側にいるからって私だって例えばフェンリル様と比べれは全然ですし…その状態で、アリア様に何かあってもらっては困りますが…何かあっても責任取れませんよ?」
「うーん…お母様はよく言います。「私は貴族の娘である。だから平民と一緒にいてはいけない。」と。ただ、確かにそれに完全に準ずるならば…私がシュウさんのそばに行くことをもっと規制すると思います。たとえ護衛であったとしてもです。実際私は学校入学まで、シュウさん以外の同年代と交流がないのです。だから他にも何かあるとは思うのですけど…。」
アリア様について詳しくは分からないが…こんな辺鄙な場所にデレナール家以外、貴族がいるわけがない。時折王都等から来ている時もあったようだが、大抵は親同士。アリア様は孤立していたはずである。とりわけあのババアの娘である限り。となってくると、あのババアはああ言っていながらも、シュウ君という平民の子供だけはアリア様の側にいても良いと言っていることになる。ただ、それでは自分自身の論を否定するので護衛という強引な理由をつけて許可させるということになるが…。
(うーん、意図がよく分からないわ…)
そう考える見かけ10歳の女の子であった。横では緊張を隠しきれない10歳より幼そうな私のテイマーがいたりするのであるが…。実際のところ、アリア様も10歳らしい行動はとっていないのであった。さすが貴族の娘と言ったところである。
「只今より、第89回グルトナ学校始業式を開始する。一同、起立!」
しばらく雑談していると、右の方向から声が聞こえてきた。この世界にマイクなどない。ただ、代わりに魔法がある。音声拡張魔法でも使っているのだろうか。ここは日本で言うところの体育館っぽいところなのであるが、部屋中に声が響き渡るほどの大きさであった。ここからしばらくは…私自身既に人間の子供の始業式など一才覚えていないが…始業式の流れに沿って進んでいく。そして、学長なりなんなりの演説を聞いた後、司会から声が聞こえた。
「続きまして、入学生代表の言葉。入学生代表、アリア・デレナール伯爵令嬢。前へお越しください。」
「はい!」
アリア様が立ち上がり、前へ歩いていく。演説は舞台の上。勿論とても目立つところである。しかし、彼女はシュウ君とは全然違い…彼は今だに緊張で若干震えている…堂々と舞台の上に登った。それを見た周りからは若干騒めきが走る。本来この学校は平民しか来ない。いや、元々平民だらけの領土に領主が住んでいるのだから当たり前だが…。言わば今年度は貴族の娘が例外で入学してくるのである。既に情報は流れている可能性はあるが、それでも周りは動揺を隠せないのだろう。
(うん。あの子は10歳じゃないわね。私と同じ転生者とかじゃないの?いや、私も彼女の真似は出来ないわね…この歳でも。)
アリア様の演説は最早大人顔負けではないかと思った。ポケットから原稿を出してはいたが、殆ど丸暗記だろうか。ほぼ見ておらず前だけを見ている。しかも、一点を見るのではなく入学生達や親御さん達、先生達をちゃんと見て話している。英才教育そのものであった。完璧過ぎる。逆に怖くなった。
「…以上。入学生代表、アリア・デレナール。」
彼女は一礼し舞台を降りていく。会場からは拍手喝采だった。貴族だから…かも知れないが、凄過ぎるの方が多いだろう。
「はあ…緊張した…」
「どこが?」
「ほ…本当に??」
アリア様が自席に戻りこう呟いたので、私もシュウ君も突っ込んでしまった。アリア様は若干ほっぺを叩き「いけないけない。まだ式は終わっていないんだから。」と、自分を説教していた。貴族の娘って大変だなぁと再度思わされた私であった。厳密にはアリア様は貴族という枠を超えてしまっているのだが…それに気づいている人は誰もいない。むしろ、貴族とはこれぐらい当たり前なのだと周りに伝え、アリア様自身の首を絞めているだけであった。




