伯爵夫人からの忠告
(結構生徒いるのね。)
宿から学校まで更に1時間は歩いている。学校は先代領主が設立したこともあり、今の領主が住んでいる場所に近い。対して、孤児院といい、ハンターギルドといい…ここら辺は領の中央より領の出入口の方が近かったのである。運動のために1時間歩くのは良いが、通学のための1時間は長すぎる。取り分け、森に住んでいる私は合計2.5時間。初っ端から通勤時間問題があった。
(対策は後で考えましょう。今は、何処へ行けば良いかが優先ね。)
親御さん達が歩いているので付いていけば問題はないだろう。入学式なのだから、日本で言うところの体育館とかそんなところに集まると勝手に考えている。そして、何処かの建物の入り口だろうか?沢山の人がたむろしていた。多分ここら辺にいれば良いかな。
「お姉ちゃん…人が一杯いるね。」
『姫様。おそらく、暫く待っていればその建物の中に案内されると思いますが…あの中に私達は入ったことがありませんし、中に植物はおりません。充分ご注意ください。』
「そうね。分かったわ。」
午後からと言うことがあり、学校前にあったお店で腹ごしらえは済ませてある。栄光達がおごってくれたのはありがたい。最も、私は植物の魔物のため、食べなかったが。
(そう言えば、私は常に植物に守られて生きてきたわ。構内はどっかのおんぼろ孤児院じゃないし植物の目が届かない…大丈夫かしら。)
ちょっとずつ、しかし確実的に私自身は不安が重なってくるのであった。その時、後ろから声がした。
「あ、シュウさん、マイさん、こんにちは。」
後ろを振り替えると、アリアさんがいた。いや、アリア様である。アリア・デレナール伯爵令嬢。貴族の娘であった。横には揃いも揃って夫婦がいる。旦那がリグルト・デレナール伯爵、妻がムサビーネ・デレナール伯爵夫人。私はこの夫人が嫌いなのでババアと個人的には呼んでいる。シュウ君は鬼とか呼んでいる。評価は最低ラインであった。
「アリア。平民と従魔に気安く話してはいけません。自分の立場を意識しなさい。」
「すいません。」
「友達なのだろう?多少は良いだろう。貴族としての威厳を失う行為は慎まなければならんが、校内は平民しかおらん。会話しないわけにはいかないしな。」
「アリアをそのように甘やかすと将来貴族として立ち振る舞えなくなります。」
相変わらず面倒臭い両親である。アリア様は基本は完璧お嬢様なのだが…本人はそれが大嫌いらしく…羽目を外すことが良くある…いや、私達の前だと大体外すため貴族の威厳とか良く分からないのであった。既に、両親を無視してアリア様は私達のそばに来ている。
「お母様が御免なさい。どうしても、お母様は上下関係を気にしているようでして…でも、学校にいる間はお母様の監視がありません。兄はいますが別学年のため大丈夫です。後で一杯話しましょう!」
「え、あ、うん。」
逆にシュウ君は上下を気にしすぎる傾向がある。いや、私も前世会社では上司にペコペコしていたし…今もそう言う人がいれば何も言えなくなるのだが…それ故、アリア様と会話するとき若干固くなることがあった。夫人よりはましだが。
「お母様。そろそろ開会式のお時間だと思いますが…会場に入らなくて良いのでしょうか?」
「グルトナ学校の入学後は、貴族に対する特別優遇は殆どないです。貴族が入学することが稀です。皆が入り始めたら入りましょう。」
そう言いながら、夫人は私達のそばに来る。人間であるから魔物の私は夫人を殺すことなど簡単。だが、絶対にそうさせないオーラがある。
「貴方達2人に再度伝えておきましょう。貴方達はアリアを護衛することが任務よ。それ以外での接触はご法度。最も、本来校内では基本的に同じ学科の生徒とそばにいることが多いし、アリアと貴方達は別クラスになる可能性は充分あるけど…一応こちらでも学校に交渉しているから、残りは善処なさい。」
私は時折思う。絶対この夫人何か企んでいると。しかも法に触れないギリギリを歩いている。巻き込まれている私達は大迷惑であった。
「お母様。シュウさん達は両親がいないと聞いています。一緒に行ってはダメですか?」
「私は構わん。ムサビーネはどうだ?」
「まあ、大丈夫でしょう。」
シュウ君は売られた子供である。親は聞いた限りではまともだったと思うのだが…シュウ君の過去については私はそこまで深堀はしていないし…どう言った闇を抱えているのかは分からないのであった。
(まあ、保護者が代理でもいることはましかな。)
私はその代理が飛んでもない権力者であることを失念しているのであった。
「えっと…入学式は生徒が前ですか?」
「確かそうだったわね。あの子の時もそうだったわ。」
あの子とはアリア様の兄だろうか?この学校におそらく在籍していると思うのだが…まあ、アリア様も色々面倒くさいし…その背後のバックが主な原因だが…あまり関わらない方が良いと思った。
「じゃあ私達も行きましょう。お父様、お母様、行ってきます。」
入学生の席は具体的には決まっていないらしい。その為、アリア様が堂々と一番前の中央辺りに座るので右にならえになってしまった。まあ、私は今は違うが前世目があまり良くなかったので前に座ることが多かった。人が目に入るのが嫌だったのかもしれない。ただ、シュウ君は抵抗があるみたいである。




