雌花としてのこれから
『姫様。まずはその種を植えてしまいましょう。善は急げです。』
「分かったわ。どの辺りかしら。」
『真ん中ぐらいだと思うけどなー。私達もそこら辺は把握してないって言うか覚えていないからなー。』
偵察に雌花さんが来ていることは間違えないと思うが、いつ来たかは不明である。植物達はそれこそ自由気ままに生きている。覚えておけとでも命令しない限り覚えていないだろう。
(最後は私の直感か。)
雌花さんが埋めたいと思った場所から離れすぎて栄養が偏ったらどうなるか分からない。あの雌花も結局私に同じ雌花として全てを託したのだろう。私は草原を歩き、最適な場所を探す。
(やっぱり日光が沢山当たって…腐葉土の質も取り分けあって…あー。)
腐葉土が一番良さそうなところは草原の中央から少々離れたところにあった。
「ここかな。」
「うむ?ちょっと中心からずれてないか?」
『ずれてるな。』
「うーん、私ならここに埋める。どうせ埋めて周りの養分を吸いとれば木々一掃するんでしょ?」
植物の魔物の癖して最後には余計な木々を排除する辺り残酷なんだよなぁと思いながら発言した。
「まあ、雌花様がそう言うなら後はお任せします。」
「うん。皆で雌花さんの成長を見届けよう。」
私は決めた場所に雌花の種を植え付けた。しかし何も起こらない。
(え、もしかして…間に合わなかった?)
種は死んでしまったのだろうか。それであれば多大の犠牲もここまで来た努力も全部無駄になってしまう。
『姫様。もう少し地面に押し込めませんか?』
「え?」
「雌花様はまだ腕の力は幼いのかな。俺が残りはやる。」
多少罵倒された感じがしてイラっとしたが、唯一健全な雄花さんに残りを任せた。すると、種が急成長を開始する。
(く…また地面が揺れる!)
雄花の時よりも更に大きく揺れる。私はツルを使って辛うじて踏ん張った。1人の雄花も同様に踏ん張る。倒れた雄花は倒れたまま成長する木を見つめていた。最終的に雄花の木より一回り以上大きい木が立った。
『…皆、ありがとう。お陰でなんとかなれたわ。』
雌花さんは残ったメンバーにお礼をしていた。
『貴女…良くここの位置が分かったわね。伝えてなかったのに…完璧だわ。』
「うーん、私だったら…だったからなぁ。」
「てっきり俺は中央なのかと思ってたな。」
『ええ、ここが正解。貴女…色々幼いように見えたけど、根はちゃんと雌花なのね。』
「………」
誉めてるのか貶しているのか分からなかったので私は黙認することにした。
『それで、これから皆はどうするの?』
「俺か。俺は…あいつを連れて帰るしかないだろうな。」
「え?帰れるんですか?」
雄花は倒れた仲間を見てそう言った。ここは雌花だから生きれる場所。雄花が1人で帰ろうとしたら途中で間違いなく食い殺される。取り分け、満身創痍の雄花を連れたらなおさらである。
「…俺は…捨てて行って良いさ…どうせ、後数日だ…」
倒れた雄花からそう言った声が聞こえていた。
「しかし、ここは雌花様の敷地だし…」
『私は平気。強いて、そこじゃなくて私の幹に寄り掛かってなさいな。その方が楽でしょ?』
「………」
「分かった。俺が運ぶ。」
唯一の健全な雄花が倒れた雄花をお姫様抱っこし雌花の木の幹に寄り掛からせた。私達の腕の力は人間と同じか若干弱い程度…私は腕の力はもっと弱いと思うけど…お姫様抱っこぐらいは成人雄花では出来るらしい。
「…すまない…」
「良いってことよ。」
『私は別に残って貰っても良いわよ?1人だと暇だし…』
「しかし雌花様は既に受粉済みです。俺は次の雌花を探さないといけません。」
『そこにいるじゃない。』
「え?」
私は驚いて声を張り上げてしまった。
「彼女はまだ若いからな。俺より他の雄花の方が釣り合いさ。」
雄花には別の意図が色々入っているのであるが、その事は誰も気づかないのであった。
『まあ、好きにして大丈夫よ。ここにいる間は守ってあげるから。出掛けようと思ったら私は引き留めない。』
「ああ、ありがとう。」
『そして、貴女は?貴女の実力ならここら辺好き勝手に散歩しても何も問題なさそうだけど。』
「うーん、魔物結構強そうですけど。」
『何卑下しているのよ?私が種子になってからここまでこれたのは貴女の実力が相当あったからに決まっているでしょ?あそこで残りの雄花2人は本来ここまでたどり着けなかったはずなんだから…もっと自分に自信を持ちなさい。』
だったらこんな無計画過ぎる手段使うな、と突っ込みたかったが…気力が残っていなかったので黙っていた。
「そうですね…私は自由民だから…少々ここにいてやりたいことを適当にやったら…また旅に出ようと思います。」
「旅?」
「まあ、いつも通り何処かにまた拠点を作るのでしょうけど…私はこの登山を受けて、雄花と雌花の関係がまた色々分かりました。」
『そう。何か学びになったら良かったわ。子供は学ぶのが仕事よ。』
私は350歳程度だから子供ではない気がするが…2万年は生きる魔物であればまだ子供なのか。
「色々犠牲なりなんなりを見てきて…やっぱり、私は皆と同じような人生を過ごすのは何か違うと思うのです。だからやっぱり、色々旅をして…もっと色々知って…自分なりの生き方を探したいと思っています。」
「そうか。立派な考えだが…ケリンは知ってるだろう?俺らには俺らの使命がある。それだけは絶対に忘れちゃ行けねえ。」
『空気読みなさいよ。別に良いじゃない。私達は死なない限り長寿な生き物。ゆっくり考えると良いわ。』
「ありがとうございます。とりあえず、暫くはここにいようと思うけど…私も時が来たら出発します。」
「分かった…その時にも俺がまだいたら言うが、定期的に俺らの拠点に行ってくれるとありがたい。それが今俺が生きている最後の仕事だ。」
「距離的に近い場所にいたら考えます。」
私的には前世の記憶込みで何かしらに束縛されるのは御免であった。ただ、例えば何かしらでケリンやカリンに会いたいと思ったら行けば良いかと考える私であった。
(最悪あの魔女が連れていってくれるでしょ。と言うか、あいつ結局何だったのかしら。)
実は裏で魔女がマイを偵察していたり追跡したりしていることを知ってはいながらも考慮していないマイなのであった。
シュウマイストーリー第一部完結です。うーん、非常に長かったですねぇ。なおなお、物語は第二部へ突っ切ります。原稿は既に第二部終了しており、第三部作成中です。旧キャラ、新キャラ色々織りなす地獄絵図の対人関係を引き続き楽しんで頂ければ幸いです。




