後輩雌花の決意と意地
「…ねえ…」
その時、雌花さんが最後の力を絞ってか言葉を漏らした。
「…貴女…私の代わり…出来る…?」
「え?」
「…私の代わり…種…目的の場所…持っていって…植える…。」
「え…だけど私、場所分からない。」
「…皆…教えてくれる…はず…植物…雄花。」
彼らは雌花さんと色々話していたはずである。確かに場所ぐらいなら分かるとは思う。到達できるかは置いておいてだが…。私が無言でいると更に声がかかった。
「すまねぇ。俺らの力で残りを切り抜けるのはちと厳しい。雌花さんに頼るのは良くねえんだが…頼む。」
『姫様。ここ数日でしたが、雌花様は姫様のために色々指導してくださったと聞いております。最後は姫様の力で弔ってあげていただけませんか?』
『だぜ。姫様なら余裕だろ。ちゃんと見てるんだから。時折雄花達を助けてただろ、な?』
ちゃっかり隙を見て隠れて援軍していたこともバレてたらしい。余談だが、植物達が私の行動を直接見ているわけではない。ここの植物と私が援護した場所は違うのだから。伝言ゲームであった。
「まぁ…なんとなくだけど…やるわ。無下にする気はない!」
「ありが…とう。これ…持って。」
雌花さんは頭から木の実をもぎ取り、私に託そうとした。私は、倒れた雌花さんから木の実を受けとる。
「私の…前に…」
雌花さんの前に木の実を持っていくと、雌花さんは木の実の先のとがった部分に振れた。すると、雌花さんは光輝き…木の実の中に吸収されていってしまった。
(雌花さんは、死んでしまったの?)
私の感情は変なところで爆発することがある。今の私は、無意識のうちに涙を流していた。彼女との接点はここ1週間程度のはずだったのだが…雌花の大先輩に会うことが出来て何だかんだで嬉しかったのかもしれない。そして、別れが辛かったのかもしれない。取り分け、彼女は自分の使命を自力で出来なかったことに対しての悔しさを共有しているのかもしれない。
『姫様。泣いている余裕はありません。その雌花は既に動けないまで衰弱しておりました。その種も残り1日足らずで植えないと枯れてしまいます。』
「…分かった…。皆、行こう!」
「「おう!」」
しかし、世の中そんなに上手く行かない。辺りが暗くなり…魔物のため、人間に比べれば夜でも目は効くが…移動は困難になる。更に、同じところに少々滞在しすぎたのが原因か、警告が走った。
『姫様。5mぐらいの魔物が2匹近づいているみたいです。夫婦の巨大なキングオークと思われます。飢餓状態でしょうか?』
「面倒臭いのが来たわね…。」
「畜生!おい、お前達は逃げろ!俺が囮になる!」
既に死亡が確定しておる雄花が発言し、敵に向かおうとしていた。
「すいません。これ、持っていてくれませんか?」
「え?」
私はもう一人の雄花に種を渡す。そして私は木の上に登った。
(花の無い雄花なんて魔物には興味ないはず。第一、距離的に匂い察知でしょ。だったら私が仕留める。)
私は地面に自分のツルを伸ばし差し込む。そして、視界が悪かろうがなんだろうが…植物の情報を頼りにツルをターゲットに向けて地面から伸ばす。地面から出たツルの太さは直径50cm程度。余程の馬鹿力が無ければ絶対ちぎれないレベルであった。
(敵が陸上且つ図体が大きいと、それだけ見ていなくても的中率は高いからね。逆に楽なのよね。)
私はツルを巧みに操作し、オーク2匹を地面に束縛した。何重にも巻き付け身動き不能である。私は未だに生き物を躊躇無く殺すことが出来ない。魔物として失格である。ただ、それ故生きたまま餓死するまで束縛しているがゆえ一部の周りからは恐れられていた。本人は恐れられていることは言われたことがあっても詳しくまでは理解していないのだが。
「じゃあ片付きましたし…行きますか。それともやっぱり休んだ方が良いかなぁ。」
「ちょっと待て!本当にもう片付いたのか?!」
「うん。」
『姫様は雌花のなかでも強い分類です。殆ど勝負にならないレベルでしたね。』
「そうだったかなぁ…。あれでも苦労したんだけど…。」
『相手の方が不運だなこりゃ。』
雄花達は思っていた。「あれ、この雌花に戦って貰えばこんな多大な犠牲は要らなかったのではないか。」と。とはいえ、もう遅いのであった。流石に休まないは全員がつっとってしまうし、私だって戦闘すればエネルギー消費をする。明日中には目的地に着く前提で少々休み、早朝出発した。私は光合成をしながら進んでいく。途中で魔物が出てきても全員束縛処理であった。マイがいなければゴールに到着前に全滅だったと思われる。見積もりが全体的に甘かった。
「ここ?」
『はい。この草原エリアとのことです。』
目的地に着くと、木々が少々まばらになり草が多いエリアに着いた。腐葉土も多量にある。経緯は良く分からないが、雌花さんは丁度良い場所を予め知っていたようである。距離は遠すぎたが…。
「ハハハ…漸く、漸く着いたか…。」
雄花が取れてしまった雄花さんが草原に屁垂れ込む。彼はその後、意識はあったが立ち上がることは2度と無かった。それぐらい彼も限界であり無理をしていたのだろう。




