雄花の護衛
「出会いってどんな感じだったのですか?」
「彼との出会い?うーん、どうだったかしら。もう500年以上経ってると思うから詳しいことは覚えていないのよね。」
私は先陣を歩いている新婦になった雌花さんと話している。見かけ年齢30歳未満ではあるが、私との身長さは歴然である。私は見た目ではまだ13歳弱なのである。
「ただまあ…ある日、頭に着いた花粉が気になり始めてね。それで山から降りることになったのがきっかけかしら。」
(あー、そう言えばそんな生体なんだっけ私達。)
基本的に…雌花は山奥、雄花は森の中とはいえ結構安全地帯なところに住んでいる。要は会うタイミングはない。会うためには雄花が危険を冒して山奥に入ると言うもの有るのだが…雄花の花粉が本当の偶然で虫とかで運ばれ雌花に付くとそれを手掛かりに雌花が山から降りるのである。確率論的に0じゃないかと思っているのだが…前世でも生命体が生じた地球が有るぐらいだしそれより可能性があればまああり得るのだろう。実際目の前の雌花はそんな感じらしいし。
「だから私は貴女が不思議なのよ。なんでそんなに幼いのに雄花の拠点に呼び出されるとか。普通交流有るわけないじゃない。雄花が適当に雌花に連絡してと植物に言っても対応してくれるわけ無いし。」
「あー、色々あって200年ぐらい前にここの雄花に絡まれたんですよ。今は既に縁なんて切れてると思っていたんですけど。」
「そう。まあ、皆子供を残すことに必死だからね。彼ら全員の記憶を消すとかしない限り覚えているでしょうね。」
「そんな魔法有ったりするんですか?」
「さあ。私達は魔力がないから有ったとしても無理でしょうけど。」
何処かに魔女がいたなぁ。あいつ結局何処行った?と考えている私である。今度機会があったらお願い出来ないか考えていた。そして何日か経つ。私達は光合成、雄花は光合成や狩りで体力を凌げるのでそこは人間と違って便利ではあるが…課題がいよいよ生じ始めた。
「この距離だと…後数日で付くと思うけど、持つかしら私。」
「どうかしましたか?」
「えーっと…」
『皆様。大物の魔物が迫っております。至急対策してください。』
「大物?どれぐらい?」
『2.5m程でしょうか。匂いを察知し森の置くから少しずつこちらに向かって歩いております。』
「ふーん。」
このレベルの場合、私にとって見たらどうでも良いレベルであった。ちゃっちゃと駆除しようかなと動こうとしたとき、雄花の方では騒ぎになっていた。と言うのも、1000年以上生きている雄花は大体見かけが15歳の少女。2000年以上生きていても25歳弱の女性である。雄花にとっては獲物が大きすぎるのである。それでもこの人数で取りかかれば撃破出来そうなのだが、何故か対応は違った。
「おい。ここには雌花が2人もいる。彼女ら優先で行くぞ!」
「誰が出る?」
「俺と後はお前が来い。足止めする。残りは雌花を連れて先に行け!」
「了解した。」
「え、私が処理しましょうか?」
「いやいやマイ殿。貴女様には逃げていただかないと困ります。」
「え…だけど。」
「行きましょう。」
雌花さんは何事もなかったかのように進み始めてしまった。私自身も従わざるを得ない。戦おうとすると動けないからである。
「雌花さん。あれぐらいなら雌花さんでも倒せますよね。雄花さん達に任せてもこっちに来てしまったらいけないし…やっぱり止まって…」
雌花は首を横に振った。どうしたのだろうか。
「足止めは任せるとしても…私は少しでも早く着かなきゃ行けないの。それに、私はもう戦うわけにはいかないと言うか…戦えるか怪しいから。」
「え?どう言うことですか?」
植物から情報が来たが…雄花達が獲物がこっちへ来るのを押さえているらしい。厳密には関心をこっちではなく仕掛けた雄花達にしているとのこと。私達の花は魔物を引き付ける匂いを発している。数が多ければそれだけ相手を引き付ける。どうやって引き留めているのだろう?それも考えているうちに雌花さんが話を続けていた。
「私達がどうやってエネルギーを体に回しているかは知っている?」
「え、えーっと…花の中にある蜜を分解して送っているとかどうとかですか?」
「そう。そして…私の頭を見てみて。」
雌花さんの頭には木の実が1つある。そして、当たり前だが…花はもうない。
「もしかしてですけど…花の蜜が無いのですか?」
「そう。私は光合成をしてもそれは私の種子の養分になるの。私の体に養分はもう流れない。」
「ちょっと待ってください!だったら死んでしまうんじゃ…」
「だから急いでいるし…戦うためにエネルギーを使うわけにはいかないの。実際少しずつ空腹感も出始めてるから、より一層ね。」
どうやら結婚してしまったら早急に種を目的の場所に持っていかないとアウトらしい。
(雌花にとっての最後の試練と言うことなのかしら。)
余談だが…目的の場所まで到達出来なければ中途半端なところで種が放出されてしまう。そこで木になっても子供は作れず…いや、木になる前に種を植えなければそのまま種が転がったままになり獲物のエサになって終了らしい。雌花は木になることさえも地獄なのであった。
「雄花は大丈夫なのかしら。」
「雌花様は気にしないでください。それよりも早く進みましょう。」
雄花に急かされ私達は先へ進む。そして現実を突きつけられる。雄花が暫くして帰ってきたが…1匹だけであった。2匹行ったはずだが…その雄花も花はなかった。
シュウマイストーリー第一部最終章予定です。ここから繰り広げられる地獄の数々をお楽しみください。




