奇襲
「え?教育訓練?」
「うん。手紙が来た。」
ある日のこと、いつものように孤児院に行くとシュウ君が教育訓練について話し始めた。最近というかいつもそうではあるが、私が孤児院に来るたびにシュウ君は私に抱きつく癖が出来ている模様。今はまだ小さいから良いけど、これある程度の年齢になって同じことをしてきたら周りからどんな目で見られるか疑問である。まあそんなことはどうでも良い。
「へぇ。テイマーの教育ねぇ。」
「ええ。この街ではテイマーが多く、魔物間トラブルが発生する時期があったのです。ですので、それを抑制するためという狙いで、魔物使いには定期的にそのような講習の通知が来るとか。」
「ふーん。私は別に問題起こさないけどねぇ。」
「お姉ちゃん!今から1週間後だって。お散歩と一緒に行こう!」
孤児院に来た時、全員と同じように接してしまうとシュウ君と差別化が出来ない。シュウ君は私の魔物使いであり、私が救った子でもある。どうしても差別化したいと考えた私は、孤児院に来た時には2人で散歩する時間を設けている。お金なんてないので店の中には入らないが今の流行を見てみたりとか、ギルドに行ってみて依頼を見ていたりしていた。シュウ君の年齢上、受理は出来ないがどれなら出来てどれなら出来ないかとか判断する勉強にはなる。依頼を見て早々「魔物倒したい!」とか非現実的なことを言わないか心配であったが、シュウ君も戦うのは嫌いらしい。採取系とかお手伝い系の方を見ていることが多かった。
(うーん、読めない字ばっかりねぇ…)
なお、余談ではあるが…私もシュウ君もまだこの世界の文字を読むことが出来ない。まあ、シュウ君の場合には売られる前に少しは両親から学んだ様ではあるが書くとなるとまだ全然であった。ギルドの依頼を読むというのは文字を理解する練習にもなる。とはいえ私は前世英語が苦手であった。要は日本語以外の第二外国語に対応出来なかった。そのため、今後読むや書くについても植物に色々教えて貰いながら理解していく事になる。運が良かったのはここの言葉は発音が日本語とほぼ同じ。ただ、文字の形がちょっと異なるだけという点であった。その旨もあり、多少の植物からのフォローでもある程度なんとかなっていった。シュウ君に至ってはまだ6歳。文字を学ぶ適正年齢でもあるので依頼掲示板を見る事により文字を覚えていっていた。わからない場合には何故かわからない私に聞き私が植物に聞いて答えると言った感じであったが…。そして、あっという間に1週間が過ぎ、訓練当日である。いつものように孤児院に向かう。
「ねえねえお姉ちゃん!今日は何して遊ぶの?!」
「あ、ごめんね。今日午後からシュウ君とお約束があるの。」
「えーシュウ君ばっかりずるい!」
「まあまあ、シュウ君はマイお姉さんの魔物使いなんだから…そこはしょうがないの。」
「ムー、じゃあ私も今度何か魔物捕まえてくる!」
やめといた方がいいと思うけど。そんな簡単に魔物が捕まるなら世の中平和である。私は結構時間には煩い方なので、昼食後早めにシュウ君と一緒に集合場所へ向かった。なんでもギルドの裏に庭があって、そこで講習を実施しているらしい。前世で言うところの車の免許更新かな。目的の場所に着いたが、木で作られた机と椅子があるくらいでまだ誰も来ていなかった。
「ちょっと早かったかな。」
「お姉ちゃん。早いよー。もう少しゆっくり昼食食べたかったよー。」
「まあまあ。」
苦笑いである。ちゃんと食べれているようで良かった。
「最近孤児院はどうなの?イジメとか起きてない?」
「大丈夫!友達も出来て…」
『姫様。警告です。上から1、後ろから1魔物が急接近中です。』
「は?」
その途端、後ろから猛烈なタックルを受けた。私は吹っ飛ぶ。
(何事?!)
かなりの大打撃を受けた。魔物じゃなきゃ死んでいたかもしれない。
『姫様!上と後ろです!』
「く!」
本能が言っている。状況判断しろと。上へ逃げろと。私は手をあげ、側にあった木にツルを伸ばし一気に登り上げた。
(イタタ…)
『姫様、前です!』
前を見ると、鳩ぐらいの大きさの鳥がいた。目先は間違いなく私の花を狙っている。
「ちっ!」
突っ込んでくるのが嫌でもわかった。高い木だが、飛び降りるしかない。花をえぐられたらおしまいである。
(えい!)
それほど高くはないとはいえ、数メートル。なんとか着地するがまあ重心が狂った体である。普通に転倒する。
『横です!』
横を見ると、小さめの猪だろうか。突っ込んできた。やはり狙いは花であろう。
(マジかよ!)
左手を地面につけツルを差し込む。私と猪の間に巨大な太いツルが持ち上がった。鈍い音がしたかと思うと、猪はそのツルに突っ込んでいた。すかさず、もう片方の手のツルを地面に刺し、猪を固定する。
『姫様!上から来てます!』
上を見る前に両手のツルを地面から離し、ツルを側の幹に縛り付け一気に短くする。体は地面を擦れるが、急速な移動が可能。鳩は地面に突っ込んだ。
(逃すか!)
腕のツルを地面に突き刺し、鳩が軌道を変えようと向きを変えるか変えないかでツルを用いて足を縛り付ける。暴れるが、容赦無く地面に縛りつけた。
「イタタ…他なんか来てる?」
『いえ、大丈夫です。姫様お怪我は?』
「ボロボロだよ…」
タックルされ木から落ちている。それだけで大ダメージ。なんだこの魔物達は。ここは野生の森じゃないんだぞ?植物達のアラートは既にあったが、街中に魔物はちらほらいることを知っているので襲撃ではなく警戒で抑えていた。その結果がこれである。
よくよく考えましたが、これ当たりどころが悪ければマイ死んでいますね。危ない危ない。