小さな雌花に嵌められた小さな雄花
「カリン!こんなところに…いたのか?!」
森の中に進んでいく集団に私達も戻り、適当に歩いていると上から声がしたかと思ったら、ケリンさんが降りてきた。私達は早く移動しようとする場合、腕に巻き付いたツルを伸ばして雲梯のように移動することが出来る。むしろ走れないのであるからそうでもしないと早く動けないのだが…。ケリンさんは息を切らしてる。
「あ、お兄さん?どうかしたの?」
「どうもこうもない。お前はこっちのグループじゃない。帰るんだよ。」
「え?」
カリンはキョトンとしている。
「だってお兄さんは僕に結婚式に参加しろって…」
「ああ、もう結婚式は終わった。結婚したら雄花がどうなるかについて分かっただろう。要は帰って問題ない。」
「だけど、他のお兄さん達は雌花さんについていくよ?お姉さんもそうだよね。」
「え…まあ、皆行くから行かないといけないのかと思っただけで私はどっちでも…」
「マイ、お前は逆に行け。」
「え?」
「まだ雌花は行くべき場所に行っていないだろう。お前は最後まで見る権利があり義務がある。むしろ、残りの限られた時間であの雌花から色々経験を学んでおけ。今後のためになる。」
「じゃあ僕も…」
「お前は駄目だ。お前は雄花としての責務がある。お前は…いや、厳密には俺もそうだが絶対に雌花の後についていっては行けないのだ。」
「なんで!お姉さんだっていくんでしょ。じゃあ僕だって!」
「お前は特別な雄花なんだ!お前はあいつらと一緒に行って100%生きて帰ってこれると言う根拠があるのか!」
「え?」
「ちょっと待ってください。どう言うことですか?皆が行くところは危険な場所?」
ケリンさんは間違いなく口を滑らせた。私はそれに突っ込む。ケリンさんはしまったかのような顔になったが…諦めたのか話してくれた。いや、私にとっては知っていることではあったが。
「雌花はこれから自分が植わる場所へ行く。そこは雄花では到底太刀打ち出来ない魔物の住みかだ。ただ、雌花がそこに行くまでに何かがあっても困る。だから雌花の護衛として雄花はついていくのだ。カリン、お前は護衛としての実力はないだろう?」
「…今まで行って良かったのは?」
「今までは兄が植わる場所への移動だったからな。雄花の力でも…取り分けあれだけ数がいれば問題はないが…以降は違う。精鋭部隊は雌花を生かすためなら自己犠牲など当たり前と言う意思でついていっている。お前は駄目だし、俺もまだ死ぬわけにはいかないから帰る。」
「じゃあ私は?そんな危険なところ行きたくないんですけど?」
「はい?お前今何処に住んでいるんだ?お前が住んでるところ程度のレベルだろ。雌花が向かっている場所は。お前にとっては近所回り程度じゃないのか?」
「うんなわけあるか!」と文句を言いたかったが…雌花の拠点は10m級の魔物も平然といる。そして私は普通に対処出来る。これから雌花が行く場所がなんであれ、よっぽどがない限り対処不能なわけがなかった。いや、対処不能なら当に私は死んでいる。
「分かった。じゃあ僕は帰るけど…マイお姉さん、無事に帰ってきてね。」
「勝手に殺さないで。ただまあ…向こう着いたら私はそこら辺で拠点作るかもだけど。」
「その方が良いかもな。雌花も1人じゃ心細いかもだからな。」
「うーん、慣れちゃうとあれだけど…まあ、暇潰しにはなるかもね。」
雌花は雄花と違い光合成主体で生きるため、腐葉土を大量に有する。腐葉土には勿論限りがある。それ故、拠点で多数居座るのは厳しいのだが…雄花は獲物も狙うため団体の方が有利ではある…マイは何処か抜けているようであった。
「じゃあ私は雌花の方に行くね。また機会があったら呼んで。いや、不都合なことでは呼ばないで。移動距離考えてほしい。」
「善処だけしておこう。」
「マイお姉さん。また話そう!」
かくして私はちょっと遅れてしまったのでツルを使って加速し集団の方へ戻っていった。
「カリン。聞きたいことがあるが良いか?」
「うん?」
ケリンとカリンは自分の拠点に帰る途中会話をしていた。
「お前はマイのことをどう思っている?」
「お姉さんのこと?うーん、どうだろう。一番話を理解してくれるのかなぁ。だってお兄さん達、僕が人間と関わるといつもケチ付けるじゃん。お姉さんだけはそんなことしないもん。」
「それはそうだ。俺も人間と関わったことがあるがろくな目に遭わなかった。いや、魔物として人間を恐れ拒絶するのは当然だ。むしろ、お前やマイが例外中の例外だ。」
「じゃあ良いよ。僕は例外でも。」
「………」
ケリンは暫く無言になる。そして再度話し始める。
「カリン。植物から聞いたが…マイから花の蜜を貰ったんだってか?」
「え、う、うん。なんか良く分からないけど…貰ったから。お姉さん意外と甘かったなぁ。」
甘いのは花の蜜である。他の意味はないはずである。
「そうか…やはり…分かった。カリン、お前に今後について話しておこう。」
「今後?帰るんじゃないの?僕、あの村に次の品物そろそろ納入したいんだよ。」
「お前の人間事情は知らんし、自立したのだから仲間に迷惑かけない限りで何やっても構わんが…それとは別だ。別に今日の明日と言う話ではない。」
「………」
「お前がどんなに黙ろうが、植物から情報は漏洩する。だから今のうちに伝えておくが…今後間違いなくお前は他の雄花とは異なる扱いをされる。」
「え?」
「差別とか迫害とかそう言う意味じゃないからそこは安心したまえ。簡単に言えばお前の命は他の雄花より圧倒的に重くなったのだ。人間じゃないから護衛なんてものはないが…回りからの監視が強くなったり、危険な行為は他の雄花が代わりにやるとか勝手にやろうとしたら今まで以上に注意されると思っておけ。」
「え、なんでなんで?それってなんだかマイお姉さんみたいに皆から守られてると言うか監視されてると言うか…」
「当たり前だ。お前はマイの婚約者候補になった。しかも、優先順位第一位だ。」
「え、ええええええ?!?!?!」
カリンはマイが仕出かした行為が何を意味するのかまだ分かっていなかったが…主にマイが原因で…少しずつ、確実的にマイと同じ運命を辿っていくことになるのであった。




