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一輪の花による「花」生日記  作者: Mizuha
「花」の結婚式
348/365

急成長する雄花

「えっと…こっちが彼ね。」


 雌花はそう言うと頭に出来た木の実のうち1つをもぎ取った。


「彼は確かここって言っていたわよね。」

「はい。」


 雌花は頭から取った木の実を地面の上に置いた。置くと言うより先ほどまで頭にくっついていた部分を地面にねじ込んだが正しいかもしれない。


(うーん、あの木の実…見た目的には巨大なクルミと言う印象ね。表面は凸凹していないけど。)


 私がそのようなことを考えていると急に地面が揺れ出した。


「な、なになに?!」


 私は転ぶまいと地面に自分の腕から伸ばしたツルを突き刺す。横にいたカリンは経験不足かそのまま転んだ。


「痛い!」

「だ、大丈夫?!」


 各言う私も余裕がないので自分を支えながら恐らく元凶であろう木の実を見た。いや、木の実だったものを見た。木の実からは上方向にどんどん木が成長していっている。下の方には恐らく根っこが張り出しているに違いない。地面を猛烈に掘っているのが原因で地面が揺れているのではないかと思った。暫くして…高さは10mを超える…おじいさん木より若干小さい木が生えていた。


(ど、どうなってるの?)


 更に驚いたのは回りの様子である。草原とかには影響はないが…側にあった木々が全員枯れているのである。枯れ葉が落ちてくるし会話が途切れたため枯れたことは一目瞭然だった。


(まさか一気に成長したため、大きい養分も全部吸収したとかそう言うこと?…そう言えば、おばあちゃん木の回りにも木々は無かったわね。私達のおじいさんやおばあさん木の側には大きな植物は生えれないと言うことかしら。)


 私達は魔物であり植物とは言え他の生き物を殺すことは日常茶飯事である。その究極体がおじいさまやおばあさま。彼らは獰猛な肉食植物。自分達が生き延びるためには回りの植物さえも平気で食うのかと一種の恐怖を覚えた。


「どう、調子は?」

『うん。大丈夫だ。』


 その木からさっきの新郎であろう声が聞こえた。今までの音声による声ではなく植物としての声。こうやっておじいさま木が出来るのかと納得した。


「さてと…じゃあ私も行きますか。今までありがとうね。」

『ああ。達者でね。』


 そして私は悟った。おばあちゃん木の側におじいちゃん木はなかったと言うことに。要は、この雌花は恐らく頭についている自分の木の実を植える場所に行こうとしているのであった。


(結婚したらバラバラに生活するのか…何だろう。切ないなぁ。)


 雄花の木は少ない養分で生きていける。その為ここでも良いのかもしれないが、雌花の木が生きるには膨大な養分を要するのである。ここではとてもじゃないが無理であった。雌花が立ち去ると雄花がついていく。私は転倒したカリンを立たせた後…焦りが出た。


(あ、忘れてた!)


 カリンが若干病んでいたのが原因で仕掛けることを忘れていた。私の運命は私が作る。そこいらの連中に振り回されるぐらいならせめて少しでも妨害したい。


「カリン?ちょっと良い?」

「え?」


 雌花が向かった方向に雄花はどんどん進んでいく。私達は脇道に逸れて木陰に入った。


「お姉さん。僕たちも行かないと。」

「あ、うん。そうなんだけどさ…」


 元々の戦略としては不意打ちでカリンの口の中に私の蜜を突っ込んでやる作戦であったが…結局のところ私の性格ではそれは出来ないのであった。私は頭を傾け、自分の花の蜜を手に注ぐ。いつもの違和感があるが…焦っていたか他の理由があるのか、いつもよりは気にならなかった。


「取り敢えずこれ飲んで。」

「え?」

「飲まないならごり押しで飲ますから。」

「ええええ?!」


 カリンにしてみれば何がなんだか分からない。カリンは人間と生活しているのが原因で他の雄花との交流が少ない。また、彼はまだ全然幼い。雌花の蜜事情など知らないのであった。まあ私も知らなかったのだが。


「えーっと、ま…まあ良いけど…。」


 他者の蜜など私達に取ってみれば飲みたいものでは全然無いのであるが…他の生き物に取っては栄養源だが…カリンは取り敢えず飲んでくれた。ケリンにやられたことをそのままカリンに押し付けると言う…マイも所詮はそんなものであった。


「よし、これでOK。」


 私はカリンの口にそのまま自分の手を押し付けると言う飛んでもないことをやった挙げ句、「私の蜜って甘いのかしら、うーんー」と言う思考でその手を舐めると言う他の雄花がいるところでは絶対やってはいけないことを平然とやっていた。しかしカリンの反応は…


「あー、マイお姉さんってなんかいつもマイペースだなぁ。」

「うん?」

「あ、特に意味はないから大丈夫。」

「そう。じゃあ行きましょうか。」

「うん。」


 で、終わってしまうのであった。互いに恋愛感情などあまりないと言っても過言ではない。しかし、マイはカリンを弟のように、カリンはマイを姉のように…あたかも姉弟として振る舞える辺り互いの壁など既に粉々になっているようであった。

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