雄花の延命方法
(だったら尚更一層結婚なんてしちゃダメね。やってられないわ。)
そうも言っていられないのではあるが、マイの決心はかなり硬いのであった。私が思考を巡らせている間にも話が進んでいく。
『ですので、雌花が結論を出す前に雌花が気に入った雄花が死なないように延命しなければいけません。その為に雌花の蜜が重要になるのです。』
『今回結婚する雌花さんは相手の雄花が寿命を迎える前に結婚するみたいだからそんなことはしてねえみたいだけどな。』
「ふーん、要はケリンさんは私の蜜を使って寿命を延ばしたの?」
『そうです。』
「そこまでして生きたい理由が分からないわね。」
『おいおい姫様。鈍感だな。話はそっちじゃねえよ。』
「え?どう言うこと?」
『姫様。先程も話した通り、雌花が雄花を延命させる理由は結婚を承諾するための猶予期間を稼ぐと言う意味でもあります。』
「うん?えーっと…」
『姫様鈍感過ぎー。あたしが残り言っちゃう!要は姫様はあの雄花を婚約候補の1人にしたってことだよー。』
「…は????」
結論が飛躍し過ぎて思考が完全停止したが…冷静に考えるとそのように捉えることが出来る。結婚したら木になって自由がなくなってしまう。のであれば、出来るだけ木にならないように結婚しないようとするはずである。しかし、仮に好きな雄花が出来た場合…後7000年後ぐらいに木になって子供を産むかと考えていれば雄花は確実的に死んでしまうのである。その場合、雄花を延命させることによって好きな雄花と結婚出来るし結婚するタイミングも操作出来る。色々上手く出来ているのであった。
「ってことは…あの雄花に半強制的に婚約させられたってこと?!」
『いえ。あくまで婚約候補の1人です。蜜を与えれば寿命を延ばせますので候補として残しておくことは可能ですが、その雄花と結婚しなければいけないと言うことではありません。』
『まあ、姫様も何れは誰かと結婚は余儀なくするとは思うけどな。一応だが恨むならあの雄花と言うよりその親を恨みな。或いは自分自身か。姫様はまだ若いから結婚を考えるのはまだまだ先の話だが…早く見つかってしまったが故、後は姫様自体が他の雌花に比べ生態系維持に無頓着過ぎるため…連中にとって都合の良い様に育成して手中に加えたいんだと思うんだぜ。その為には姫様の蜜が必要不可欠と言うわけだな。必要な雄花を生かす為にさ。』
追々わかることだが、私の雌花の蜜が延命に使えるのは雄花に限るらしい。他の生き物に対しては栄養源にはなっても延命は出来ないみたいである。どう言う仕組みなのかは全く分からないが、そこはいつも通り魔物だからで通すことにした。
(あー、もう。非常にムカつく。本気でムカつく。結局私の人生はあの雄花達が好き勝手に操作していると言うこと?ふざけるんじゃないわよ。こうなったら絶対抵抗してやる。あのクソ野郎とだけは絶対結婚しないわ。)
イライラした私はブツブツ呟きながら雄花集団を追いかけた。そしてある案を思い付く。殺したりはしないが、私なりに少しでも抵抗を…逆襲を…しようと考えた。
「うん?ここ?」
雄花達の後を追いかけていくと最終的に開けたところについた。蛇足だが…移動距離はかなり長かった。数日はかかったのではないかと思う。ただ、そこまで山奥に行ったわけではないのだろう。魔物もある程度はいるが弱そうな小型ばかりである。実際雄花達が駆除兼食事に使っていた。
(うーん、お腹がすいたと言うわけではないけど疲労かしら。違和感があるわ。光合成したい…。)
私だから悪いのか雌花だから悪いのか…私は自己防衛のために魔物を束縛することは良くやるのだが…今はこれだけ雄花が多いため不要であったが…食べることはしないのである。いつも食事は光合成。そしてこの数日永遠と移動であり…森は木々が原因で日光が地面まで届かない。どんなに森の土が良くても光合成が不十分だった。
「大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
到着早々ある雄花に声をかけられてしまった。
「あー、光合成不足かも。」
「光合成…あ、雌花か。だったらもう一人の雌花に声をかけに行ってみると良い。雄花達は皆健康だし…今日の主役もちょっと調子悪いみたいだからな。」
(雌花は長距離移動向いてない…?いや、私は数十年毎には長距離移動やっているけどそんなことにはならないわね。いつもは光合成しながらゆっくりだし…雄花と雌花の違いかしら。)
光合成より捕食した方がエネルギー効率は良い。光合成による花の蜜生成量は意識しないと分からないレベルだが、補食すれば一気に増える。ただ、一気に増えすぎて私は溢してしまうのである。制御が出来ない。その為、私は余程がない限り補食しないのである。
(ツルによる補食で雄花達はメインで生きてるみたいよね…。彼らは花の蜜漏れないのかしら?実際この数日見ていてもそのような素振り見せなかったし。)
雄花達は雌花と根本的に違うところがある。基本的には団体行動が多いのである。或いは補食するターゲットが小さいと言うのもある。その為、小さければ蜜は漏れないしある程度の大きさの場合複数でツルから吸収すると言う手段も出来る。しかし、雌花は数が少なすぎて単独行動が多い。魔物を仕留めても大物ばかり。それ故吸収を制御出来ないツルからの養分吸収では不利なのであった。マイは残念ながら記憶力が悪い。この事については教わったかどうかさえ覚えていないのであった。
ここら辺のパートは「マイ」の種族における謎解き要素が多いですね。人間では色々考えられないような要素も多いですが、ちょっとでも理解して頂けると幸いです。




