雄花からの理解不能な交渉
『うむ。流石にわしのそばで話をしていれば聞こえるわい。で、なんじゃったかな。そうじゃな。この際マイにも簡単に伝えておこうかの。』
「あ、はい。」
『わしも経験則じゃから細かいことは知らぬのじゃが…雄花と雌花が結婚し儀式を終えると共に大体2万年程度まで生きれるのじゃ。そして雄花は雄花を雌花は雌花を産めるようになる。雌花は雄花に寿命を供給しなければ2万年以上余裕で生きれるらしいの。ただまあ、そのような雌花は知っている限りで聞いたこと無いがな。』
「何でですか?そこまでして自分の寿命を削ってまで雄花を生かそうとする気が知れません。」
私は一匹狼派。取り分け自分を犠牲にして誰かを助けるなど論外と言う思考回路を持つ。理由は単純。そんなことを前世散々やらされ過ぎており無意識で回りに使い倒され殺されかけた過去があるからである。だから実際は出来ていないが意識としては猛反対なのであった。
「はぁ。おじいさま。この雌花は恐らく私達が今まで及び今後把握するであろう雌花全員を引っ括めても一番厄介な雌花になりそうです。」
『うーむ。まあ、まだその雌花は若いしの。まだまだ時間はある。』
「マイ。今は聞かなくても良いが…生き物は結局魔物も含めて子孫を残すために生きている。それだけは忘れてはいけないぞ?」
「………」
私は頭の中では猛反論していたのだが口には出さないのであった。しかし、マイは前世人間とは言え今は人間ではないのである。充実した人生など関係ない。子孫を残す。生き物としての任務より自分の人生を考えて良いのは人間だけと言うことを忘れてはいけないのであった。
『ところでケリンよ。良いのか?皆のものは行ってしまってるぞ?』
よくよく見ると雄花の軍団はまだ少々ここにいるものもいるが、大抵はここら辺にはいなくなっていた。新婦となる…新婦と言う表現で良いのかは不明だが…雌花ももういない。
「あー、おじいさま。ここで話しすぎました。私達もこれから向かいます。」
『うむ。雌花ことマイよ。お主の性格的に受粉した雄花と雌花がどのように成長するのかを見る機会などこれっきりじゃと思うから今後のお主のためにもしっかり学んでおくが良い。』
「分かりました。」
私自身、興味と無関心が半々だったが自分の生態系が知れる機会と言うことで…後は雌花というのは結局どう言った人生が正しいのか確かめるため…ケリンに続いて歩いていくのであった。
「ああ…そうだった。」
「どうかしましたか?」
私達がどこへ向かっているのかまだ全然分からないのだが…森を突き進んでいるだけである。途中で魔物の気配がする時もあったが、他にも雄花が多いのだろう。適当に駆除されているようである。たまに植物から雄花がやられたみたいな情報も入っているが…最終的に駆除はされているらしい。その状況を適当に聞き流している時にケリンさんに声をかけられた。
「マイ。お前自分の花の蜜を飲んだことはあるか?」
「え、まあ…無いと言ったら嘘になりますけど…あまり飲もうとは思わないですね。」
あくまで人間換算での体感だが…漏れた花の蜜は尿みたいな感じなのである。厳密には全然違うが…取り敢えず自分の尿を飲みたい奴はいないだろう。余談だが、私の花の蜜は蜂蜜と言うのがあるぐらいなので甘い。具体的な味は前世の食べ物で表現するのは難しいのだが。なので飲める飲めないで言えば飲めるのではあるが体感上で飲みたくないが正しいのであった。
(この花が原因で何度死にかけたことか…未だにこの花の意味がよく分からないわ…。)
特にこの花から作られる花の蜜は物凄く栄養素が高い。そうでなければ、その花の蜜を消化して生きている私達は生きていけないのである。要は私達の花を求めて他の魔物も人間でさえも狙ってくる。いい迷惑なのであった。しかし世の中弱肉強食。弱者は基本的には食われる運命。食われる生き物が存在しない…或いは食われる生き物が全部猛毒を持ったりしたら生態系は崩壊する。文句は言えないのであった。そんなことを考えているとケリンさんからの言葉が続いた。
「ヤブ用で済まんが…お前の花の蜜を飲ませてくれないか?」
「…は?」
飛んでもない発言が来たので私は思考回路が硬直した。理由は前述の通りである。取り分け花の蜜が美味しいかつ平和的交渉すると言う意味で人間から声をかけられると言うのは分からなくはない。こっちは嫌であるが。しかし、雄花のケリンさんが私に交渉する意味はもっと分からない。何なら自分の飲めであった。
「何でですか?嫌なのは分かりますよね?」
「ああ、知っているが…その上で頼んでいる。」
相手が嫌がる前提で交渉するのはどう言うことなのだろうか?取り分け雄花は雌花に拒絶されることを恐れていると思っている。そのリスクを含めて私に交渉する理由は何故なのだろうか。
「理由とかって話してくれないのですか?」
「今は止めておこう。」
「…植物さん教えてください。」
「おい。」
『姫様。こればかりは雄花を優先させていただきます。寧ろ姫様のためだと思います。』
「え…そうなの。」
どうやら植物も事情を知ってるらしいが…雌花より雄花を優先するのは珍しい。私はいよいよ気になり始めた。そして物の見事にケリンに嵌められるのであった。マイの悪い癖である。




