雄花の呼出理由
『お二人共。準備が出来たとのことです。』
「お。」
「分かった。お姉さん。行こう。」
「ええ。」
村を経由し、カリンの故郷へ向かっていく。
「まだあの魔女戦ってるのかなぁ。」
「おじいちゃんが追い返したみたい。」
「マジか。時折思うけど…貴方のおじいさん木も私のおばあちゃん木も強すぎじゃない?私達の親とは考えられないわ。」
蛇足だが、追い返したのかアユミさんが「戦うの面倒だから飽きた」で帰ってしまっている可能性もある。アユミさんはゴリ押し型故、長期戦は面倒臭いらしいのである。魔女は強すぎるがゆえ長期戦にはならないが…流石に私達の親では早々片付かないらしい。
「ってか、追い返されるのは勝手だけど…あいつどこ行ったのよ。私は放置?」
『あの魔女転移魔法っぽいの使ってどっか行ったらしいぜ。その後は知らねぇ。』
「あん?」
思考回路の中で私は数日前居た場所には帰れないんだと悟った。まあ、持ち物など無いから何も困らないが…養分がある土を求めてまた1から探し直しである。いや、場所は植物に聞けばある程度教えてくれるので、探すのではなく移動が億劫なだけであった。
(逆に言えば魔女は振り切れた?…いや、どうせあいつのことだから地の果てまで追ってきそうね…。)
残念ながらその悪い予感は的中するのであった。
「お姉さん。そろそろ着くと思う。」
「了解。何年ぶりかしら…100年単位は経ってるわよね。」
そもそもここへ来る理由がない。寧ろ雄花に襲撃されるので行く方がデメリットである。とか考えているうちに木々が無くなり草原が広がった。奥の方に大きな木が一本だけ立っており、草原には私やカリンの様な容姿の魔物が沢山いた。これだけ多くを見るのは前例がないかもしれない。覚えていないだけかもしれないが。
「何々?私大丈夫よね?」
雄花が沢山いると…いや、いなくても求婚の嵐を受ける可能性がある。この量では大惨事になる。
「大丈夫だと思う。お姉さんへ下手な刺激はしないようにおじいさまが言ってるから。」
どうやらカリンは私の心情を理解していたようである。
「お姉さんに直接関わって良いお兄さんはもう決まってるの。」
「何それ。」
「うーん、良く分からないんだけどおじいさまの方針。で、お姉さんの場合は基本的にケリンお兄さんとなぜか僕。」
「何それ。」
「と言われても…」
私はデレナール領を出てからここに基本的には携わっていない。遠すぎるからである。それなのにこっちでは勝手に色々決まっているらしい。私はもうどうでも良くなってしまった。考え始めると私の頭が痛くなる。
「まあ、それ以外は話しちゃいけないと言うことじゃないんだけど…実際お姉さんがここに来てから僕とケリンお兄さんばっかりでしょ。」
「まあ、そうね。馬が合わない雄花もいるし…貴方とは話しやすいわね。」
「そ、そう?」
カリンは若干顔を赤らめたのだが私は気付かなかった。
「お、マイ。来たか。カリン。お前はそっちを手伝え。マイもそうだが、お前も人間と関わりすぎでこっちのことを知らなすぎる。ちょっと学んでこい。」
「………」
カリンは不服そうな顔をしたが…命令されたのが原因か叱られたのが原因か人間と関わっているのことをひねくられたのが原因か…そのまま立ち去った。
「雄花って不自由ですね。私なんて1人で好き勝手に生活してるのに。」
「だからお前を呼んだのだ。本来雌花だってある程度自立するまでの間におばあさま木から色々学ぶはずなのだ。お前は色々知らなすぎる。悪い輩に連れ去られないためにもちゃんと見ておかないとこっちが怖い。」
「良いじゃないですか。死ななければ良いんでしょ?死ななければ。」
「お前の場合死なないの枠を超えて永遠と1人で山の中に篭りっぱなしな気がしてならん。それでは困る。」
「何故ですか。」
「ダメだ。雌花の数は少ないのだ。雌花がいないと子孫が残せん。好きに生きるのは勝手だが、生き残っている雌花は子孫を残す義務がある。」
人間換算で女性は絶対結婚しなければいけないということである。裏を返せば男性は好きにして良いということか?残念ながら私達の種は雄花も好きにして良いというわけではないのであるが…私はそれをまだ理解していなかった。
「どちらにしろ、今回はお前にとっても有意義な時間になると思うぞ。その上で自分の立場と役割と使命を学びたまえ。」
「今までも碌な目にあった記憶がありませんが…で、結局何があるんですか?」
「驚くなよ?結婚式だ!」
「ふーん…え?!」
ケリンが持ってくるものなど雄花事情ばっかりで雌花の私には関係ないものばっかりなのだが…今回は流石に興味を抱いた。理由を簡潔に言えば…私以外の雌花に会えるのである。雌花の数が少ないことは知っていたが…ここ何百年と生きていて妹達を除けば雌花にあったことは一度もないのである。
(もしかして、雌花について知ることが出来るチャンス?)
私は雌花と…しかも成長しきった雌花と会話したことがない。その為、雄花と会話しても「それって雄花事情よね?」と言うことが多すぎた。言わば私の今後の生き方について参考にならないのである。私は雌花として生まれたが今の生き方が本当に正しい道を歩いているのか分からないのである。その確認が出来る。一部私の他者依存という悪い癖が出ているが…それでも人生の参考にしたいと思っているのであった。




