腐葉土不足問題
「そう言えば…カリンからも聞いたが、ずいぶん早かったな。」
「あー、この魔女が転移魔法で飛ばしてくれましたからね。本来あの距離は遠すぎて来ませんよ?何用かは知りませんけど。まあ、私の耳に届くと言うことはある程度重要な内容なのでしょうけど。」
基本的に雄花から雌花にアポイントをとろうとしても何処かで植物が中断してしまう。そうでなければ、雌花など数か少なくても一瞬で雄花に見つかり襲われてしまうからである。植物の優先度は基本的には雌花。雌花に不都合な雄花の行動は自動的にカットされるのであった。
「この魔女が飛ばしたのか…」
「ええ、たまたま…かは知りませんが、拠点に乗り込んできて運んでくれるって。」
「…雌花を利用し乗り込もうとしたのか?」
「あら、察しが良いじゃないー。」
「お前に誉められても嬉しくないがな。雌花を寄越してくれたことには感謝はしよう。ただ、雌花を利用する行為は許さん。」
「許してもらうつもりはないわよん。手段は選ばないだけ。何かある?」
「お兄さん。マイお姉さんに要点を話した方が良いと思う。」
「ああ、そうだなカリン。とは言え、話すにしろまだ準備が出来ていないし…」
ケリンは魔女を見た。帰れと言う目で。
「何?殺されたいなら叶えてあげるわよ?」
「お前乗り込もうとしているのかやはり?強行突破出来ないなら雌花を使うと。」
「あら?舐められたものね。だったらここからはこの被検体無しで乗り込むわよ?」
「ケリンさん。やっぱりこの魔女はゴリ押しで乗り込もうとしているんですか?」
「ああ、ただおじいさまの襲撃には対抗出来ないみたいでな。そこいらで引き返すのだが。」
「ッチ。良いわよ。今日こそリベンジマッチしてやる。全員皆殺しにしてやるわ!」
「アユミさん?それやったら中を見に行っても全部灰なので何もわからないと思いますが?」
「………」
私に核心をつかれたのか魔女は黙った。この魔女は戦闘狂の酷いのだが、前世日本人と言うこともあってか…先に手は滅多に出さない。魔女の冗談半分で死にかけた私はいるが…。要は気分で誰かの住みかや拠点を灰にすることは無いのである。ただまあ、やられたらやり返すの度は尋常ではないが。100倍返しの比ではない。
「取り敢えずもう暫く待っていてくれ。カリン。暫くマイについては任せた。ある程度準備が出来たら…厳密にはまだ主役が来ていないから主役が来てからだが…また連絡する。魔女よ。くれぐれも乗り込みに来るなよ。」
そう言うとケリンさんは帰っていった。
「主役って何?」
「えっと…そのうちケリンお兄さんが教えてくれると思う。」
「あら、何か面白そうね。私も見に行こうかしら。」
お前が来ると荒れるから来るなと思う私とカリンであった。それから数日が経つ。カリンも既におじいさん木からは独立しているらしく、村のそばの森を拠点としているらしい。私はカリンと一緒に過ごしていた。大問題だったのが、腐葉土不足である。ここいらの森は土が終わってしまっている。理由は雄花が多すぎるからである。その為、雄花は基本的に狩りをして生活しているが…私にはその習慣がない。この土地では…残念ながら光合成だけでは生きていけない。その為、殆どカリンに村の食料を奢って貰って生きることになってしまった。
「カリン。ごめんなさい。」
「良いの良いの。僕だってマイお姉さんの住みかじゃ絶対生きれないし。」
私の拠点は腐葉土が沢山ある。それ故光合成だけで十分生きていける。しかし、沢山あると言うことはそれを使う生き物が少なく逆に供給してくれる生き物が多いと言うこと。いわば、植物が生えていてもそれを大量に使う私たちみたいな魔物が生活するには危険すぎる環境なのである。気温差の話なら私も無理だが…それだけ強力な魔物が多く、日々殺し合いが起きていると言うこと。私は強力な魔物がいるいない問わず全員束縛餓死させているが…カリンでは1日持たず食い殺されるだろう。
(いつも思うけど、私達って雄花と雌花で全く違う生き物みたいよね…姿形は殆ど同じなのに。)
なお、肝心からめの魔女は…どうやらケリンさん達の住みかに乗り込んでいるようである。あの魔女の悪い癖で待つことを知らない。即行動なのである。まあ、私みたいに迷いすぎて先へ進めないのも良くないが…ゴリ押し戦法ばっかりする魔女もどうなのだろうか。
「どうやらお兄さん達あの人と戦ってるみたい。大丈夫かなぁ。直近僕達の拠点に雌花さんが来るって言うのに。」
私は「平気じゃない?」と思っていた。あの魔女は私を本気で殺そうと思ったことはないはずである。同じ元日本人でもあるが…何度も言う通り、あの魔女に手を出さなければ基本は大丈夫であるからである。しかし、追々分かることだが…既に私とカリンとで認識齟齬が起きているのであった。それから数日後…ケリンさんから植物経由で連絡が来た。




