魔女と雄花
「あ、ケリンお兄さんからだ。えっと…まだ準備は整っていないけど来て良いって。」
「そう。私あそこ苦手なのよね。」
雄花の拠点に雌花が乗り込むのはハイリスクである。いや、敵が多く殺されると言うわけではないが…求婚の嵐になってしまうのである。対処が面倒くさい。
「私が行っても勿論良いわよね?」
魔女がニヤニヤしながら言ってきた。
「え…うーん、僕やマイお姉さんは人間と関わることにそんなに抵抗はないけど…お兄さん達だと皆拒絶するし…。」
「問題ないわ。攻撃しかけてきたら全員殺せば良いだけだし。」
「そ、それは困るよ…。」
「アユミさん。そんな戦闘狂を拠点にいれる魔物はいませんよ?」
「じゃあ強行突破で。」
「止めてください。」
「良いじゃないー、私暇だしー何回か行ったことあるのよ私。途中で飽きたからいつも引き返すんだけどさ。今日なら行ける気がするしー。」
いや、飽きたじゃないと思う。おじいさん木はそれだけ強く魔女の力でも苦戦するのだろう。
「カリン。この人、態度で示すと何人死ぬか分からないから…取り敢えず誰かアポとってくれないかしら。私死にたくないから。」
「う、うん。聞いてみる。」
私は焦り、カリンは恐怖と言う感情のもとで動き始める。アユミさんは私と同じ異世界転生者なので話が通じるかと思えばそんなことは一切無かった。多分前世不良か何かじゃないかと思う。
「ケリンお兄さんが取り敢えず来るみたい。村から出て待っててだって。」
「はぁ。どうなることやら。」
個人的ケリンさんもお兄さんポジションとして私を何度も叱責してくるのである。血の繋がり等無いのに。私はまた面倒臭いやつが来るとしか考えていなかった。かくして昼食が終わり…代金は全部カリン持ちであり不服そうな顔をしていた…人間は自分で払えよと言う意味だろう…村を少し出る。暫くするとケリンさんがやってきて一悶着が…いや、それ以上だろう…始まった。
「おい、マイ!カリンから聞いたぞ。また面倒臭いやつ連れてきたってな。」
「またって…前回いつの話ですか。100年以上私ここ来てないですよ?」
「100年なら最近だろ。」
ケリンは推定年齢1800歳。見かけ年齢も22歳ぐらいの女性か?雄花ではあるが。私やカリンとは感覚が違うようである。
「で、俺らの拠点に入りたい人間…って、貴様か!!」
ケリンは大声で叫んだ。
「あら。誰だったかしら。」
「貴様…お前既に数回俺らの拠点に乗り込んでは荒らしていると言うのに…」
「何ですか?アユミさん。予想していましたがここを襲撃したんですか?」
「マイ。お前もこいつを知ってるのか?」
「まあ…永久の付き合いです…厳密には付き合わされていますが…。」
「あら?貴女達知り合いなのー?いやぁ、被検体がお世話になってるわー。」
「被検体?」
「無視してください。この魔女、適当に私を実験道具にしたいらしくて山の中に乗り込んでくるんですよ。」
「そんな言い方無いじゃないー。世間話もするじゃない?」
「はぁ。」
世間話もするが…殺されかけたことも幾度か有るのであった。いや、寧ろその方が多いような気がした。実際危険な時間はそんな多くはないのだが、一発一発が重すぎるので印象が大きい。
「まさか雌花の方にも危害を加えてるとは…ここで今すぐ殺し…」
「あら?やる?貴女を殺しても良いけど、マイちゃん殺しちゃうわよー?」
「ぐ…」
ケリンさんと私より魔女と私の方が圧倒的に近い。ケリンさんにとって雌花が殺されるのだけは避けなければならない。
「お兄ちゃん。この人僕達の所によく来るの?」
「ああ、お前は村に行くことが多いし、非戦力だから徴集はかからないか。お前も知っての通りここの森は俺らの縄張り。人間が入れば食い殺して良いことになっている。そしてその警告の看板も色々貼っている。だが、この女はそれを無視した挙げ句…奇襲した仲間を皆殺しにしているのだ。」
「あら、襲われたなら殺して問題無いわよね?後、私は人間じゃないからそんなルールは関係なし。何か問題でも?」
「え、だってこの人間さんどう見ても人間だよ。」
「カリン。言わなかったけど…こいつ魔女よ。」
「ええ?!」
魔女というのは簡単に言えば魔王ではないが、それぐらい危険な生き物なのである。敵に回しては絶対いけない。一応だが、私は昔からアユミさんとの交流は極力控えている。理由は同じ異世界出身のためボロが出そうな点と…魔女と関わると碌でもないことが起きそうな気がしてならないからである。魔女が私の側に根本的に出没し始めたのは、私が森に帰ってからかなり経ってであった。アユミさん曰く「暇だから」である。こっちにしてみればのんびり生きたいのに魔女が原因で邪魔されるのは癪であった。まあ、暇つぶしにはなることは否定しないが。
「ああ、お陰様で被害状況も深刻だ。」
「アユミさん?そんなにこの森の中入りたいんですか?特にめぼしいものはないと思うんですけど。」
「うん?魔女は探究心の塊よ?気になったら入ろうとするのが常じゃない?」
「それで皆殺しですか?」
「襲われたら始末するのは当たり前よー?その魔物のフォローする気無いけど、私を襲ったやつは魔物だろうが人間だろうが血祭りよん。」
「マイ?人間も殺してるのかこいつは。」
「さあ、見たこと無いので知りませんけど…色々な話を聞く限り、人間にも干されて街か村か知りませんが吹っ飛ばしたみたいですよ、容赦なく。」
「あー、そう言えばそんなこともあったかなぁ。」
魔女は笑みを浮かべながら思い出し笑いをしていた。ここにいる魔物3匹が全員「こいつやべえ」と言う目線を投げていた。ケリンさんは雌花もいるしこれ以上関わらない方が良いと考えたようである。
相変わらず碌でもないですねぇ。まあ、リアルの人間がチート能力持って異世界転生したら大体がアユミルートだと思いますが。何でも出来る力を持って、それを一切自分の欲には使わず…愚か誰かのためにも使わない、なんの変哲もない一般人として生活出来る人間がいるなら逆に見てみたいわ。




