飛来する魔物
「こんな山奥に雄花なんてやって来ないだけですよ。雄花に付き纏われている時は本当に嫌だったんですから。まあ、今は貴女に付き纏われている感じがしますが。」
「それは貴女が私の実験材料だからね。しょうがないね。うん。」
「はぁ。」
実験材料になった記憶はないが…共に日本人の転生者同士。私自身森の中独り身で永遠と過ごすのはつまらないというのはある。それもあり、魔女の侵入を許しているというのもあった。ただ、こいつ不意打ちで来る点と私が引っ越ししても探知魔法で探し当ててくるから困るのであるが。
「で、何用ですか?」
「暇だから来ただけよ。あれ、それとも体の一部とか提供してくれる?アルビトラウネの素材は超貴重なんだから。」
「超貴重ですか。あれ、私もうずっと人間とは縁を切っていますが…アルビトラウネの素材を使って云々とか人間では流行っていたりするんですか?」
「一部の闇市場ではあるみたいよ。ただまあ生捕りは困難だから素材は超貴重。いや、生捕りもやってる奴はいるみたいだけど…貴女達能力知能共に凄いから街ごと潰されたりしているみたいね。」
「はぁ。あれだけ警告して馬鹿しかいないんですか。」
「大昔過ぎて誰も貴女の警告なんて覚えていないわよ。で、だから強いて死体を見つけたら超ラッキーというわけ。まあ死体なんてあっても腐敗しているに決まってるんだから何かしらに使える見込みがあっても効力はとても低い。」
「ない方が良いです。」
「ただ、闇情報でやっぱり貴女達の花の蜜は色々使えるのではと言った感じなのよ?死体には花はついていないことしかないし、生きている生命体の論文は主に貴女が原因で文献があるからね。」
「はぁ。人間と一緒に過ごしたことが間違いだったかしらね。私そこまで連中の研究に協力した記憶はないんだけど。」
「無かったとしても、生きてる状態の外見は目に焼き付けてしまっただろうし…花の蜜については闇取引云々でバレてるんでしょうから。」
一度話が止まった。切り株が側にあったため、魔女のアユミさんはそこに座った。私自身は光合成という理由で日向で光合成をしている。体が大きくなるに従い、必要なエネルギーが増える。比例して光合成時間も増えていた。
「その面では貴女にそこら辺を襲われない辺りマシなのかしらね…。」
「え、くれるの?ありがとう。」
「前言撤回しますよ?」
「止めてよー。前世からの仲じゃない。」
「前世なんて知りませんよ。この世界で初めてあっただけじゃないですか。」
予め、本気の魔女に私は絶対に勝てない。一瞬で灰である。その魔女が私に対し武力行使で素材をもぎ取ろうとしてこないだけマシではあった。前世同じ日本人とは言え仲間意識で全員仲間なんて事はあり得ない。実際この魔女、前世は人間だが今世間違いなく大量に人間を殺している。世の中そんなものである。
『姫様。お取り込み中みたいですが…どうやら魔物が姫様の花の匂いに勘づいたみたいです。』
「あー、マジか。どこら辺に魔物いるの?」
「実験材料ちゃんどうかしたの?」
「実験材料ちゃんって何ですか?!一応名前ついてるんだから名前で呼べ糞魔女。」
「貴女だって名前で呼んでくれないじゃないー。」
「うるせえ!」
私は前世男性である。機嫌を損ねたり羽目を外しすぎると男性口調になることもあった。
「女の子なんだからもうちょっと口調を和らげましょうよー。」
「普段はそうしてるけど、今は例外にするわ。てか、貴女本当に前世女なの?性格からしてあんたこそ男だろ。」
「れっきとした女性よん。貴女こそ前世は男性に見えないわ。」
「あん?」
『姫様。敵が近づいております。』
「あーそうだったわ。てことで敵狩りにい…」
「敵って?さっき言ってた魔物?」
「ええ、私の花を嗅ぎ付けたみたい。」
『姫様。ワイバーンらしいぜ。大きさは普通ぐらい。』
「ワイバーン?空飛ぶやつ?」
「へぇ。結構強そうなのに目をつけられたわね。」
「はぁ。私空中の魔物苦手なのよね。」
ワイバーンも強力な魔物である。厄介なのは空中にいると地上に比べツルを地面から出してから当てるまでの距離が長すぎるのである。それ故不意打ちが効かない。不意打ちはおろかツルで相手を捕まえることがほぼ不可能。その為、トラップを引いて引っ掻けて捕まえるしかないのであった。その為には大量のツルを使う必要性があり、それでも安全と言う保証はないのである。
(と言ってケチ付けてても来ちゃうし…殺りますか。)
私は地面にツルを差し込みありとあらゆる所にツルを生成していく。ここは森の中、木々が多い。ツルと木々を使うことにより様々なトラップを作りやすいのだが…
「ねえマイー。ワイバーン私が殺っても良い?」
「え?」
「いやー、私普段小屋に住んでるけどあそこ何も敵いないし…人間のそばに住んでる魔物なんて手応えないし…最近暴れ足りないのよ。」
「相変わらずの戦闘狂ね…。」
「その代わり死骸は貰うわよ?」
「ご自由に。というか欲しいだけか。」
「あったりー!」
補足しておくが…アユミさんが住んでいる小屋の回りにも魔物はいるはずである。あそこも森の中だし。ただ、アユミさんが強すぎて皆逃げたか駆逐されたか、はたまた魔女基準で全員雑魚なのかどれかである。
「とりあえず私が怪我しなければなんでも良いです。」
「よし、じゃあ来たら吹き飛ばすね!」
私は分かったことがある。自己防衛しないといけないと。敵の攻撃もそうだが…仲間もろとも吹き飛ばそうとしている感じがした。
(ま、念のため防波堤は貼っておきましょうかね…)
魔女の強さは知っている。任せても平気だろうが…念のためツルを使ってトラップは色々木々に絡ませることにした。




