神獣の妙案
「キャシーさん。準備とフェンリル様は仰っていましたが…それにしては特に何も持っていない気がしまして。ただの買い出しですか?」
「それが私にーも分かりまーせん。」
大丈夫なのかしら。それしか考えられない私であった。私は魔物である。フェンリル様も魔物…神獣ではあるが…である。人間は魔物を狩るのが常識。人間に害をもたらすため。しかし、ただの一般人であるシュウ君ならともかく…影響力が非常に大きい聖女様をフェンリル様が管理すると言うのはどうなのだろう…と疑問を隠せない私である。
「こんなところで良いか。ふむ。回りには誰もいないな。」
裏路地と言うか空き地だろうか。植物は勿論生えているが…冬だろうがなんだろうが植物の生命エネルギーを舐めてはいけない…それ以外を探知魔法で検知したのだと思う。私は魔法が使えないのが最近のモヤモヤであった。森の中生活ではその様なものに関わる機会さえなかったのである。隣の芝は青い状態だった。
「フェンリルー様。ここーら辺に何かあーるのでしょうか?」
「いや、出来れば我がこやつらを送り戻す際、キャシーも一緒に運びたいのだが…お主の体格では限界がある。」
キャシーさんは若干不服そうな顔をした。どうやら魔物にはデリカシーと言うものがないらしい。ちゃんと補足するが、キャシーさんこと聖女様はガチの美女である。スタイルも完璧レベル。まあそれが回りに対して違和感丸出しなのかもしれないが。
(理論上は確かにフェンリル様の上に子供3人乗り込むだけでもキツキツだからね。分からなくはないんだけど。)
もう一人は今はいないが妖精のアースである。ふと思ったが、帰るだけならアイツ要らなくね?実際今転移魔法で、デレナール領のそばにある黄金リンゴの木が大量にある場所にいるはずだし。
「だが、先程の件もあり聖女をあの教会に置いたまま帰るのは躊躇われる。そこでだ。」
フェンリル様は何かしらの魔法をキャシーさんに飛ばした。キャシーさんの肌の色、髪の色、目の色が変化していく。所謂教国での普通の姿になった。服まで変わっている。
「こーれは一体。」
キャシーさんは動揺しながら髪の毛や腕を見たりして自身の様子を観察している。
「数日分の生活費用は持ってきているはずだ。お前は一度世間の一般がどう言ったものかを体感すべきである。」
「えっーと。」
「一度シスターなり聖女なりと言う役職を捨て一般人として数日過ごすのだ。いわば数日休暇だな。外見を偽造したから誰もお前を聖女と言う目で見るやつはいない。」
「で、ですが…私今ーまで一人で…」
「所持金は持ってきているだろう。数日は持つはずだし、働けとは言っていない。宿に入り食べ物を買い食事をする。それだけだ。目標は自炊が出来るではない。一般人の世間の目が本来どのようなものであるのかそこを理解するのだ。」
私はやり方が若干強引だが最終手段なのかと考えていた。実際のところ、リアルで辛くてもゲームでそこまで辛くないは良くある。それはリアルでの自分と言う固定概念をゲームに持ち込まないからと言うことでもある。数日間別人として生活することにより世間の一般の見方を見ろと言っているのである。
「分かりまーした。とりあえーずやってみーます。」
キャシーさんも選択肢がないと思ったのだろう。或いは、今の辛さを脱却するためにフェンリル様にすがろうとしているのかもしれない。どちらにしても聖女様は自身を革命しようとしていることは分かった。
「うむ。こやつらを送ったら再度我はやってくる。探知魔法を使うからお主を探すのは難しくない。暫く回りを気にせず気楽に過ごすが良い。」
「分かーりました。」
かくしてキャシーさんは一人で街中に歩いていった。
「なんだ。心配か?」
「まあ。」
「やはりお前は変わった魔物だな。聖女は魔物にとって敵対すべき人間のはずなのに聖女を心配するとは。」
「キャシーさんは理解してくれそうな気がしますから。魔物イコール害悪じゃないと。それだけです。」
「ふむ。その小僧がお前の考えを変えたのか…元々なのか…まあ、おいおい分かるだろう。」
かくして私達は教国を後にした。途中勿論アースは拾っている。若干早かったので少々待ったのだが。私は思う。聖女様は私と同じ転生者であった。そして優しさゆえに回りに振り回されていた。フェンリル様がキャシーさんを指導して彼女なりの幸せを見つけてほしいと願っている。そしてその言葉は年々不幸になっているマイ自身には自分も含めて誰にもかけて貰うことが出来ないのであった。




