入院手続き
「それにしても、喋れる魔物なんて初めて見たわ。テイマーならたまに街中でも見かけるけど。」
「ここの街に来てから何度も言われます。」
「それはそうでしょ。それで、どう言った経緯でここに?」
シュウ君と私で事の経緯を全て話した。簡単に言えばヘルプミーである。
「そう。まあ、孤児院はどう言った経緯でも良いから子供のみになってしまった子達を助ける施設だから、入所して大丈夫よ。ただ、魔物はねぇ。」
まあそうであろう。それについてはぐうの音も出ない。
「シュウ君を引き取ってくれれば大丈夫ですよ。そしたら私は山に安心して帰れますし…うーん、懸念点は残りますが。」
「え、やだやだ!お姉ちゃんと一緒がいい!」
「懸念点?」
「こう言うのはアレですが、施設が古いというか…。」
「領民の税金で経営していると言うのがあって…聞いたかどうかは知らないけど、領主の妻が魔物好きでね。費用の一部がそっちに行ってしまっているのよ。まあ、給料とかはちゃんと貰えているし子供達が生活できる水準までは、ちゃんとしているんだけど流石に改良工事となると現実的じゃないのよね。」
うーん、領主の妻のお陰でこの町は他の町に比べ人間と魔物が共存していることは事実である。但し、それゆえ何かしらの犠牲は付き物ということであろうか。領主の予算的に正当な範囲内なのか異常なほどの暴君なのか…こればかりはハッキリしないし、ハッキリしたところで私に何が出来る?
「ねえねえおばさん!お姉ちゃんも一緒じゃだめ?」
「お姉さんよ?うーん、見た限りじゃ問題なさそうだけど…」
子供達は私をジロジロ見ている。一部の子は花を見ている。私は違う意味で危機感を覚えた。孤児院の中にあったとある植物から声がかかる。
『姫様。シュウ殿はまだしも、他の子供と一緒に過ごすのは危険かと。子供は何をするかわかりません。姫様の花に悪戯されると大変なことになりかねません。』
前世人間だった頃の私も子供の時は結構悪戯好きであった。スコップを振り回して、植物の花を切断していたこともある。そんなことやられたらたまったものじゃない。ちょっと考えたが、やっぱりシュウ君と2人で一緒に過ごすというのはもう不可能であると悟っていた。ただ、孤児院であればシュウ君は流石に生きることが出来るであろう。預けて私は去る。どっちも幸せとはこのことではなかろうか。
「私は今までずっと森で過ごしていた魔物です。それにあまり子供と関わると物珍しさに悪戯されかねないので…シュウ君を預けて私は帰った方が良いかと。食費とかもあると思いますし。」
「ヤダヤダ!お姉ちゃんと別れるのやだ!お姉ちゃんと一緒にいたい!!」
「これは困りましたね。」
『我が儘なガキだな。』
シュウ君の声が外にも漏れたのだろうか?外に生えている雑草がそういっているのも聞こえた。
「うーん、じゃあわかった。こうしよう。」
孤児院のおばさん…お姉さん?…とシュウ君。後何故か、他の子供達もこっちを見た。
「私の体質上と経験上、ここに私が居続けるのは無理。だけど、シュウ君がそこまで言うならという点と、結局私もシュウ君の魔物なんだからということで…」
「いうことで?」
「私は1人でしばらくこの街の外の森で生活する。そんな遠くないところに拠点を作れば、定期的にはこの町に来れるし…そしたらここにも顔出す。それでいい?」
「ずっと一緒は…」
「シュウ君も自立しないとダメ。それにほら。」
シュウ君に私の左腕を見せた。
「これがある限り私はシュウ君と一緒に過ごすことが義務付けられているようなものなんだから、ちゃんと数日おきにここに来るよ。それで良い?」
拠点といえば、この町に入る直前に少々たむろしていたところ。あそこで十分である。ちょっと街道が近いのが難点だが、わざわざ森の中に入ってくるやつはいないだろう。いたら危険人物と判断し、絞めれば良い。
「………」
「シュウ君であってる?こんなに君のことを考えてくれる魔物なんて他にいないよ。恵まれているんだから少しは妥協しなさいな。えっと…じゃあ、この子は預かるということで大丈夫?」
「はい。あ、これでも私シュウ君に対して命掛けて守ってあげたつもりです。万一が起きたら魔物として容赦しませんのでそこはご愛嬌。」
「大丈夫よ。ちょっとオンボロかもしれないけど、ちゃんと子供の面倒は見るわ。彼が自立出来る年齢になったらまた一緒に行動してあげて。」
「はいはい。」
「お姉ちゃん…。」
「大丈夫よ大丈夫。数日おきに必ず行くから。」
「うん!」
拠点から、ここまで大体1時間半程度。まあ良い運動にはなるだろう。前世は引きこもり気味だったし。数日に一度ぐらいなら問題ないというより健康に良いはず。魔物基準だと分からないけど。ということで、漸く2人はある程度の生活を約束することが出来た。シュウ君を孤児院に入れた後、ギルドと守衛に回りに行った。相談内容はどっちも共通で、シュウ君を孤児院に預けたこと。私は街の側の森で生活すること。そこに無断で立ち入らないでもらいたい事。後、週2-3回この街を訪れる事である。魔物が単体で街へ来るとアウトのような感じがしての相談であったが、テイマーの中にはざっくり放し飼いの人もいるらしい。問題が起きたら勿論魔物は処理され、テイマーに責任が生じてしまうが…なので、左のリストバンドさえつけていれば守衛を返して自由に出入り出来るとのことであった。ある意味で領主妻には感謝である。
(これで何も問題が起きなければ良いんだけど。)
いつものフラグ建築ではある。なお、ギルドには私が生活する場所近傍には近づかないようにと他のハンターに通知してもらった。まあ、人が通る街道の側に魔物が巣を作ったらそれこそ駆除対象である。とはいえ、巣があるから問題なのではなく魔物達が街道に降りてきて人を襲ったり作物を漁ったりするのが問題なのである。別に私はそんなことする意味もないし、シュウ君がいるのに人間に喧嘩売る意味もない。看板を立てるという案も考えたが、下手に何か立てると却って人を集めそうな気がしたので止めることにした。第一街道が近いとは言えあくまで森の奥。わざわざそこに入る人間など、自殺願望者ぐらいだろう。ということで、しばらくの間、漸くいつものように森の中で一人暮らしが始まったのであった。
区切り的にここで区切って次の章に行きます。「花」の魔物が強いのか弱いのか…今後が気になりますね。