テイマーの順応性
「シュウ君。お金は持ってきてる?」
「えっと…無くはないけど…大体ギルドに預けちゃってるから。」
「うーん、えーっと…植物さん?この国のギルドは何処?」
『えっと、この道を暫く道のりの後左に曲がります。その後は別の植物が案内してくれるかと。』
「ありがとう。」
どちらもコミュ障である。道を歩いている人々に聞くことが出来ない。しかし、第3者から見ると結局植物も赤の他人のはずなのだが…ここに生えている植物は普段マイが住んでいるところに生えている植物ではない…マイはやはり他人ではなく人間が苦手なのであった。
(シュウ君の財産が予想より少なかったわね…お金を念入りにチェックしなかった私が悪いのか、ギルドで換金前提で栄光達がぶん投げたか…余り考えないでおきますか。)
シュウ君の所持金は学校生活時に使うお金が大半である。そろそろ入学が近いとは言え余分なお金は払えない。このままで大丈夫か私は不安であった。
(人間は不便よね。植物ならそこら辺に突っ立ってるだけで生きれるのに。)
アルビトラウネでそれが出来るのはマイぐらいである。雌花は狩りをしないで意識して光合成をするのが主流らしいが…マイは前世人間でありおばあちゃん木からもそのように生きろとは言われていない。野生の本能なのであった。最も、雄花の場合は雌花とは立ち回りが違うことが多く、大抵はケリンさんのように良く狩りをしている。カリンに至っては人間と交渉して物の売買すらやっている…カリンはちょっと魔物としては異常ではあるが。
「ここがギルド?」
「みたい。」
「取り敢えず小金貨1枚ぐらいかな。」
「うん。」
小金貨1枚は日本円で1万円ぐらいである。ぶっちゃけ数日の食料では高すぎるが…足りないよりはましだろう。余れば帰り使うとか…山の中だからないと思うけど…或いは口座に入れ直せば良い…ギルドに入り換金して貰う。
「あら、お使いかしら?ギルドでは他者からのカードを利用することはダメなのよ。そう言ってもらえないかしら。」
シュウ君も私も見た目10歳である。いや、シュウ君に至っては実年齢10歳である。お使いと間違えられたらしい。
「え…これ僕のカード。」
シュウ君は自分のギルドカードを受付嬢に提出した。ギルドカードは万国共通のはずである。そうしないと色々成り立たなくなるはずである。
「貴方の?」
信じて貰えないようであったが…カードの認証とシュウ君の手認証が完全一致するため、受付嬢も何も言えない。
「貴方?いくつ?」
「うん?10歳。」
「10歳でハンターなんてやってるの?ご両親は認めてくれたの?」
「うーん…孤児だから…。」
「そうなの。大変ね。」
受付嬢のミサさんはシュウ君の過去を少しは知っている。しかし、基本的には他人なんてどうでも良いはずである。この受付嬢も後ろがつっかえていると言う事もあり、要件を聞き出すとお金を渡してくれた。余談だが、莫大な金額になってくると受付嬢では対応出来ない事もあるとのことである。今回は小金貨1枚程度のため受付の方で対応して貰えた。
「うん?貴方テイマーなの?」
「そうだよ。」
「魔物はいるの?」
「いるけど…」
シュウ君はチラッと私を見た。私は困惑した顔をする。この教国は聖女が結界を貼ってくれたお陰で魔物は入ることも出来ないし、入ろうものなら即死である。テイマー自体がここにいるのはおかしくないが、テイマーの魔物がここにいたらおかしいのである。
「今は旅行中なの。で、お金がなくなっちゃったからここに立ち寄ったんだけど…僕の魔物さんこの街に近づきたくないみたいで、待ってもらってるの。」
「あら…だったら早く戻ってあげなさい。この街は聖女様のお陰で魔物はいないけど、この街を出たら凶悪な魔物がいるらしいわよ。貴方はまだEランクみたいだし、従魔もそれぐらいなんでしょうから。」
「うん。ありがとう。」
かくして、ギルドから換金出来たわけであった…が、私は腑に落ちなくて腕を組みながらシュウ君の横を歩いていた。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「え…ああ、いやシュウ君切り替え上手いなぁと思って。私嘘つくの苦手だから、魔物について私が聞かれたらどうしたのかしらって。」
「そうかな。僕も咄嗟に言葉が出ちゃった。」
「お、おう。」
咄嗟でそこまで切り替えれるならばそれこそ苦労しないんだよなぁ。時たまシュウ君はびっくりするような能力を出すことがある。いや、チートスキルとかそう言うのではなく順応性とかそういった人間としての枠でだが。