「優しい」という名の「操り人形」
「聖女様?先ほどの結界の話ではないでしょうか?」
私は仕方なしにケツを叩くことにした。これで十分だろう。
「あー。そうでーすね。マイさんかーら聞きまーした。今の結界ーは不十分でーすと。」
「不十分だと?」
反論したのは神父様であった。私は「え?」と驚く。声が大きかったのか、シュウ君も驚いた顔をしていた。
「お前はただの子供だろう。何故聖女様の結界が分かるのだ。」
私は黙る。いや、言われればその通りである。しかも、反論しようものなら私は魔物ですと言うのと何も変わらない。
「聖女様もたかが子供の話を鵜呑みにしたのですか?聖女様は書籍を読みこの結界について考慮し国民のために貼ってくださったはずです。それを自分自身で否定するのですか?」
私は心の中で「あー、この国終わってるな。」と思った。発言は聖女様を肯定しているが…嘘である。聖女様の話をまとめると「俺らの言う事を従え。」と言う命令にしかなっていないのである。聖女様に自問自答させ自身を否定させないようにしている。プライドを上手く利用して。否定すれば聖女様自身は自身で自滅してしまう。肯定すれば自身の肯定ではなく教国の命令が正しいと主張させることが出来る。
(聖女様の立場ないわね…聖女様はやっぱり聖女という器で操られているだけか。)
キャシーさんが悪いのではない。いや、自己主張が苦手だという意味では悪いのかもしれないが…彼女自身の話で散々周りから存在否定されて来てしまっているのが原因で…彼女は周りからは非常に優しい女性なのである…それ故、どれだけ自身に能力があってもそれを肯定出来ず周りに使われたい放題になってしまっているのであった。
(学校で起きてるなら学校の問題だけど、この国は教国ということみたいだし…おそらく教会が国に影響を与えているのよね。その影響を一番今持っていそうなのが間違いなく聖女様。で、聖女様が操られている状況じゃなぁ…。)
どっかの魔女曰く、洗脳魔法を使えば相手を操れる。ただ、洗脳魔法は所詮魔法だし…前世日本で例えれば常に首元に爆弾をつけられて逆らえば殺されるようなものである。要は犯罪である。しかし、今回は前世日本社会でも普通にあり得る。上司が部下を操り逆らわせないような状況と変わらない。言葉の恐喝は犯罪ではない。例え、やられた側が壊れて鬱になろうが自殺しようがやった側は無罪である。寧ろ、歯向かえなかった弱者が悪いとか弱者が自分の考え方を変えないのが悪いとかそうなってしまうのである。いや、その言い分は間違ってはいない。私自身だってそういうことがあったのでちょこちょこ自分を直そうと努力はしていたはずである。まあ、結果としていつ死んだかは知らないが、この世界に転生したことには変わらないが。
「分かった。予想より深刻のようだ。聖女ことキャシーよ。この後、お主と2人だけで色々話したい。良いか。」
「分かりまーした。」
「フェンリル様?今日この後聖女様には国民の治療にあたってもらう予定なのですが…」
「聖女が動かなければならないほど重篤な病人なのか?」
「風邪の患者様と擦り傷で…」
「そのレベルを聖女にやらせているのか?」
「しかし、教国の民は聖女様に治療を…」
「代理などいくらでもいるだろう。或いは我に逆らうのか?」
「フェンリルー様。国民の皆様を無下にすーるのは。」
「他言無用だ。」
これはフェンリル様ガチで大変そうだと思った私であった。今の聖女の優しさは「優しい」ではない。操られているだけである。フェンリル様は根本から直すつもりか?フェンリル様は神獣様であるが、神獣様はそういった仕事もやらされるのかと半ばかわいそうに感じた私であった。
「すまない。お前達は食糧を調達するのであったな。」
「ええ。」
「うん。」
「2人で準備出来そうか?」
「…手段問わないで良いですか?」
「悪い事をしなければなんでも構わん。」
子供2人で食糧調達は危険である。いや、デレナール領みたいにある程度素性が分かっていたり日本ならワンチャンあるかもだが…今の状況では前世換算で発展途上国で買い物をする感じに似ている。
(植物に全部聞くかぁ…。)
シュウ君も別に外交的ではない。私も同じ。私は植物に全部頼ることにせざるを得ないのであった。