聖女の正体と聖女の真意
「シュウ君。念の為聞きたいんだけど…後食糧どれぐらい?」
「え、えーっと。後1日ぐらいかも。」
「あん?」
私は予想していた。シュウ君の体格的に鞄に詰め込める量に限界があると。栄光達が私達を送り出す時に「食料が足りなくなるかもだから向こうで調達してきて。」的な内容をこそっと言われていたのである。要はこのまま帰ったらシュウ君は餓死にはならずとも1日程度飲まず食わずになってしまう可能性があった。更に聖女からもとんでもない発言が飛んできた。
「あ、そうでーす。そこのお嬢さんに聞きたいことがあーるのでした。」
「…私ですか?」
「でーす。そこの妖精さんの名付け親らしーいですね。」
「名付け親?」
「ボクの名前をつけてくれたやつじゃないー?」
「え…まあ、それはそうなんだけど…。」
私の記憶に狂いがなければ、「名前が欲しい」とかなんとかアースにせがまれて「アース」と言う名前をつけたはずである。大地の妖精だったので「土」と言う意味を込めて「アース」とした。
「でしたーらば…Do you know the Earth?」
「………!!」
私は唖然とした。この世の中に英語は存在しない。私が前世英語が苦手項目であったが、流石にこのレベルならわかる。周りをちらっと見たが、恐らく誰も理解していないと思われた。植物でさえ『なんだ今の発音?』と言う囁きが聞こえてきた。
「Ah…. May be.」
「Really?! Where are you from? I’m from New York!」
「あー、地球時代の祖国?えーっと…I’m from Japan.」
「Oh! Cool! I love Japan. I have been one time and…」
私は頭がフリーズした。私は英語が苦手なのである。とてもじゃないが会話出来ない。
「So…Sorry. I hardly understand English.」
聖女が英語で色々語り始めてしまったので私は声を漏らした。
「Ah...ごめんなーさい。つい嬉しくてでーす。」
「お姉ちゃん?何話してたの?お姉ちゃん達の別の言葉?」
そんなわけがない。百歩譲ってアルビトラウネ共通言語があるとして、聖女様が喋れるわけがない。
「聖女様?何かの呪文ですか?」
「あーまあそんな感じでーす。フェンリル様。お願いがありーます。」
「何だ?」
「フェンリル様を教国でお迎えに上がーるにあたり…神獣様を連れてきてくださっーた彼らも迎え入れたいでーす。」
「え?」
「はい?」
「どう言うことー?」
「聖女様?!一体何を考えているんですか?!」
聖女様の発言にシュウ君、私、アース、従者までもが突っ込んでしまった。しばらくして、聖女様を筆頭に教国に向かって全員で進んでいく。迎え入れると言っても定住ではなく、感謝の意味を評してお礼に食事をする程度の内容であった。ただ、結局食事をしてお仕舞いにならないのがいつもの事である。第一キャシーには「地球出身の魔物ともっと会話したい」があった。彼女自身は無意識の内に孤独を解消したかったのかもしれない。
「シュウ君。この先結界が貼ってあるのよね?」
「うん。」
「今、確かに私何も感じなくなったけど…私大丈夫なのかしら。」
「マイお姉ちゃんの葉っぱなら結界に入ったら燃え上がったよー。」
「ふーん…って、は?」
私は立ち止まった。待て待て、死ぬだろそれ!
「聖女よ。再確認になるが…我が結界の中に入っても大丈夫なのか?魔物避けがあるのだろう?」
「大丈夫でーす。フェンリル様を結界対象ー外に指定しておきーました。」
そして聖女様は歩く速度を落とし…私の傍までやってきた。小声で耳打ちしてきた。
「貴女様も同じ処理ーは施してまーす。貴女、魔物でーす。」
「く……」
私は更に後ろに下がる。変装でバレていないかと半ば期待していたが残念な結果らしい。
「安心してくだーさい。貴女の正体は今ーは隠しまーす。腕のそれも出来れーば服の下に隠して欲しいでーす。教国は魔物を嫌っていまーす。」
「…貴女もでは?」
「私は常に平等主義でーす。」
「聖女様?どうかされましたか?」
「あ、いえいーえ、行きまーす。」
聖女様は行ってしまった。私は考える。植物から色々言われていたが…固定概念にヒビが入り始めていた。
(どう言うことかしら。聖女は魔物を駆除する人間じゃないの?さっきの話し的に確実的に私を庇っている。それに恐らくあの聖女も転生者よね。私やフェンリル様が例外なのか?植物の情報に食い違いが?)
私達は教国に向かい始める。私は気になることを植物に問い合わせることにした。
「ねえ、植物さん。聞こえてる?」
『はい。』
「移動しながらだけど大丈夫?」
『伝言で伝えていくから平気だぜ。答える奴は毎回変わるがな。』
「了解。聖女って実際どんな奴なの?魔物を駆逐したと言う情報は入っているけど…それにしては私を庇っているように見えるし。」
『…姫様。詳しいことは教国の中の植物に聞いた方が宜しいとは思いますが…』
『あれあれ、植物は聖女の結界対策嫌ってるのよ。』
『勿論姫様を含め、魔物を駆逐する可能性があることは明らかです。』
『その後、色々あったらしいが…その色々は植物は話さねえと思った方がいいぜ。植物だって全部知らねえし、姫様に関係無い情報かつ不都合な情報は隠すんだぜ。』
「そう…じゃあそこら辺は調べるとして…植物が聖女を嫌っているとは?」
『結界内部に入れば分かるよー。姫様結界に入って大丈夫なの?魔物だよねー。』
「うーん、大丈夫って言っていたけど…故障臭いし、シュウ君にまた確認させようかしら。」
『それが良いの。でじゃが、植物が聖女を嫌っている件じゃ。』
『そろそろ結界じゃね?』
とのことなので、私は再度体から1枚葉っぱを剥がした。髪の毛を何本も同時に引っこ抜く感覚なので嫌なのだが…結界に触れて灰になるよりはマシである。
「シュウ君。植物達の話だと私の葉っぱは灰になっちゃったんだって?」
「あ、うん…無くなっちゃった。」
「よし、じゃあこれでまた試せる?」
「あ、お姉ちゃん!」
「シュウお兄ちゃんー、だからそれはマイお姉ちゃんじゃないからねー。」
アースの突っ込みが良く分からない私であったが…とりあえず、葉っぱは燃えることはなく結界を通過したようである。
「お姉ちゃん、大丈夫そうだよ。」
「ありがとう。フェンリル様、結界は大丈夫みたいです。」
「うむ。」
かくして結界の中に2匹の魔物が乗り込むことに成功したのであった。
シュウマイストーリーのテーマである種族間における「認識齟齬」問題ですね。うーん、難しい。




