魔物に対する聖女の判断
「お、お姉ちゃん?!」
シュウ君はビックリ仰天して私を手放した。私はそのまま地面に倒れ込む。
(聖女…何した…?)
私は辛うじて生きている意識で自身を見たが、取り分け何も起きていなかった。体調も変わらない。
「どうーですか?楽になりましーたか?」
『姫様、大丈夫ですか?!』
私の答えは聖女からだろうが植物からだろうが「ノー」であった。首を振る。
「うーん。おかしいでーすね。大抵はこれでいけーるのですが。念のー為、ダメージ回復だけでなく状態異常回復もやってみーます。」
シュウ君は結局のところ聖女の魔法の強さに腰を抜かしてしまったようである。私が魔法に晒されるのを見ていることしか出来なかった。
「シュウさーん。お姉さーんは予め持病とか…?」
「え…」
その時、キャシーの目に私の左手首が写った。私の左手首には従魔の印であるリストバンドのようなものが付けられている。テイマーに飼われている従魔の証である。この証は万国共通であった。
(もしかしーて、シュウさんのお姉さーんは魔物なのでーすか?)
シュウはマイのことをお姉ちゃんと言い続けている。アースでさえマイお姉ちゃんと呼んでいた。これだけの情報では彼らの姉は人間、或いは妖精、強いてハーフになってしまう。取り分け妖精に本当の姉がいるかなど不明。無難に考えればシュウの姉であり、人間であると考えるのは妥当なのである。ましてや魔物等論外。取り分け、マイは服やら帽子やらで初見ではどう見ても人間の女の子なのである。擬似スカートでさえ、葉っぱで出来た飾りがスカートに付いていると考えれば触らない限り本物とは思うまい。
(であれーば、あの魔物を庇う様な行動は説明出来まーすね。ただ、初めの頃は私に助けを求ーめて、急に警戒した理由はわかーりませんが…。)
マイからシュウに本気で警告を飛ばしたタイミングが遅すぎたのが原因であるが…これはキャシーには分からないのであった。
(聖女として魔物から教国は守りーますが、実害が無い従魔を殺めーるつもりはありません。取り分け神獣様の依頼でーす。背く方が教国に被害が被ーる可能性があーります。)
キャシーは聖女として結界を貼ったのである。しかも、それが原因で従魔を吹っ飛ばしてしまい謝罪やら賠償金やら散々な目を受けていた。その為、その対策については今後の為と個人的に言及していた。教国自体は魔物に対して敏感であり、彼女自身も駆除に携わったことはあるが…魔物を見かけたら即刻駆除と言う様な理不尽な不等式はないのであった。寧ろ、それはマイの方が近いかもしれない。強者の余裕があるのかもしれないが。
「となーると、こっちでーすね。」
シュウ君がちゃんとした返答をしていない中で、聖女は私に何かしらの魔法をかけた。今回は特に私の体が光ったりしない。しかし、一気に体調が軽くなっていく。
「う…ううん?」
私は植物の魔物である。現状天気が良く日光も差し込んでいる。回復が始まれば復帰も早かった。私は立ち上がる。
「お、お姉ちゃん!」
シュウ君は私に抱きついてきた。まだ病み上がりのため、体はそこまで耐えれない。再度私は倒れてしまった。シュウ君も釣られて。
「イタタタ…シュウ君。もうちょっと、抱きつく癖なんとかならない…?」
「あ、ご、ごめんなさい。」
私の急所は頭の左上についている花である。帽子を被っているとはいえ、左側から転倒したら場合によっては命に関わるのであった。今回は背中から倒れたが。2人は立ち上がった。
「聖女のお姉ちゃん。ありがとう!」
「いえーいえ。」
「………」
私はシュウ君を撫でながら警戒している。どうやら助けてくれたみたいだが、それと魔物皆殺しとは話が別である。
「神獣ー様。これでよろしいでーすか?」
「うむ…。我も頼めるか…?」
「喜んででーす。」
フェンリル様も回復した様である。アースは知らぬ間にこっちに来ていた。
「マイお姉ちゃんー?平気ー?聖女になんかされた時心配だったよー?」
「ええ…アース。聖女を見ていて何か変わったこととかあった?」
「変わったことー?うーん、見た目が変わってるぐらいしかないかなー。」
聖女様の髪は銀髪。更に今まで見てきた他の人間に比べ明らかに肌白かった。美人という単語では説明が付かない外見なのである。フェンリル様と聖女様は少々会話をしていた。
「ふむ。と言うことは我もお主が貼った結界の中に入れると?」
「はーい。結界の効果を例外的に外しーました。フェンリル様も教国に入ることが出来まーす。」
「聖女様?!どう言うことですか?フェンリル様は神獣様とはいえ、教国に入るなどと…他の方々が許すはずございません!」
「例えそうでも…拒絶は教国の崩壊を意味しまーす。」
「しかし…」
フェンリル様は従者の騎士達を睨んだ。彼らは黙る。
「さて、小僧、小娘、妖精よ。案内ご苦労だった。ここまで来れば我もいつでも聖女に会える。一度お前らの故郷に送り返そう。」
フェンリル様がその様に声をかけたが…話は早々上手く収まらなかった。