植物達からの「虐殺者:聖女」と言う警告
『姫様。お連れの男の子がこちらの方へ向かっているようです。』
『姫様。聖女も連れてきたみたいだぜ?万一を考えて戦う準備した方がいいかもな。』
(く…マジか…)
現状私は辛くない姿勢でフェンリル様に寄り掛かっている。フェンリル様も私ほど致命傷ではないにしろ…被ダメは受けているのである。
「フェンリル様…聖女様が…もうまもな…く来るみたい…です。」
私は頭痛やら吐き気やら体調障害だらけで戦える状態ではない。フェンリル様が聖女様を探しているのであればフェンリル様に色々任せるしか手段がないのである。
「わかった…。探知魔法はきついが…立つことぐらいなら出来る。」
フェンリル様は立ち上がる。私は右を下にして寝転がることしか出来ない。
『姫様?連れの男の子が街道を抜けたようです。こっちへ向かっているかと。』
「フェンリル様…来ます…。」
少しもせず、人影が見えた。子供2人と少女1人と男3人か。
「お姉ちゃん!連れてきた!お姉ちゃん、大丈夫?!」
シュウ君は私に向かって走ってくる。シュウ君は私の肩をつかみ座らせようとしてくれた。優しい手である。なお、体調的には横のままにして欲しい。
「少年!危険だ!」
後ろからはそのような声が聞こえた。まあ、フェンリル様が傍にいるのである。その横を走りすぎるなど自殺しに行くようなものであった。端から見ればであるが。
「お前が…聖女か?」
フェンリル様は少女の方へ歩いていく。フェンリル様は高さだけでも相当ある。少女より大きかった。
「そう呼ばれーてます。」
「フェンリルー、らしいよー。後ろは従者らしいー。」
「先ずは頼みがあるが良いか…。」
「はーい。」
「お前が聖女であるならば先ずは我と小娘の不調を何とかしたまえ…。取り分け我より小娘優先で構わぬ…。」
「申し訳ありまーせん。小娘…体調を崩された少女はどーちらに…?」
フェンリルは後ろを振り向く。シュウ君に介護されている私はフェンリル様と会話している少女を見た。恐らく私の顔つきには憎しみと恐怖があったと思う。
『姫様。あれが聖女だぜ。あいつが結界を貼ってるんだ。やっちめば姫様落ち着くと思うぜ。』
『攻撃したらフェンリルに殺られそうだけど?』
『じゃあ両方やっちめよ。』
『姫様。聖女様は魔物を一掃した過去がございます。あまり関わらない方が身のためかと思います。』
植物からは非難の方が多いのだが…動こうにも動けないのである。そして聖女はこっちを振り向いた。
「シュウ君、お願い…私を出来る限り、聖女から離して…。」
「え、聖女様と?」
「うん…。聖女は魔物を駆除する存在…取り分け、見境ないらしいの…私、殺される…。」
「えええ?!」
シュウ君は過剰に反応したが…従わざるを得ない。彼にとってマイは極度に依存してしまっている点、いなくなってもらっては困る存在になってしまっていた。勿論、私はそんなふうになるように育ててはいない。寧ろ魔物が人間を育てるなど前代未聞である。本来であればシュウ君は私のテイマーであり私はシュウ君の従魔なのである。しかし、その関係は2人の間では既に崩壊しつつあった。シュウ君は取り敢えず、私を引きずって聖女から私を引き離そうとする。聖女ことキャシーはいち早く異変に気づいた。
「どうかしましーたか?神獣様がその少女を治すよーうにおっしゃっております。」
聖女が動き始めた時、2ヶ所から声がした
「せ、聖女様!お…お姉ちゃんを殺しちゃダメ!」
「聖女様。それ以上奥に行くのはお辞めください!万一の時対処出来ません!」
聖女が連れてきた騎士の従者達はフェンリル様がそばに来た時に数歩後退りしていた。臆病と突っ込まれそうであるが…本来フェンリル様がそばに来たら怖気付くのは当たり前である。シュウ君達は数日一緒に過ごして来たと言う背景がある。聖女に至っては神獣の意味をしっかり理解しているからこそ怖気付かなかっただけであった。
「大丈夫でーす。フェンリル様は魔物でーすが、神獣様でもあーります。こちらが失礼しない限り襲うこーとはないです。」
「聖女様!」
従者の言葉を無視し、キャシーは私やシュウ君の方へ近づいてきた。私は抵抗しようにも力が出ない。シュウ君も抵抗しようにも大きい荷物を引きずっているのである。おまけでシュウ君は10歳の体格だし、筋肉質なわけがない。あっという間に聖女はそばまでやってきた。
「その人が貴方のお姉さんでーすか?」
「う、うん…お願い!殺さないで!!」
「え?えっと、私は患者を殺しーたりしません。」
キャシーは問答無用で私に向けて両手を掲げた。彼女の両手が白く輝く。私の体も白く光り輝いた。
害のない魔物まで全部駆除する聖女ですか…世も末ですねぇ。。