守衛との交渉
「はい。次は…うん?子供と、なんだその魔物は?!」
「魔物ー?!ボクは妖精だぞー!」
「どちらも同じようなものだろう!と言うより喋れるのか、魔物の分際で。」
「なんだとー!大体ここの聖女が変なー結界貼ってるから魔物入ってこれないだろー!」
「変なとは失礼な。聖女様はこの街を守るため魔力を注いでくださっているのだ!不敬罪として…」
「え、えっと…その、聖女様に会わせて欲しいです!」
「は?」
守衛が眉を潜めた。
「お前まだ子供だよな。しかも聖女様を罵倒した魔物を連れたお前が聖女様に会えるとでも?」
「フェンリル様が会いたいって言ってるの!お姉ちゃんが死んじゃうの!だから…聖女様に会わせて!」
シュウは守衛の圧による恐怖から、抑えていた感情任せに言葉を発してしまったようである。そしてフェンリルと言う言葉は全員に刺さるのであった。
「フェンリル様…だと?」
「そう、フェンリル様!お姉ちゃんと一緒に待ってる!」
「待ってる?」
「だから言ってるじゃんー!ここの結界が原因で魔物は近寄れないってー。フェンリルも例外じゃないよー。既にこの街はフェンリルに喧嘩吹っ掛けてるんだよー。まあ、ボクは他人事だしー、この街吹っ飛ぼうが興味ないけどー。」
「………」
「あー、おまけだけどー…フェンリルの行動を今マイお姉ちゃんが抑えてるんだよー。放っておいたら…いいや、シュウお兄ちゃんー、行こうーこの街はダメだってーフェンリルに伝えよー。」
最終的にアースは嘘はついていないが、第三者が聞いたら間違いなく誤解されるように対応していた。アースは帰ろうと飛び去ろうとする。
「あ、アースちゃん。そんなことしたらフェンリル様が怒っちゃう!」
シュウの言い分は聖女を連れていかないと怒られるなのであるが…守衛は怒るはおろかこの街もろとも皆破壊されると勘違いしたようである。
「ちょっと待っていろ。聖女様に言伝てを飛ばす。念のためだが本当にフェンリル様がいらっしゃっているのだろうな?嘘をついたら…」
「わざわざそんな嘘にー妖精が付き合うとでもー思ってるのー?」
アースはマイとフェンリルとのイベントが面白そうだったからーのはずなのであるが、見方を変えれば普段人間の前に姿を出すはずもない妖精が警告しに来ているわけである。嘘とは囚われにくいのであった。かくして暫く2人は守衛の外で待つことになった。
「よーしー。とりあえず聖女って言う人間は引っ張ってこれそうだねー。」
「一時はどうなるかと思ったよ…捕まっちゃうかと思った…。」
「シュウお兄ちゃんビビってたー。」
アースはケラケラ笑っていた。シュウは逆に萎れてしまった。こう言うときマイならフォローに走るのであるが、アースはシュウへの扱い方を知らないのである。
「ま、あのフェンリルー予想以上に大人しいからー助かってるんだけどねー。」
「アースちゃん。」
「うんー?」
「お姉ちゃん、大丈夫だよね。」
「うーん、体調不良の原因が結界ならー平気じゃないー?結界に近付かなきゃ良いだけでしょー。」
「う、うん…だけどお姉ちゃん無理してるかも…」
「それはいつものことだからー気にしない気にしない気にしないー。どうしても気になるならーそれこそ、その聖女って奴に見てもらえばー?」
「聖女様に?」
「そうそうー。あれでしょー。治癒魔法凄いんでしょー。」
「あ…そうだね。聞いてみようかな。」
『聖女は魔物を駆逐している。』そのような情報にさらされまくっているマイにとって聖女は危険生物なのであるが…その認識はまだ2人には弱いようであった。