倒れた「花」と子供達の決断
「お、お姉ちゃん?!しっかり!!」
慌ててシュウ君が私の傍に駆けつく。私は呼吸が荒い。
「く……ムリ……」
「おいフェンリル!マイお姉ちゃん無茶しちゃってんじゃん!マイお姉ちゃんおかしくさせたら許さないぞ!!」
アースはキレたのか、いつものフワフワーっとした口調ではなくなっていた。
「おい、嬢ちゃん。大丈夫か?」
見かねたのか。街道を歩いていた男性2人が声をかけてきた。私は帽子と服さえ来てしまえば第一印象は女の子なのである。スカートは葉っぱで着飾っていると言うニュアンスにはなるが。
「この先には教国がある。聖女様もいるらしいし、そこまで歩けるか?」
私は動く力を使って男性から逃げようと心掛ける。聖女と言うワードにとんでもなく敏感になっていた。植物から散々聖女イコール魔物を容赦なく殺すと言われ、今も聖女の結界でこうなっているのである。関わったら死ぬ。理性も本能も同じ思考回路になっていた。
「どうした?」
もう一人の男性が私に近付こうとしてシュウ君が叫んだ。
「ダメ!今お姉ちゃんに触っちゃダメ!」
「え?」
男性は立ち止まる。現状マイの警戒度はドンドン上がっている。微震動で爆発する爆弾のように。
「アースちゃん。お姉ちゃんどうしよう…。」
「えー、うーんーいきなり言われてもなー。フェンリル、なんとか言えよー。」
かく言うフェンリルももう余裕がないのである。マイみたいに倒れたりはしていないが…唸り声をあげた。
「ふぇ、フェンリル様なのですか?!」
通行人2人は驚き逃げていった。フェンリルとは神獣。ハンターレベルでSクラス。天災を発生させる魔物と言われることもある。会ったら逃げるが合理的なのであった。
「うーんー、ここにいたら目立つなぁー。よし、向こうに木陰があるよー。皆ーそっちへ行こうー。」
マイとフェンリルが機能停止した今、2人の運命はシュウとアースにかけられた。フェンリルは頷き、木々がお生い茂っている方へ向かう。
「お姉ちゃん?立てそう?」
「う…が…なんとか…」
私はシュウ君に肩を貸してもらいながら脇道に逸れていく。昔は私がほぼ100シュウ君のサポートであったが…最近はシュウ君も私のテイマーらしく成長していた。
「はぁ…はぁ…横に…ならせ…て。」
木々がある場所まで移動した後…私は右を下にして寝転ぶ。私の息も荒い。
「どうしよう。」
シュウ君は10歳と言う若さでありながら、従魔のマイを何とかしたいと頭をフル回転させていた。いや、厳密に言えば全員結界から離れればお仕舞いなのだが…誰も焦りでそれどころの案が出なかったのである。
「うむ…。我もこれ以上は進めぬ…。仕方がない…人間と妖精よ…聖女を連れてこい。行けぬなら来てもらうしかあるまい…。」
流石に1000kmの距離を歩いてこいとかなら無茶だが…植物情報で結界まで500m程度。その後1km足らずで教国である。不可能ではない。
「そっちはどうするのー。今襲われたら死ぬんじゃないー?」
現状戦えるキャラがアース以外いない。
「いや…我は辛いが…そこら辺の奴らなら問題はない…。」
フェンリル様はSランクの魔物。取り分けここまでハンディがあっても人間や魔物が出てきたら殺り合えるらしい。
『姫様。その男の子1人で教国へ行かせるのは宜しくないかと思います。結界の中は確かに魔物はいませんが…人間に対処出来なければ意味がありません。』
『盗賊なんかより、内部の人間が何かやらかさないかの方だな。子供1人だとな。』
植物達はどうやら私がシュウ君を心配していることを悟ったらしい。まあ、マイが小声で「シュウ君1人は危険、シュウ君1人は止めて」とか呟いているのが原因だろうが…。自分の身を案じろと直近も何処かの雄花に言われているはずなのだが…学ぶ気はないようである。
「うーん、じゃあまあ…シュウお兄ちゃんー。早くその聖女って言う女連れてこようぜー。マイお姉ちゃんが死なない内にさー。フェンリルも信用置けないしー。」
「う…うん。フェンリルさん。お姉ちゃん任せて大丈夫ですか。お姉ちゃんは僕の大切な友達だから…。」
「友達か…お前らの考えは良く分からんが…食ったりはしないことは約束する…。寧ろ、我も辛い…早急に聖女を連れてこい…。」
(聖女か…私…殺されない…離れる…?)
私はツルが一応機能していることは把握する。最終手段はいくらか設けるか…と瀕死の体で植物と策を練り始めていた。その中で1点警告が来た。
『姫様。1点宜しいですか。』
「うん…。」
『聖女の結界が妖精にどう影響をもたらすか分かりません。そこの子供は妖精です。警戒させておいた方が宜しいかと。』
「警戒…?」
『そうじゃな。他の植物から聞いたが魔物が結界の中に入ると浄化されるとのことじゃ。魔物自体を連れていけば何処に結界があるか分かるとは思うがの。』
『何処にそんな自殺願望を見出だしたバカがいるのよおっさん!』
最後は喧嘩になっていたが…私はある決断をした。私は自分のスカートに生えている葉っぱを1枚引っこ抜く。人間換算で表面上の葉っぱであれば髪の毛を引っこ抜く程度なのである。奥の葉っぱになるに従い…爪を剥がすと言うレベルになるとは思うが…そして取った葉っぱをシュウ君に渡した。
「シュウ君…これ…」
「うん?葉っぱ?」
「私の…スカートの…。いい…これを前に…出しながら…歩いて…。結界に…触れたら…どうなるか分…からないけ…ど、教えてくれる…はず…。アースは妖精…だから…葉っぱに反応…合ったら…気を…付けて。」
「えっと…」
「要はー、シュウお兄ちゃんがーそれをかざしながら歩けば良いんだよねー。」
「うん…」
どっちも明確な理由は分かっていなさそうだが…ちゃんと説明をする力が体力的にも能力的にもなかった私であった。とのことで10歳の男の子と見かけ4歳の女の子がパーティーを離脱した。
「お前は…植物の声が聞こえるのだよな?」
「は…はい…」
「何かあれば知らせよ…。今の状態で我の探知魔法維持は辛い…。」
「わ…分かり…ました。」
「我の体を貸そう…。地面に横たわるより…我に横たわっていた方が…良かろう。」
「あ、ありがとう…ございます…。」
かくして魔物2匹は残り2人に全てを委ねるのだった。