襲いかかる不調
「さて、どうするか。お前らの住みかに行く時は我は堂々と歩いていたが。」
「回りの人間皆ビックリしていましたよ。まあ、デレナール領は従魔が多い領土です。襲ってこないのであれば全員素通りと言うのが成立していますけど。」
これはこれで良いのか微妙なデレナール領である。
「取り敢えずこのまま進むか。確か彼処の街道を道のりだったな。」
「はい。結界がどこら辺から生えていたりどこら辺から影響があるのか分からないので注意した方が良いと思います。」
植物の情報で大体の距離は分かるが…私の感覚問題であり、言葉で相手に伝えるのは難しい。23kmと急に言われても何処かは分からないだろう。それと同じである。予めだが23km先ではない。もっと遠い。
「お姉ちゃん。結界ってどう言うものなの?」
「うーん…分からないのよ。植物の情報によると結界を貼られた直後魔物…まあ、私で良いわ…は一瞬で消滅したとのこと。後、その後…何故かどの魔物も結界の方向にいくと勝手に向きを変更して別の方向へ向かっちゃうんだって。」
「洗脳魔法か?うむ。予め防衛魔法を貼っておくか。」
相変わらず私達3人はフェンリル様の背中なり横にくっついて移動中である。たまに人を見かけるが…こっちの速度が早すぎて向こうも見ている余裕がないだろう。最も街道ど真ん中を走ると人がいると交通事故なので草原があったりするとそっちを走っている。その時であればなんか良く分からない狼が生き物を連れて走っていることは見えるかもしれない。
「洗脳魔法…」
シュウ君が呟いた。彼はこの魔法が原因でマイを大怪我させたことがある。掘り返してしまったらしい。
「フェンリル様は洗脳魔法ご存じなのですか?」
街道が近いからかフェンリル様は速度を落としている。私にもしゃべる余裕があった。
「聞いたことはあるが…使うことは出来ない。寧ろ使える輩は颯爽処分することを進める。今回もあくまで異常耐性魔法で対応する予定だ。弱い異常魔法ならば対応できる。」
弱いと行ってもフェンリル様基準であるが。それは考えないで置こう。それより今の話を聞く限り、やはり魔女は神獣からも敵認定されるようである。アユミさんが隠れて生活しているのも頷けた。
(と言うより、洗脳魔法なら聖女の結界なのだから聖女を処分と言うことになる?)
私は別の思考回路が走っていたが…残念ながら聖女も洗脳魔法は使えなかった。闇魔法、或いは黒魔法である。魔女等が使う魔法である。
「後どれぐらいー。飽きてきたー。」
アースは相変わらずの自由である。数日前までフェンリルイコール危険と言う行動をしていた妖精とは思えない発言であった。
「小娘よ。あと、どれぐらいなのだ。」
「えーっと…うーん、早く移動しすぎて植物達の声が…うん?」
その時私は体に違和感が走ったのが分かった。本能が言っている。それ以上行くな、引き返せと。
「ふぇ、フェンリル様…すいませ…ん。止まってくだ…さい。」
「お姉ちゃん?どうしたの?」
私の発言に怯えか体調不良か…そう言ったニュアンスを察知したシュウ君が反応した。シュウ君は一番私と長く過ごしていることもあり私の体調に敏感である。いや、長く過ごしただけでは説明が付かないレベルでマイの体調に敏感であった。シュウ君はそう言う意味でも他人を避けているマイにとっては重要な存在であった。
「止まるのは構わんが。」
フェンリル様が速度を落とし止まる。ただ、フェンリル様とて急ブレーキは出来ない。それ故、私の体調は更に悪化した。
(く…頭痛…吐き気…何これ…)
私は若干息切れもしていることが分かった。心臓は無いはずなのだが…心臓があればかなりの早さで脈を打ってるはずである。
「お姉ちゃん?大丈夫?」
「マイお姉ちゃんー?顔色良くないよー?」
私は下唇を噛む。更に体調不良を察知したのは私だけではなかった。
「ふむ…そいつ程ではないが…我も何か違和感を覚えるな。異常耐性魔法はかかっているはずなのだが…。」
「植物の皆…結界まで後ど…れぐらい…」
『姫様?大丈夫ですか?』
『あー、後1km強か?姫様?魔物達は2km弱ぐらいで引き返しているぜ。既に何か悪影響が出ててもおかしくねえ。』
「そう…」
状況を全員に伝える。
「うーん、ボクは何も感じないよー。即ちボクは魔物より強いー!」
「僕も平気。」
「えー、じゃあシュウお兄ちゃんはフェンリルより強いのかー。」
そんなわけ無い。やはり結界は魔物だけに影響を与えている可能性がある。
「うむ…もう少し先へ行って良いか。結局先へ進まないことには聖女には会えぬ…。」
私が体調を崩し始めた方角と植物達が発言する『聖女はこっち』情報が完全一致なのである。不快だから撤収するは出来ないのであった。
「ゆ…ゆっくりで…私…耐えれるか…分からないので…」
『姫様。無理はなさらずに。』
『姫様、姫様を知る他の植物に言われてるぜ?時折自分より他人を優先してるってな。』
「いいの…やりたいこと、やるんだから…」
今のフェンリル道案内は私のやりたいことかと言われると故障臭い。私の目標はシュウ君と平凡な毎日を暮らすこと。シュウ君のお世話をすること。やりたいとやらなければならないがごっちゃになっている私である。
(まっず…マジで…きつい…これが…聖女の力…?)
進めば進むほど体調悪化は顕著になっていく。フェンリル様も担ぐのは止めて全員徒歩で街道を歩いているが…スピードは人間の徒歩より遅くなっている…私が原因で。道行く人がたまに追い越す。いや、フェンリル様がいなければ声かけもあり得た。しかし、フェンリル様は高さが一般男性より大きい…そして狼である。こんな道のど真ん中にいるだけでも警戒案件であるが…ハンター達がいるわけでもなく、そばにも人間の子供がいるので「多分平気だろう」からスルーになってしまっていた。
(あ…もう無理…)
私はその場で倒れた。更に吐き気が酷くそのまま吐いてしまった。出てきたものは液体だけだが…私は今まで口から体液を出したことがない。唾液はしらんが…。人間にとって有毒か無毒か分からないものである。




