現段階における一匹の雌花の影響力①
「ムサビーネ。どう言うことだ。」
「どうって言われても…フェンリルって言う神獣がシュウとマイを連れていくってなったこと以外何もないけど。」
リグルト・デレナール伯爵は妻と仕事部屋で話していた。
「現状まだアルビトラウネ共の課題も完結しているわけではない。もし万一何かが起きたら連絡手段はどうするのだ。」
アルビトラウネとはマイの魔物としての種族である。突然変異体となっているため造語としてアルラウネに近い魔物と言うことでつけられたものである。まあ、生態系は全然違うのだが、その辺りはマイの知る限りではケリンが一番よく知っているだろう。
「それは分かってるけど…流れ的に神獣は強制連行だったし…シュウの機転がなければ連れ去られてお仕舞いだったのだから…まだ帰ってくるだけマシよ。」
「ただ、話によると隣国なのだろう。更に一山越えるのだろう?ここの陛下と向こうとの関係は殆ど無かったはずだが…それ故それこそ万一があれば間違いなくマイの仲間がここに攻め混んでくる。その状況であの2人にフェンリルの全てを委ねると言うのか?」
マイがここへ来た当初、伯爵様自体は殆どマイに関心など無かった。妻の方は魔物オタクなので狙ってはいたが…いや、現在進行形ではあるが…。しかし、ここの領土の命運に新種の魔物、アルビトラウネが深く関わっているとなってくると…ここを収める長としてマイは物凄くキーパーソン…人ではないが…になってしまっているのである。
「だからまあ…シュウがアリアとも仲良さそうだし、学校で監視体制とも思っていたんだけど…フェンリルが来るなんて想定外よ。ハンターの話では天災級の魔物。私達の力でどうにか出来る魔物じゃないし。」
「それは分かっているが…昔、マイの仲間がここに来ただろう。彼らに今の状況を連絡出来ないのか。万一があったらそれこそ終わってしまうが…少なくとも連絡をすれば奴らも何か行動してくれるかもしれぬ。」
既にケリン達からは「マイに何かあればこの街を襲撃する」的な脅しは受けているのである。まあ、この街自体が魔物に対して実害がない限り共生出来る領土である…要は従魔に対し不当な扱いをする者は無に等しい。しかし、今回リグルト伯爵としての懸念点は…要はマイが隣国に行くことなのである。リグルト伯爵は知っている。ここレベルで魔物に甘い土地はないと。王都でさえも、白銀狼のシロをいれようとしたらあーだこーだあったのである。最悪出禁ではなく守衛によって問答無用で駆除される恐れさえあるのである。従魔としてマイは左手首にリストバンドのようなものを着けているが…その効力が魔物を確実的に守ってくれるのはここデレナール領だけなのであった。
「彼らなら植物を伝って連絡を送ることが可能でしょう。私が文章を考えるか、そこいらの執事にやらせるかは置いておいて取り敢えず連絡はしておくわ。…マイをフェンリルに預けたと言うだけでここを襲ってくるなんてことはないと思いたいわね。」
なお、当たり前だが…このような事象、デレナール伯爵家が動く云々の前に植物の情報経由でケリン達含む雄花へ情報は直行していた。勿論マイが雄花に直々に連絡などするわけがない。だが、フェンリルがマイこと雌花の方向へ行ったことは雌花を心配する植物経由で雄花へ行ってしまう。更に最近のマイの行動的に「こいつ放っておくと勝手に死にそうで怖いわ」と思っている雄花達はマイに気付かれないように前よりも頻繁に偵察をしているのである。植物達も雌花のマイに下手に刺激を与えないようにその事は伏せていた。その為、マイには雄花の情報は来ないが…雄花軍団の方では大問題になっていた。
「全く…ちょっとあの雌花問題児過ぎないか…」
ケリンは今は雌花を偵察する日程ではない。おじいさま木の側で愚痴っていた。なお、ケリンは推定年齢1600歳の雄花である。ただ、見掛け年齢は20歳より年上のお姉さんであった。雄花だから雄だが。本来、ケリンは当の昔におじいさま木から独立し1人生活である。ただ、雌花ことマイと一番交流がある雄花である。雄花の中では勝手に婚約第一候補として見られている。マイ本人は前世人間の時も恋愛なんて殆ど興味が無かったので今回も例外ではないのであるが…好き嫌いは置いておくにしてもマイを心配していた。その為、情報を入手次第…おじいさま木の元へ直行していたのであった。
『確かにあの雌花は不思議な雌花じゃの。カリンもそうじゃが…人間に対し敵対心を持ちながらも交流をしておる。今回に至ってはフェンリルというのは想定外じゃが…。』
「ケリン。どうするんだ?お前が護衛しに行くのか?」
「全く…マイの考えも全く分からん。いい加減雌花として自覚を持てと何度も言っているのだが…おじいさま?雌花ってあれが普通なのですか?…うん?護衛?」
愚痴が多すぎて他の雄花の声が入っていないらしい。
『雌花は本来森の奥の方で静かに過ごしていることが多いの。それ故、雄花が見つけることは至難の業になる。あの雌花みたくここまで森は愚か人里に交流する雌花などいるわけがないと思うのぉ。本来であればあれだけの未熟児が雄花に見つかるなんてことはありえぬし…だから、わしらが色々と振り回されているわけでもあるのじゃが。』
マイの雌花としての課題は3点。まずは前世人間であること。それ故、本来有り得ない人間との交流を実施してしまっている。2つ目はおばあちゃん木の喪失が早すぎたこと。でなければ、マイは名前すらなくまだ森の中だろう。そして3つ目は…警戒心が強すぎることである。本来、マイと同じような行動をしていれば何処かで確実的に死んでいる。実際、好奇心が強かったマイの妹のユイは好奇心が原因でおばあちゃん木の命令を無視している。その結果として、マイのもう1人の妹メイと共に未熟のまま森の中に入り共に殺されてしまったのである。しかし、マイは前世の虐めやら鬱やらが原因で警戒心が人一倍なのである。その為、植物達からの情報をドンドン掻き集める。前世はその情報が原因で行動出来ずパニックになっていたが…今世も変わらないが…前世とは違い、今世は木に登りさえすればほぼ全部解決出来てしまうのである。大抵のパニック原因が「命が狙われている」であるからである。それ以外の事象では何があっても死にはしない。日光浴さえしていれば生きれるからである。要はここまで雄花にとっては想定出来ないような活動的な雌花が生き延びてしまっているのであった。蛇足だが、マイ自体はそこまで活動的ではない。常に光合成をしてボーッと生きて行きたい魔物である。
なんか主人公のマイちゃん知らないうちに有名人になってません?おっかしいなぁ…こんなはずじゃなかったのに。。。