神獣の再来と正論の圧
「あら、シュウ。マイは?」
時間は幾日か前に遡る。某デレナール領の守衛前にはフェンリルを含め何人かが集まっていた。守衛は勿論いるが…。
「あ…えっと…多分向かっていると思う。」
フェンリルが始めてきてから翌日も来ることはほぼほぼ想定内だろう…例え後日と言う中途半端な日程であっても。その為、植物からの成果報告をするために来なければならない。ただ、フェンリルはマイの予想を超えて早く来てしまったのである。デレナール領にいる人々は来るのにそんなに時間はかからないが…マイは拠点からここまで歩いて1.5時間はかかる。更に、マイは植物の体の構造上走れない。要はマイだけ遅刻していた。
「変ね。昨日確か直ぐにマイが来れるようにしておけと私は言ったつもりなんだけど?」
「………」
シュウは黙る。シュウはムサビーネ伯爵夫人を恐れている。その怖さゆえ思考がパニックに成ってしまっていた。
「あー、あれだ。リールから聞いたぜ。マイは森の中で寝泊まりしねぇと体がまいっちまうみてえだ。だから、俺等が一緒に来る変わりにマイは森で寝てろって成ったわけだな。」
「あら、ご説明ありがとう。だったら、何故マイに早く起きて来いと言わないのかしら。その前にマイのテイマーなら、何故その事を今この場で自分で言えないのかしら?」
栄光のベイルさんがフォローしたが、夫人が跳ね返してしまった。空気は最悪であった。いや、ムサビーネ夫人が言うことは正論である。正論であるがゆえ誰も言い返せない。しかし、言い方と言うものがある。プラスでシュウは夫人を恐れ…マイがいるからある程度会話出来ると言う、若干マイ依存的なところがあるのである。シュウは悔し涙だろうか、鳴き声は出さなかったが涙を流していた。
「シュウ君、落ち着いて…ほら、深呼吸ースーハー。」
あまりに可哀想なので栄光のメリーさんがシュウのケアに回っていた。何時もならマイの仕事なのだが…肝心からめのマイはまだここへ向かっている最中…植物から何が起きているかはマイには届いているだろうが、マイは走れないので急いで来ることが出来ない。
「お前らのいざこざには興味はない。聖女についてこの人里には存在するのか…まずはそこを知りたい。」
「フェンリル様。我々の方でも調べましたが…現状デレナール領で強力な治癒魔法を使えそうな人物はいなかったようです。」
人間側の方が仲違いしているため、白銀狼のシロが、相手がフェンリルと言うこともあり丁寧に説明した。
「現状はか。可能性はあると言うことだな。」
「領民全員を調べるのは流石に主人の旦那の力を使っても無理かと。」
「主人の旦那?そやつは特別な力を持っていると言うのか?」
「いいえ。主人はここ、デレナール領の領主の妻なのです。つまり旦那が領主となります。まとめ役と考えていただければと。」
「そうか。であるならば全員を調べあげるまでここら辺に滞在するか。」
色んな人達から冷や汗が出たと思われる。魔物ランクS、一歩間違えれば街など一瞬で火の海に出来る魔物がそばをうろうろするのは誰でも嫌である。誰かがテイムしてしまえば早そうだが…話の流れ的にフェンリルは聖女を探している。テイム出来る可能性があるとすれば聖女のみであろう。
「で、結局ハンターの方は収穫ないの?」
「ああ。ギルマスにも聞いたのだが…魔術師の中で回復魔法を使えるやつは基本いない。大体ポージョンとかで皆対応しているし、いたら逆に引っ張り凧で目立つと言われた。時折、外部のハンターが神官を連れてくることもあるそうだが…聖女云々は聞いたことないそうだ。」
「そう。後はマイ待ちね。何かもって来るかしら。」
「マイちゃん探索系なら最強クラスの魔物だからね。期待出来る…と言うか、マイちゃん。お願い。何か持ってきて。」
栄光リーダーのリールさんが答えた後、ウィリーさんが半ば懇願する思いで最後は独り言をしゃべっていた。かく言うマイこと私は街道を転倒しない限りで高速で…要は徒歩と変わらないが…前へ進んでいた。アースも来ている。この妖精、人間嫌いな癖に人間に隠れて悪戯したり…魔物嫌いな癖に私に絡みに来たり、今回に至ってはフェンリル恐れているくせに何だかんだで今日は一緒に行くだの良く分からない性格であった。
「ったく…あのババア…また、シュウ君虐めたみたい。ねえアース。あのババアを手を出さずにしばき倒す方法無いかしら。」
「うーんー、人間に手を出さないでー倒すならー、足で蹴るとかー泥投げつけるとかーゴーレムで引くー。」
「手を出してるじゃない!」
「手は出してないよー。足や魔法ー。」
「そういう意味じゃない。」
私は155歳ぐらい、アースは2800歳以上なのだが…どっちが幼稚なのか良く分からない。いや、見かけ年齢が各々10歳と4歳の女の子なのでもっと良く分からないが…。斯くして現場で色々揉めたりするなかで…1時間弱遅刻してようやく私とアースは集合出来た。
この物語、時折正論合戦を繰り広げようと思います。そして読者には気付いて欲しいです。正論が如何に正しい意見であり…その上で、如何に簡単に相手を傷付けることが出来る言葉の暴力であると言うことを。。。




