人間社会の上下関係
「主人よ。どうするのだ。フェンリル様の実力は我を遥かに超える。この領土のハンターや兵士総勢でも無理だろう。我は聖女というのがよく分からんが…知っているのであれば引き渡した方が全員のためだぞ。フェンリル様自体も聖女にあったら殺すとかそう言う訳ではなさそうだしな。」
「そうね。ただ、聖女なんてこんな場所にいる訳ないじゃない。何かしら情報は得た?」
「いえ、伯爵夫人。まず聖女は治癒魔法含む白魔法を多彩に使いこなすと聞いたことがありますが…デレナール領にその様な者がいるとは思えません。…第一、この領土には教会がありません。仮に白魔法を使えるものがいたとしても、何処の誰だか判断が付きませんし…。」
夫人の問いに側にいた兵士が答えた。
「そっちは?」
「ハンターか?さあ。魔法を使えるハンター自体が少数派だからな。ただ、俺が知る限りだが…回復系統の魔法を使っている奴は知らないな。」
リールさんが答えた。やはり、魔女のアユミさんも回復魔法が使えないとか言っていたし…白魔法と言ったか、それを使える人間自体がレアなのかも知れない。
「マイは?何か分からないの本当に?」
「そう言われましても…植物達の技量次第です。」
私と言うより植物達が総勢で探している。一歩間違えればこの街は吹っ飛ぶ。そうすれば、ここに住んでいるシュウ君の命も危ない。情報を隠蔽するつもりは無かった。
「とりあえず、この件は旦那に持ち帰るわ。明日、いつフェンリルが来るか分からないけど…守衛は警戒を劣らずに来たら速攻でハンターギルドへ連絡しなさい。シュウ、貴方は従魔に極力いつでもここに来れるようにしておきなさい。貴方一人では何も出来ないでしょ。」
ムサビーネ夫人は誰の反論も受け付けぬと言ったばっかりに、馬車に乗り込み立ち去っていってしまった。
(この暴君が…)
他がどうしようが知ったこっちゃないが…シュウ君へ命令すると言うことは従魔の私は下請けで仕事が増えるのである。大迷惑であった。
「お姉ちゃん…明日も直ぐここに来れる?」
「うーん、知っていると思うけど…私の拠点からここまで1時間半ぐらいかかるわよ。シュウ君が言う直ぐが5分なら無理。」
「いっつも思うけどさー、何であの伯母さんあんな偉そうなのー。」
「貴族だからね。人間って上下面倒臭いのよ。」
「ふーん、変なのー。」
魔物の私や妖精のアースなど…そんな上下関係有るわけがない。あるのは弱肉強食のみ。自由であるがゆえ全部自己責任。人間社会は上下があり役割分担があるからこそ、安全が担保されると言うメリットもあるが…悪用されると前世の私のように鬱になってしまう。アースが人間社会を理解出来ないのと同じように私は違った意味で人間社会を恨んでいたりした。
「シュウ、マイについてはどうするのだ?」
リールさんがシュウ君に聞いてきた。
「うーん…お姉ちゃんは森の中じゃないと生きていけないから、出来れば森で待機にしたい。お姉ちゃんの無理した顔はあまり見たくないから…。」
「マイお姉ちゃんー?いつも無理してるのー?」
「え…うーん…どうだろう…。」
私は何だかんだでごり押してしまうことがある。それ故、光合成不足やら栄養不足や何やらで顔色を悪くしているときはあるかもしれないが…どうやら長年の付き合いであるテイマーにはバレバレみたいであった。
「よし。まあ、今日は緊急だったから俺しか来れなかったが…今日、栄光は休暇にしていて俺以外の奴らギルドにいなかったからな…明日は俺らがいつでも出れるようにしとくからマイは森で待機で良いんじゃないか?」
「はぁ…まあ…シュウ君全任せだと、私の心臓が持たないし…心臓無さそうだけど…いつも街に来る時間までには来るようにするわ。アースはどうする?」
「うーん、フェンリルが戦う気がないなら来ようかなぁー。聖女って見てみたいー。人間なら悪戯してみても面白いかもー。」
「貴女は人間嫌いの癖に悪戯は止めないのね…。」
こうして今日は解散になった。アースは来るときフェンリル問題で悪戯どころではなかったため…帰りの時、通行人を見かけては悪戯をすると言ういつもの駄妖精に戻っていた。どうしようもないのであった。
個人的、主人公は確かに主人公ですが…世界の中心にいて欲しく無いのです。と言うより、世の中の全ての人々は自分が主人公の世界であるものの世界の中心にはいません。なので、マイちゃんの立ち位置もそんな感じに運用しています。




